流行が移ろう50年を生き抜いた、Carharttのアクティブジャケット。
アメリカのワークウェア、いや、ワークウェア全体をも定義してきたブランドとして、Carhartt(カーハート)に並ぶ存在はない。1886年ミシガン発のCarharttは、同業他社にはない手がけるものをことごとく成功へと導く “ミダスタッチ” を長年にわたり磨いてきた。ビブオーバーオールから、実用性の象徴として定着したタンカラーのダックキャンバスに至るまで、影響力のあるプロダクトは計り知れない。そして数ある名作の中でも、特筆すべき存在が「アクティブジャケット」だ。これまでに作られたジャケットの中でも、群を抜いてタイムレスな一着と言っていい。
2025年に50周年を迎えた今も、アクティブジャケットはかつてないほどの存在感を放っている。だが皮肉なことに、このジャケットが長年にわたって定番であり続けた理由は、逆説的にも、ほとんど変化してこなかったことにある。
Carharttは、幾度となく訪れるトレンドを生き延びてきた(勇気があれば「Carhartt bro」で検索してみるといい)。とりわけここ数年、そのタフなプロダクトは、話題性の高いコラボレーションを重ねながら、内輪的なファッションシーンを越え、文句なしにメインストリーム文化へと浸透していった。中でもCarharttのアクティブジャケットは、今や誰もが知るスター達の定番だ。最近の登場例を挙げるなら、A$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)はリアーナ(Rihanna)の妊娠発表の際にこれを着用し、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)やチャニング・テイタム(Channing Tatum)も日常のスナップでこの定番を頻繁に身につけている。そして特に象徴的なのが、2025年公開のロマンティック・コメディ『マテリアリスト 結婚の条件』でダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)が着用したことだ。クリス・エヴァンス(Chris Evans)演じる役が、寒さから守るために着古した一着を彼女に渡す。どうやら今の時代、とことん着込まれたアクティブジャケットほど、愛を表現するものはないらしい。
アクティブジャケットの50周年に合わせ、Carharttと、よりファッション寄りのサブレーベルであるCarhartt WIP(カーハート ダブリューアイピー)は、その盛り上がりに呼応するかたちで限定の記念カプセルを展開した。メインラインのCarharttがクラシックモデルを復刻する一方、Carhartt WIPはリバーシブル仕様の4タイプを制作。価格はCarharttとしては例外的に高額な398ドル、レザーモデルは1,690ドルに設定された。それでも、こうしたプレミアムなアクティブジャケットがほぼ完売している事実こそが、実直なブランドであるCarharttの揺るぎない評価を物語っている。定番のコットンダック仕様なら120ドル前後で今も簡単に手に入るのに、だ。記念仕様のパッチや刺繍を施した、より希少なレザーモデルでさえ、TikTok世代のCarharttラバーにとっては憧れの一着として十分に成立している。彼らこそが、アクティブジャケットの新時代を形作っているのだ。
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1994年に始動したCarhartt WIPは、Carharttをワークサイトからストリートウェアの中枢へと押し上げることに成功した存在だ。ただし、それは新たなムーブメントを生み出したというより、既に広がっていた潮流を巧みにすくい上げた結果でもあった。Carharttのプロダクトが持つ確かな品質と、気負いのない美しい佇まいは、はるか以前からファッションの文脈に支持されてきたからだ。その間も、デトロイトワークジャケットと並ぶブランドのアイコンであるアクティブジャケットのデザインは、1975年の登場以来、一度も変わっていない。
とはいえウエスト位置で切られた短めの着丈は、今振り返れば先見的なデザインだったと言える。体のバランスを美しく見せながら、現代の空気感にも驚くほどフィットしている。ゆとりのあるシルエットは、ワークウェアでありながらどこかカーディガンのような軽さも感じさせる。何度も着込まれ、擦れや傷、汚れが重なるほど、普段着としての愛着は深まっていく。状態のいい中古品なら、セカンドハンド市場で100ドル以下で手に入ることも珍しくない。一生着られる一着で、色褪せたダックキャンバスがその魅力をいっそう引き立てていく。一方で、ファンの間で “Active Jac” と呼ばれる、理想的な味わいの変化をまとった一着を探し出すこともできる。ただし、出来のいい個体は、ヴィンテージショップやeBayでは高値で取引されている。
