世界に衝撃を与えた16歳、YOSHIに迫る
情熱の炎に包まれた少年は、周りを焼き尽くしそうなほど純粋に、衝動に身を任せる。常に自分の中の第三者の存在を感じながら。 あらゆる方向に挑戦を続け、ボーダーを超えていく表現者「YOSHI(ヨシ)」。 常識をすっかり変えてしまうかもしれない、可能性に満ちた多彩な16歳の今に迫る。
のちにファッション界に革命を起こす気鋭のデザイナー、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が偶然居合わせ1枚の写真がポストされた。とあるショップで起こったこの一瞬をきっかけに一夜にして世の中の視線を集めることとなったYOSHI。その後、ヘルムート・ラングやアンブッシュなどのモデルやランウェイをこなし、数々のラグジュアリーブランドのショーやパーティに参加していく。ファッションと音楽を愛した市井の13歳は、加速するソーシャルメディアの熱を翼へと昇華させ、自己表現のフィールドを広げる。3年後の今年6月にリリースしたファーストアルバム「SEX IS LIFE」の収録曲「CHERRY BOY」においては、全米とアジアが注目する気鋭のビデオプロダクション88 risingによるミュージックビデオを制作。さらに9月6日公開の映画「タロウのバカ」では、大森立嗣監督に見出され、未経験にもかかわらず菅田将暉、太賀とともに主演を果たした。著名人を親類に持つわけでもない。誰にやり方を聞いたわけでもない。ただ感覚で人生を爆走する16 歳。 変わり続ける若き表現者の現在を記録した。
——どのような家庭環境で育ったんですか?
よく聞かれるんですけど、オボッチャマでもなく一般的な家庭です。母は会社の部長、父は企業のプロダクトデザイナーですけど、 香港にいるときは乗馬騎手でした。その頃はお金あったみたい。
——この世界で生きていこうと決めたのはいつ頃ですか?
ヴァージルとの出合いから1年くらい経って、ここが自分の居場所なんだなって思ったんです。それまではファッションに単純に興味があっただけで、世の中に発信していこうと思ったことはなかったですけど、認めてくれる人もいるし、ここだったら自分の成果や才能をいちばん発揮できる場所なのかもしれないって。とにかく、 自分の世界がひとりのヴァージル・アブローというデザイナーに出合って完全に変わったんですよね。感謝しかないです。
——撮影中BGMに対してこの人とコラボしたい!と何度も言ったり、アイデアに溢れているんだと実感しました。やりたいことが明確ですよね
だから来るときはダイレクトだし、来るものもでかいと思うんですよ
——今回のコーディネイトは用意した衣装から手早く組み直しましたね。 カットごとに表現したいムードが明確だったのも印象的でした
最高でした。今までの撮影で一番楽しかった。カメラマンとの意思の疎通がすごくあったんです。スタイリングは家でもそうなんですが、ボトムスを選んだら後は大体わかります。僕は感覚しか働かないんですよ。だからいまはもうちょっと努力しないと(笑)
——スタイリングに見えるYOSHIらしさの根底はなんでしょう?
何かって聞かれるとわからないんですよね。自分の中に硬い芯はあるんですけど。ただ、最近たくさん人と会うんですけど、僕はうすっぺらいかどうかの人間論で人を見ているんです。どれだけ哲学的なものを感じるかどうかが、相手に共感できるかどうかなんです。これが正解かどうかわからないんですけれど。多分この感覚が一部YOSHIらしさかなって思います
——ソーシャルメディアをきっかけに知名度を上げた人は活動拠点が画一的になりがちですが、YOSHIさんはきちんとリアルとつながれてます
具現化できることが大事なんですよね。事務所に入ってチーム ができて、僕のアイデアを全力で具現化できる人たちがいること が、自分にとっていちばん大切なことです
——今のファッション界についてどう思いますか?
今ははっきり言ってかっこよくはないかなって思っちゃうんですよね 。 東京コレクションも、超有名なハリウッドセレブが来るわけじゃないし、一般人が入れちゃうのもどうなのかなって。もっとなんかできたらなって思いますね。日本のファッションシーンを盛り上げたいです。僕はUSとかハリウッドの一番お金が稼げる場所と日本のリンクをしたいですよね。今後もメインは海外ですけど。
——海外を活動拠点にしたいと。外国の方が好き?
というか、外国人のノリが一番合うんですよね。事務所の社長がジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)やマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)を超えられる存在になれるかもしれないって言ってくれるんです。アジア人でジャスティン・ビーバーより有名になったことのある人はいないじゃないですか。だからそのレベルに初めて日本人で行くのは僕なのかなと思っています。僕は、目的にゴール地点はなくてそれは常に更新していかなきゃいけないものだと思っています。僕は今自由にやりながら、新しい型を作っているんです。その軌道にティーンエイジャーが続いてほしい。そのレベルに日本人も立てるってことを証明したいんです。それがハタチぐらいに叶っていればいいなというのが今の僕の理想なんです。だからまずはヒットして、そこがスタート地点です。
——ペインティングでは何を描いているんですか?
思いつくままに描いてます。アートについてよく調べてみたら、正解ないなって。結局、賛否両論の世界じゃないですか。誰かが3億で買うって言ったら3億の値がつく、それって面白いなって。
——現代アートについてどう考えますか?
僕は落書きみたいなものが描きたかったんです。周りにもすごく言われるんですけど、アートは勉強が必要だって。でも正直、そこで勉強したら意味ないと思うんですよ。それは誰がなんと言おうと アートなので自分の勝手だと思ってるんですけど。人間には誰にでもセンスがあるんです、絶対に。そのセンスを誰にでもできる 「勉強」という形で変えてしまったら意味がない。論理的に語る人もいます けど、結局好きか嫌いかです。感覚的でいいじゃないですか。
——アルバム『SEX IS LIFE』をリリースしました。 音楽活動を始めたのはいつですか?
