life
Life beyond style

スピリチュアリティの影響が高まりつつある現代社会において、新たな先導者となり得るファッションの存在を考える。1 月末、ウィメンズファッションウィークの最後の日曜日を迎えたパリの朝、カニエ・ウェスト(Kanye West)が説いた教えとは。

ウェストによる、パリの歴史的建造物ブッフ・デュ・ノール劇場でのサプライズ日曜礼拝の直前の呼びかけに、サイモン・ジャックムス(Simon Jacquemus)、「A.P.C.(アーペーセー)」ジャン・トゥイトゥ(Jean Touitou)、「BALENCIAGA(バレンシアガ)」CEO セドリック・シャルビ(Cédric Charbit)をはじめとする150余りのファッション関係者が詰めかけた。2019年1月以来、ウェストの単立キリスト教会巡回ミサでは、ラッパーのキッド・カディ(Kid Cudi、エイサップ・ロッキー(ASAP Rocky、そしてシンガーソングライターのケイティ・ペリー(Katy Perryが、ウェストの曲と、100名前後で編成し、YEEZYのユニフォームで揃えたコーラスの奏でるゴスペルクラシックを織り交ぜた音源に合わせ歌ってきた。「人は物質的なものを信じてしまいがちだが、それで人が満たされることはない。高価な洋服よりもイエス・キリストを愛そう」と、ウェスト・コーラスのリーダーは説いた。

ミラノファッションウィーク中の新型コロナウイルス感染拡大を受けて早期に発せられた警告をよそに、彼らは密集、密接し、歌い、踊った。キム(Kim)&コートニー・カーダシアン(Kourtney Kardashian)姉妹も、「BALMAIN(バルマン)」のラテックスボディスーツ姿で90分間の熱い宗教セレモニーに参加した。歌手達は叫び、一同は熱狂した。マスクを着用していたのはごくわずかの参加者だった。そこは、未来より何より今この時を共有する教会だった。

翌日の夜は同じエディター陣に加え、大勢のファンが、YEEZYシーズン8のローンチを祝し、未来的な共産党本部の建物「Espace Niemeyer」外に集結した。ウェストがここで売り出そうとしていたのは、汝らのスピリチュアルな覚醒を詰め込んだ守護天使プリントのサンドベージュのタンクトップだ。ウェストはYEEZY事業で年間10億ドル以上を売り上げている。そんな彼に、ショーの開始前、なぜパリで再びミサを行ったのかを我々記者が尋ねたところ、彼は「聖なる精神を広めるという、クリスチャンとしての務めを果たすため」だと説明した。キリスト教への信仰が自身のファッションビジネスに直接影響しているという。

©HIGHSNOBIETY

ファッションとヒップホップの融合を担う人材は、ウェスト以外でも信仰についての発信を強めている。エイサップ・ロッキーやスケプタ(Skepta)、ヤシーン・ベイ(Yasiin Bey)、ストームジー(Stormzy)、ジェイデン・スミス(Jaden Smith)といったラッパーも兼ねて曲やインタビューの中でスピリチュアリティに触れてきた。しかしファッションとスピリチュアリティとなるとその関係性が遊びのように見られ、曖昧になる。宗教的シンボル、イメージ、衣装の表面的利用は、リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)時代の「GIVENCHY(ジバンシィ)」、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)時代の「DIOR(ディオール)」、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)時代の「CHANEL(シャネル)」「DOLCE&GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ)」「JEANPAULGAULTIER(ジャンポールゴルチェ)」と、様々なメゾンのランウェイで何十年も前から行われてきた。いずれも、洋服を売るという目的においてキリスト教、イスラム教、ユダヤ教といった宗教にまつわる外観的な美を取り上げたもので、作り手側のスピリチュアリティが暗示的なレベルを超えることはなかった。

ところが、新たな消費者世代が登場し、宗教的な力の存在に対し皮肉な見方をしない動きが強まっている。ボストンコンサルティンググループによると2026年までにはZ世代やミレニアル世代が世界における個人のラグジュアリーマーケットの61%を占める見通しだというが、彼らはスピリチュアリティに新たな導きを見出している。ユースカルチャーを取り入れたい世界のファッション業界がニューエイジのスピリチュアリティを足がかりにしたマーケティングやプロダクトデザインを拡大しているのも不思議ではない。

