ストックホルム発、新進気鋭のジュエリーブランド「All Blues」の軌跡
先日DOVER STREET MARKET GINZAで開催された、国内外のデザイナーやアーティストが集結する「OPEN HOUSE」にブースを出展し、フロア売り上げトップに食い込んだ、ストックホルム発ジュエリーブランド「All Blues(オール ブルース)」。
リサイクルシルバーを使用した彫刻的でアートピースのようなジュエリーは、スウェーデンを象徴するものからユーモアの溢れるものまで様々。プロジェクトごとに姿を変えるシンプルでプレイフルなAll Bluesを、モダンで革新的なジュエリーブランドにしていきたいと意気込むのは、創設者の一人、ジェイコブ・スカラッゲ(Jacob Skragge)。来年の10周年に向けて躍進を続けるAll Bluesの軌跡を語ってくれた。
——「All Blues」のはじまり、名前の由来を教えてください。
僕とフレデリックの二人で立ち上げた「All Blues」の由来は、僕たちが好きだったブルースミュージックから。19歳の頃に、夢を語り合いながら、スケッチをしていたキッチンで流れていた音楽なんだ。
ファッションやジュエリーの教育を受けたわけもなく、ファミリービジネスをしていたわけでもない、そんな僕たちだけれど、モダンで革新的なジュエリーブランドにしたいと思っている。例えば、2016年末に日本でローンチした「Ruined Omlet」のプロジェクトでは、ある朝フレドリックが落とした卵からスタートして、ストックホルムでミシュラン1つ星を持っているレストランのヘッドシェフのステファノ・カテナッチ(Stefano Catenacci)にコンタクトをしてオムレツのレシピを考えてもらったんだ。ホワイトトリュフやパルメザンなど、レシピブックをストックホルムのレストランで撮影して、ルックブックに落とし込んだ。
商品だけではなく、商品に関わる人や物についてもね。オフィスから30分ほど離れたところにある、3代続くストックホルムの金細職人と一緒に、制作における全ての過程をストックホルムで行っているんだ。当初は、いい職人を見つけたと思っていたんだけれど、今では昔から続くスウェーデンの金細工の技術を守ることにつながっている。アジアの工場に発注するところも多いからね。ジュエリーだけでなく、そのほかの業界でもそうだと思うけれど、古くから伝わる良き、深い知識を残していかないといけない。
——共同創設者のフレデリックとの出会いは?
フレデリックは1歳年下で、僕の弟と同い年で、高校で出会ったときからグラフィックやファッション、音楽趣味が合って、ピンと来たんだ。何か一緒にしたいという思いはあったのだけれど、ジュエリーブランドとして始まったのは偶然だった。
——All Bluesの原点となるジュエリーはどのようなものでしたか?
メンズジュエリーからスタートしたのだけれど、最初は革や大きな石などいろいろな素材を試していた。試作を繰り返すうちに、今の金細工に出会って、シルバーのみにフォーカスするようになった。それで出来上がったのが、2012年に誕生したブレスレットコレクション。
——中にはゴールドのものもありますよね?
前は18Kのゴールドでも作っていたのだけれど、値段も張ってしまうからね。完全オーダーメイドとして受け付けているのと、今あるゴールドのものは金メッキを施している。
——リサイクルシルバーを使用していると伺いました。
最近ではファッション業界で問題になっている、売れ残りを燃やして廃棄すること。これをなくすために、また溶かして使えるシルバーを使用しているんだ。制作過程でも、職人が削り落とす部分を廃棄せずに、エプロンにためて、溶かして再利用している。
——ジュエリーピースというよりも、アートピース、彫刻作品のように見えますね。
そこに気づいてもらえて嬉しいよ。スウェーデンの奇岩群の「Rauk(ラウク)」をモチーフにしている。僕の祖父の出身地、ゴトランド島にサマーハウスがあって、海岸にラウクが見えるんだ。それをジュエリーで表現したかった。
そのほかの「Hungry Snake(やせ細ったヘビ)」や「Fat Snake(太ったヘビ)」のコレクションは、ユーモアを取り入れたかった。ラウクに関しては、直接的にインスピレーションを形にしているけれど、このように間接的な表現もある。日常どこにでもある個人的なことや突拍子も無いユーモアまで、いろんな刺激を「プロジェクト」として反映しているのが、ジュエリーよりもアートピースに見える質問の答えなのかもしれない。
「マリアンヌ」プロジェクトは知ってる? 祖母が亡くなった時に、37個の琥珀からなるネックレスをもらったんだ。生前に、「私の遺品が引き出しの奥に入れられて、忘れられたくないの」と言っていたから、それについてフレデリックと話し合って生まれたのが、37個の琥珀のイヤリング。それをオンラインで売って、オーストラリアのパースやノースカロライナ、パリ、ケープタウンなどの世界に散らばっていった。
非常に個人的なことも突拍子も無いユーモアも、うまくバランスをとりながら、今自分たちがどんな時代を生きて、どんな刺激を受けているのかを刻んでいくブランドなんだ。
——フレデリックと役割分担はしているのですか?
アイデアの持ち出しからデザインまで99%二人で一緒にしている。僕はビジネススクール出身で、どちらかというとビジネスの部分を見ている部分が多いけれど、基本的に商品は二人で作っている。
——Acne Studios(アクネ ストゥディオス)とのコラボレーションもされていますが、どういった経緯で?
Acne Studiosとのコラボは、僕達が大学を卒業する前のこと。クリエイティブディレクターのジョニー・ヨハンソン(Jonny Johansson)がどこかで僕たちの作品を見つけて気に入ってくれたみたいなんだ。翌週にはブランドのデザインチームとミーティングをして、サンプル制作を始めていた。2015年春夏コレクションがローンチする頃に、僕達は学校を卒業して、All Bluesに本腰を入れるようになった。
——5年後、10年後のブランドをどう見据えていますか?
みんなが夢見るような旗艦店をストックホルムにオープンさせて、その後は世界にという目標はあるけれど、きちんとした土壌を作って、しっかりと焦らずに進めていきたい。今年がブランド誕生から10年の節目だから、この次の10年は人生ほど長く感じている。でも、ジュエリー一本で進んでいこうと思っているよ。
問い合わせ先
エドストローム オフィス
TEL:03-6427-5901
allblues.se
- Photography: Mie Nishigori
- Interview: Yuki Uenaka