そんな中、ヴィンテージのアクティブジャケットだけで一角を占めるショップも珍しくない。しかも評価されるのは、きれいな個体よりも、むしろ着込まれ、傷みのあるものだ。つまり、状態が荒れているほど価値が上がり、価格も跳ね上がる。だからこそ、ニューヨークの「Metropolis Vintage」のようなヴィンテージの聖地では、スタイリストや買い手達が、理想のフィットを求めて一着一着を真剣に見極めている。同店は80年代のオープン当初からアクティブジャケットを扱い続け、現在では市内屈指のヴィンテージCarharttの品揃えを誇る。顧客にはドレイク(Drake)や、あのA$AP Rockyの名も並ぶ。
「これは本当にそう思っていることですし、実際にお客さんにも伝えているんですが、市場がCarharttに歩み寄ってきたのであって、その逆ではありません」。そう語るのは、イギリスのセレクトショップ「The Forum」の共同オーナー、アンディ・ナイト(Andy Knight)だ。同店はCarhartt WIPを幅広く取り扱っている。「 “長く使える” というCarharttの思想は、良いものを選び、むやみに買わないという、今、そしてこれからの消費のあり方にぴったり合っています。だからこそ、このブランドはワークウェアの分野で事実上、世界的トップに立っているんだと思います」と彼は語る。
Carharttがカルチャーとして受け入れられてきた歴史は、既に数十年に及ぶ。「スケーターをやっていた90年代の頃、僕らがCarharttを着ていた理由は、とにかく丈夫だったからです」とナイトは振り返る。価格も手頃だった。だからこそ、2PAC(トゥパック)、イージー・イー(Eazy-E)、サイプレス・ヒル(Cypress Hill)などのラッパー達が好んで(身に)つけるようになると、そのスタイルはファンの間でも現実的に真似できるものとして広がっていった。1994年当時、街のバスに乗っていた人なら、その光景を覚えているはずだ。
そうした身近さが、Carharttの評価がハイエンドな領域へと広がることを妨げたわけではない。むしろ、その逆だ。VALENTINO(ヴァレンティノ)やBALENCIAGA(バレンシアガ)といったラグジュアリー界の大御所達は、近年のランウェイで、フード付きの構造や使い込まれたコットンキャンバスの質感に至るまで、Carharttを思わせるワークウェアを次々と提示してきた。一方で、sacai(サカイ)はCarhartt WIPとこれまでに3度コラボを行い、直近ではアクティブジャケットを再解釈した19種のカプセルコレクションを発表している。言ってしまえばCarharttは、エリート層とも肩を組みながら、同時にブルーカラーの原点も代弁できる、なんでもできる政治家のような立ち位置にいるのだ。
「Carharttの魅力は、その影響の届く範囲の広さにあります」と語るのは、アクティブジャケットの愛用者であり、NBAのクリス・ポール(Chris Paul)や俳優のウィンストン・デューク(Winston Duke)のスタイリストを務めるコートニー・メイズ(Courtney Mays)だ。「何より好きなのは、あのロゴが本当にあらゆる人のもとにあること。年齢も、住む場所も、職業も、アイデンティティも関係ない。排他的なところが全くないんです」
アクティブジャケットが人々に響くのは、まさにその点にある。「トレンドに合わせて姿を変えることなく、ルーツに忠実であり続けてきたからです」とメイズは言う。「ファッション全体が次の大きな流行を追い求める今、その一貫性が新鮮に感じられるんです」
その評価の理由について、ナイトは「デザインがDNAを保ち続けてきたこと」にあると語る。「Carharttのデザイン言語には、正直さがあります。タフで、どこか見慣れていて、一目でそれと分かります」とメイズは続ける。「その真正性と日常性のバランスこそが、タイムレスである理由。身構えさせたり、何かを演じさせたりしない。ただ、生活の中に自然と溶け込むんです」
揺るがないデザインがアクティブジャケットの魅力の核であることは言うまでもないが、その背景にはブランドとしての巧みな舵取りも大きく関わっている。ナイトが指摘するのは、Carharttの慎重なプロダクト管理だ。例えば、最も需要の高いアイテムを安易に大量流通させないこと。クールさは、行きわたりすぎた瞬間に失われてしまう。工場から出たばかりの硬いダック地のアクティブジャケットは、今もスポーツ用品店に並び続けている一方で、50周年記念のCarhartt WIPのような特別なモデルは、その名の通り本当に限られた存在として、意図的に限られた量のみが世に出る。そして『マテリアリスト 結婚の条件』でダコタ・ジョンソンが着ていたような、完璧に着込まれた一着は、探そうと思ってもなかなか出合えない。こうした積み重ねが、Carharttを止めがたい文化的存在へと押し上げてきた。その影響力は、若いブランドはもちろん、もっとラグジュアリーなレーベルでさえ、憧れることしかできないものだ。
「Carhartt WIPは、その術を完全に心得ていると思います」とナイトは言う。「きっと常に大きなオファーは舞い込んでいるはずですが、業界の中でどう見られ、どう扱われるかが、結果的に市場での持続性を左右することを分かっているんです。売り方には明確なロジックがあって、彼らはそれを完全に掴んでいるのです」
- Words: Paul Schrodt