「クリエイターの多くは、刺激になるものに対して真剣に関心を持っている。だからそうした発想や慣習を積極的に作品に取り入れるクリエイターがいるのも納得だ」と、アドバイザリーボードクリスタルズ創立者のレミントン・ゲストとヘザー・ハーバーは述べた。ブランド名の示す通り、ロサンゼルスを拠点に2015年に創立された同レーベルでは、オパールオーラシトリンやオレンジカクタススピリットクオーツなどのクリスタル、そしてクリスタル付き限定アイテムの販売を扱っている。リル・ウェイン(Lil Wayne)やミーゴス(Migos)といったラッパー向けのアイテムも作っている。「でもアイデアを得るために流行を追うようなクリエイターや“ブランド”業界人も多い。それが薄さにつながっている」と2人は言う。

宗教的シンボル、占星術、タロットカード、クリスタル、太極図などを通し、次世代が哲学、形而上学的なものを欲するよう、大小様々なブランドが狙い、仕掛けている。2017年マリア・グラツィア・キウリはDIORのデビュークチュールコレクションで星座のモチーフをあしらったクチュールガウンを発表した。ダッパー・ダンも同年、GUCCIのハーレム店をチャクラのシンボルでデザインした。そして翌年「VETEMENTS(ヴェトモン)」も、星座を扱ったTシャツやレインコートを売り出した。

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「BROWNS FASHION」などのブティックでも現在クリスタルが売られているし、ロッシュ・マタニの「ALIGHIERI(アリギエーリ)」といったブランドは新作コレクションの発表にクリスタル占いやサウンドバスを取り入れようとしている。GIVENCHY、「VALENTINO(ヴァレンティノ)」「MOSCHINO(モスキーノ)」「RICK OWENS(リック オウエンス)」「Supreme(シュプリーム)」「NOAH(ノア)」「GANNI(ガニー)」「BROTHER VELLIES(ブラザーベリーズ)」といったブランド勢も軒並みスピリチュアルなシンボルを取り込んでいる。

とは言え、単にプロダクトレベルの表面的なスピリチュアリティでは、今の世代の期待には応えられない。今月「Highsnobiety(ハイスノバイエティ)」では自己の内面と結びつくことを狙いとしたカプセルコレクション「InnerLife」をローンチした。「幸福と密接に関連したトピックを取り上げ考えるきっかけを与えることが、特に若いオーディエンスに向けては重要だ」と、同プロジェクトのクリエイティブディレクションおよびローンチを手がけた小誌のハーバート・ホフマンは語る。「テーマは、自分の内なる側面に注目し、表面的なソーシャルメディア上の自分や、押しつけられた、精神的に健全とは言えないライフスタイルよりも、もっと大切なものを見出すこと」

今の世代とスピリチュアリティとの関係性が向かう方向、人がスピリチュアルな力に見出す根本的な充足感を、ブランドとしてどのように反映できるかを把握するためには、まずこれまでに起きた変化について理解する必要がある。

MASTEROFNONES
─“NONES”のマスター ─

ここ40年、欧米における伝統的宗教の存在は衰退傾向にある。アメリカのシンクタンク、ピュー研究所によると、2018年のアメリカの成人に占める宗教的“nones”つまり無宗教者、無神論者あるいは不可知論者といった人の割合はおよそ23%であったという。同機構が2007年に行った類似調査での16%という割合から顕著に増加している。さらに1991年まで遡るとその割合はわずか6%だった。

欧米および中南米における宗教と結びつきを持たない層はほぼ若年の成人に集中している。ミレニアル世代で“nones”であると回答した人の割合は35%と、他のどの世代をも上回っていた。その年齢の中央値は年々下がっている。

「成人アメリカ人の約4分の1に相当する27%が、自身について、スピリチュアルではあるが宗教は信じていないと答えている。5年前と比較して8%の伸び」だと、ピュー研究所で宗教関連の研究を行うリサーチアソシエイト、クレア・ゲセヴィッツは語った。

組織化された宗教における人種絡みの不変的規則と、次世代による社会的道徳観との間の溝が深まり、分裂の強まる現代社会において、指針が必要とされていることが明確に感じられる。アメリカ、イギリス国内のミレニアル世代とZ世代を対象に「CreativeAgencyVirtue(広告会社)」が行った調査では、80%がスピリチュアルなものを感じる、スピリチュアルな力を信じると答えている。新型コロナウイルス感染症、自然災害、トランプ政権、イギリスのEU脱退といった情勢の中に生きる我々は今、人類が何らかの解決策を見出すことを信じたいのだ。そこで何らかの神秘的な力というものが介入してくる。