去年の5月です。5月18日が初めてのレコーディングでした。事務所に入る前で、最終的にアルバムを作ったプロデューサーのマッ ト・キャブと、スタジオ入って曲作ってみようか、とノリで始めたんです。リリースも考えてなかったけど、やってみたら爆発しました。
——どのように制作をしてますか?
テーマは俺が作って、リリックは一緒に、曲は全部マットが作ってます。でも作り方をちょっと変えたいなって思っていて。というのもTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.の宮下さんは、ファッションのテーマを決めずに感覚でジャジャジャジャって描いて、 チームに共有して、できてからテーマを決めるって言ってたことを思い出して。アートって感覚的に自由にやってるじゃないですか。 音楽でテーマを決めるっていうことは、その時点で型に括られてるのと同じなんですよね、僕にとっては。今度は後からつけ足すっていう 方向をやってみたいですね。
——「CHERRY BOY」のように衝動をそのままぶち込んだような攻撃的な楽曲があり、R&Bのリズムに乗った美しくて優しい楽曲もあり。ジャンルも多岐にわたるアルバムに仕上がっています。
完全にジャンルレスですね。コンセプトもなかったです。アルバム全体がひとつの映画みたいな感じなんです。「タロウのバカ」の 大森監督が言ってたんですが、今回の映画は、現代社会が発展した結果、人間が原点回帰した時に生命的な何かを忘れているんじゃないか、というのを伝えたかったらしいんです。それは僕の音楽もそうじゃないかなって。僕の音楽を通して新しい部分につな がっていくというか。ただ、コンセプトについて頭では共感できるんですが言葉にするのはすごく難しくて。
——ただ、自分がやりたいように生きたいという衝動的な自分と、人生を俯瞰で見ている感じが並走しているのが特徴的だと感じました。
第三者目線が発達してるんです。客観的に見るのが得意なのかもしれない。
——自分を鼓舞しながら他人を挑発している感じでしょうか。同世代に対して思うことは?
ついてきてほしいですね。周りに合わせてたらめんどくさいで しょ。同世代はもっとカルチャーに触れないとダメですよ。ファッションもそうだし。現代社会って進みすぎると、人間の欲って減っていくんですよね。お金を使わない社会になっていくじゃないですか。それって生きてる意味あんの?って思っちゃうんですよね。僕は18歳になったらランボルギーニが欲しい。マクラーレン派なんですけど。そういうのを忘れてほしくないですよね、つまんないし、自分のテーマってどこにあるの?って。ちょっとビンテージな心を 持っている方がこの社会は生きやすいのかなって。アナログなやり方のほうが今後成功する鍵だと思うんです。
——「タロウのバカ」では、映画初主演を果たしました。退廃的で狂気的なムードが90年代のオルタナティブシーンに蔓延していた湿度と重なる部分を感じました。監督が書き下ろした時代性も影響しているかもしれないですが、現代の社会問題をえぐり、青春やどこかにありそう な設定を通して問題提起する作品です。あの大森監督がデビュー作にしたかったほど思い入れがある妙作の主人公。YOSHIに会うなり「タロウがいた!」と言わしめた、お二人が出会うタイミングも奇跡的です。 初挑戦で「本能がそのままリアクションするような感覚でいるようにした」とか?
監督はどうしろとか言わなくて。「とにかく感覚でお前が思うタロウを演じろって」言われて、それで僕は100%理解できたんですよね。最初は心配だったけど、ワンカット目で「俺いける」って。
——映画の評論そのものと、演者としての自分の評価。たくさんの視点にさらされますが、気になりますか?
結果、僕たちは演者じゃないですか。いくらでも世の中に仕掛けることはできるけれど、最終的に決めるのは第三者。別に出演者がどうとかじゃなくて、観てどう思うかが一番大事だと思ってるんです。ただ俺の映画って言える映画だと思うんで、気にはなりますね。
——エクストリームなキャラクターですが、完成したものを観てどうでしたか?
さみしいんですよね、タロウはものすごく。さみしくて一人じゃ 何もできないっていうのがタロウの現実。観てすっきりする映画でもないし、すげぇモヤつく映画だけど、作品を通して何かに気づければいいんじゃないかなと思う。どうしたらいいのか、何がいいのか、 頭の隅に置いておいて、いつも考えるための映画なんじゃないかな。
——日常のどのような部分で危機感を感じますか?
現代の人って感覚が鈍っていて的確に捉えられてないんですよね。自分がどこに行っていいのか分かんなくなってる。でも、どんどん洗脳されていくことに危機感を覚えている人もいます。世の中のことをどれだけ理解できるか、ここを直した方がいいんじゃない かということをすぐに取り入れる柔軟性がある人が、これから先に行けるんじゃないかな。
——自身の影響力を今後どのように世の中にいかしたいですか?
まず YOSHI を知ってもらって、物騒な世の中じゃなくて、この人が作り上げてくれた世の中っていいなって言われるような人になりたいなって。それを素直に言葉にできる人って素敵だなって思うんです。だからこうやって現実的にやってるし、叶えられると思うんで頑張るしかないです。「今この瞬間、このひとときに全力を注ぐ」。僕はそれを軸にして生きてます。
- Photography: Mitsuo Okamoto
- Styling: Tatsuya Shimada
- Grooming: Seiya Ota
- Editor&Production: Yuka Sone Sato