ハーストの血は争えない。気鋭のアーティスト、カシアス・ハーストとPRADAのパンクな二重奏
創り出すアートの話題は尽きない、最も影響力のある現代アーティストのひとりであろうダミアン・ハーストのパンクの心得を受け継いだのは、息子のカシアス・ハーストだ。
スケートボードに没頭したカシウスは、ボードにスプレーペイントを始め、父が大好きだったエアフォース1にスプレーペイントを施し、父の日にプレゼントをした。これを機にエアフォース1にペイントし続け、ヴァージル・アブローやエイサップ・ロッキー、プレイボーイ・カルティ、カニエ・ウェストなどのファッションシグニフィカントの目に留まり、一連のプロジェクトへと成長していく。
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カラフルにペイントされたエアフォース1は、シルエットは残れど全くの別物へと変貌。“破壊と再構築”とは言い飽きたが、カシアスはこれを“編集”と呼ぶ。
このカシアスのアイコニックな編集(パンク)とPRADAのパンクが邂逅する。カシアスとしては初となる商業的なコラボについての詳細と自身の芸術観について話を聞いた。
——ダミアン・ハーストさんを父に持ち、アートが身近にある環境で育ったカシアスさんにとってアートとは何ですか?
10代の頃に「アートなんて嫌いだ」という時期もありましたが、自分が好きなこと、楽しむこと全てがアートなんだと気づいたんです。絵を描くことよりも漠然としていて、何かをするという行いがアートである、と。昔はスケートボードばかりしていましたが、それがアートです。それは自身を表現することであり、試して、失敗して、学ぶということです。
——14歳の頃に父にエアフォースをペイントしてプレゼントしたことが、現在カシアスさんを代表するプロジェクトとなりました。このプロジェクトを自分のものとし、続けてきた理由について聞かせてください。
この2〜3年での実験的な試みが形作っています。技法を学び、模索することに多くを費やし、その技法をスニーカーに応用する際の最も効果的な方法を編み出しました。スニーカーをペイントしているときは無限にアイデアが溢れてきて、それを続けることが自身を表現するベストなあり方だと感じています。
——過去のインタビューでは、ゼロから作り出すタイプではなく、どちらかと言うと“(あるものを)編集する”タイプだと仰っていましたが、自身をアーティストと呼びますか?
アーティストであれば、いかようなかたちのアートを作り出せるから、アーティストだと思っています。誰かによってデザインされた物体にペイントをするので、“編集する”ことも関係ないというわけではありません。 本当に楽しいので、どんなものでもペイントしたいです。洋服や家具、乗り物だって。最近はゼロから創り出す世界にも興味がありますが、時間の消費が激しいので。
——今回のPRADAとのコラボについて、どのような経緯で始まったのでしょうか?
父が僕の作品の写真をミウッチャ(・プラダ)さんに送ったら、「素晴らしいですね。何かご一緒しましょう」と言ってくれたんです。父とイタリアに飛び、PRADAのスニーカー工場で2〜3シューズの型を選んだのが3年前くらいです。
「プラダ アメリカズカップ」というモデルのスニーカーは他のものとは全く違うので少し難しかったです。3Dデザインをしてみたり、スニーカーの中にスニーカーを入れてみたりしたのですが、どれもやりすぎで上手くいかなくて。結局44パターンをペイントしながら試行錯誤し、22パターンまで絞りました。
——クリエイティブプロセスについて聞かせてください。
とても長くゆっくりでしたが、楽しいものでした。色や形だけでも可能性だらけですから。
それぞれのスタイルへの変容をカラーレンジで表現しました。全てスプレーペイントです。子供の頃にスケートボードを手描きしようとしたら時間がかかってイライラしたんですが、スプレーペイントは早くてのめり込んだこともありました。
モデリングペーストを使ってテクスチャーも実験的に表現しました。スニーカーの表面を立体的に引き出すように形を変えています。
今回は初めての商業的なプロジェクトなので、バランスを見つけることが重要でした。手仕事が好きな僕にとっては、このスニーカーが商業的で堅苦しいものになってしまうのが怖かったんですが、PRADAの工場では実際に職人さんが手作業で制作し、職人さんとのコミュニケーションもできました。何よりもPRADAがアイデアやチャレンジにオープンで、時間を費やし、コミットしてくれたことがとても嬉しかったです。
——今回の「ATT4CK」「D3CAY」「SUST4IN」「REL3ASE」の4つのモデルについて詳しく聞かせてください。
ドラムマシーンやシンセサイザーを使ってエレクトロニックミュージックを自分で作るのですが、ADSR(Attack、Decay、Sustain、Release)というサウンドをコントロールできるパラメータがあります。それらは相互作用し、ときに矛盾することもあります。この美学をスニーカーに投影できると思ったんです。「SUST4IN」はこのシリーズの“ホールドポイント(途中経過)”のように、「ATT4CK」はパンチの効いたネオンのように“攻撃的に”、「D3CAY」は“廃れた”、“履き古した”ような印象に、「REL3ASE」では色が“開放”されていくように、落とし込んでいきました。
——今回のキャンペーンではモデルがマスクを着用していますがその意図とは?
子供の頃は目立ちたくなかったからマスクにはずっと興味がありました。スーパーヒーローも魅力的ですしね。特に戦隊モノ。マスクは力を与えてくれます。「Slipknot」というアメリカの覆面バンドも好きだったんです。覆面の彼らはすごく怖くてパワフルですが、人間性はいつも滲み出ていました。それからカルチャーシーンでも、スニーカーコレクターやトイコレクター、マスクを作る人など、これら全てがつながっているんです。
——最後に、日本について思うことはありますか?
日本文化には素晴らしい美学があり、目を見張るものがあります。特撮の戦隊モノや漫画を読んで育ったんですが、ほとんどが日本のそれに影響を受けているものが多いので、感謝しかないです。それに日本の作品や工芸に対するアプローチも大好きです。何か素晴らしいもの作るために長い時間を費やして技術を磨いていくことに関しては感服です。
カシアス・ハーストとPRADAのコラボスニーカーは、5月17日(火)にプラダ公式オンラインストアで、5月20日(金)にプラダ MIYASHITA PARK店、プラダ 阪急メンズ大阪2F店で発売する。
価格:236,500円(税込・予定価格)
- Interview: Yuki Uenaka