CHANEL
CHANELという絶対宇宙
マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)は「光あれ」と告げた。すると光が灯り、いくつもの輝きがステージを包み込む。その正体は、ブレイジーのCHANEL(シャネル)デビューコレクションのステージを回る惑星型バルーン。そして全体を照らすのは、巨大な「太陽」。この演出が示すのは、ほかのブランドが世界を築こうとする中で、CHANELは既に「ひとつの宇宙」を成していることだ。
ブレイジーのCHANELデビューは、写真家カール・ハブ(Karl Hab)が『HIGHSNOBIETY』のために独占撮影。ビッグバンのような劇的な瞬間ではなく、まるで宇宙がブラックホールの中へとたたみ込まれていくように、拡張し続ける境界を静かに映し出している。もう少し具体的に言えば、10月6日に発表されたCHANEL 2026年春夏コレクションは、過去との対話を保ちながら、メゾンの未来を描き出している。ショーノートに記されたブレイジーの言葉――「CHANELといえば愛。…私はそこにこそ、美しさを見いだします。時間や空間が存在しない、自由の概念」――は、一見すると天体物理学の講義のようだが、実際はもっとシンプルだ。新しいCHANELは、ココ・シャネル(Coco Chanel)が築いたCHANELの精神を受け継ぎつつ、ラグジュアリーに新たな視点をもたらしている。
© HIGHSNOBIETY / KARL HAB
これは喜ばしい変化だ。CHANELはファッション史における最も著名なブランドのひとつとして確固たる地位を築いてきたが、プレタポルテは長らく、ラグジュアリー界の重力圏から少し離れた場所に存在していた。CHANELは常に独自の軌道を描いてきたのだ。しかしブレイジーの手腕により、今やCHANELはファッションの最前線に導かれている。
ここで披露された77のルックは、一つ一つが際立った存在感を持つ。親しみやすさと憧れ、その間にあるグレーゾーンを自在に操るブレイジーの感性が息づいており、BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)時代に磨かれたその手腕が見て取れる。
© HIGHSNOBIETY / KARL HAB
CHANELの元アーティスティック・ディレクター、ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)が築いたクラシックなラグジュアリーとは対照的に、ブレイジーのヴィジョンはより感覚的で力強い。2026年春夏コレクションは、堂々たるコートや、さりげなく「CHANEL」と刺繍されたゆったりシャツに象徴されるように、近年で最もリアルに着こなせるCHANELだろう。しかし同時に、ここまで実験的なCHANELも久しい。ブレイジーは、メゾンの代名詞であるツイードスーツを薄手のクロシェ編みやフリンジへと大胆に変貌させた。もはやこれはひとつの「CHANELの世界」ではなく、可能性が無限に広がる「CHANELの多元宇宙」だ。

ショー序盤、ブレイジーはココ・シャネルのミューズであり恋人でもあったボーイ・カペル(Boy Capel)のメンズワードローブを覆す、クロップド丈のシャープなテーラリングを披露。その後、ココの名言「仕事の時間と愛の時間があるだけ。ほかの時間はない」を引用し、羽根をふんだんにあしらったトレンチコートや、使い込まれた風合いでほぼ逆さまになった「2.55」ハンドバッグによって、プロフェッショナリズムと遊び心を融合させた。ココが愛した直線的シルエットは、時折ボリュームのあるドレープに広がる洗練されたセパレートによって支えられ、そのクリーンなラインからは、一瞬ではどれだけの生地が使われているか把握できないほどだ。同様に、CHANELのトレードマークであるキャップトゥシューズは、ヒールになっても存在感を失わず、真ん中で分割されたりキャップとヒールだけになっても、ツートンの意匠は崩れない。
ブレイジーのCHANELは四次元に存在し、メゾンのあらゆる時代が重なり合い交錯する。モデルの頭上に浮かぶ惑星群のような壮大さを持ちながらも、2026年春夏コレクションはまとまりを保ち、CHANELのコードを現代的に更新している。まさに新たな天体、星々が凝縮した存在であり、その秩序や美しさを理解するのに、物理学の学位は必要ない。
- Words: Jake Silbert