「人間や、人間が今直面している現実を超越したものがどこかにあると信じたい気持ちがあるのだろう」と、ロンドンを拠点にライター、編集者として活動するモード・チャーチルは説明する。2016年には当時勤めていた英エージェンシー、プロテインで『TheNewSpirituality』を発行した彼女は続けて「宗教が実に多くの意味で政治と同等の毒性を持っているのに対し、スピリチュアリティは自ら作り出すもの。スピリチュアリティを作り出すのは人間が本質的に持っている性質」だと説明した。

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ニューエイジがスピリチュアリティに行き着く背景には、こうした多数の外的マクロ的要因に加え、これまで私達の自己を形成してきた(そしてし続けている)ジェンダーや国籍、宗教、年齢といった伝統的な規範が徐々に崩れ「消費者が新たな指針を求める」ようになったこともあるのではないかというのがチャーチルの見解だ。「ソーシャルメディア時代の今、文化は無数のフィルターを経由し、バラバラに裂けた状態で手もとに届く。過剰なノイズにより真の自己認識が阻害される」のだと。

「世界が壊れようとしている感覚のある今、そうした変化が起きているのは偶然ではない。環境からの影響が止められない中、“この星座占いは自分の感覚とマッチしている”という感覚だけは、得ることのできるものだから」だという。

スピリチュアリティによってなんらかの目的感覚を得るという発想の始まりは、ニューエイジ運動が起こった頃に遡る。1970年代から80年代にかけて、オカルト、形而上学宗教コミュニティーに広がったニューエイジ運動は、それ以前の時代のビートニク(1955年から1964年頃にかけてアメリカ合衆国の文学界で異彩を放ったグループとその活動)やヒッピー運動の余波にクリスタルなどの要素が乗じて出来上がった。先駆者でアメリカ人神知学者のデイヴィッド・スパングラーや故ラムダスは、まとまりのない運動の中にコミュニティー的感覚を創出しようと努めた。こうした運動では、個人の変革のため、占星術やヨガ、瞑想、霊媒、タロット占い、そしてクリスタルといった昔ながらのオカルトが用いられた。

当時は今ほど広く受け入れられることなく、亜流の代替的ライフスタイルであるとみなされていたニューエイジ運動だが、欧米のユースカルチャーに与えた影響は大きかった。多数出現した関連の専門書店をきっかけに、多くの若者が運動に親しむようになった。「GUCCI(グッチ)」とのコラボレーションで知られるデザイナーのダッパー・ダンもその一人だ。

「人生の転換期に(スピリチュアリティと)出会った」と、昨年、ミラノのホテルで小誌の長時間インタビューに応じたダンは語った。23歳の頃、彼はニューヨーク25番地の Tree of Life という老舗書店に足を踏み入れた。ニューエイジ信奉者らに人気の形而上学学習スポットだった。「店に入って『BacktoEden』という本を買おうとしたが見当たらず、訊いてみようと店員に近付いた。まるで後光が差しているかのようにスピリチュアルな様子のその店員が“その本はないけどこれはどうだい”と言って薦めてきたのがヒルトン・ホテマの『Man’sHigherConsciousness』だった。それで人生がガラッと変わったよ」

しかし1990年代半ばにはニューエイジ運動は衰退していた。80年代のうちに勢いを失い、やがて灯火が途絶えたのだ。が、その後インターネットの時代が到来する。

CONNECTEDNESS2.0
─つながりの時代-フェーズ2.0─

「インターネット、特にソーシャルメディアの登場が大きな変化をもたらした」とAstrologyZoneの創立者であり占星術師のスーザン・ミラーは言う。占星術の不動の教皇たる彼女のサイトastrologyzone.comは、月間訪問者数1500万人、年間ページ閲覧数2億ビュー、1人あたりの平均滞在時間5分を誇る、いわば占星術界の総本山だ。

ラフ・シモンズ(Raf Simons)の運勢を占い、エマ・ストーンを教えた彼女の占星術を頼りにしているのは、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)、ジェニファー・アニストン(Jennifer Aniston)、リンジー・ローハン(Lindsay Lohan)、ケイティ・ペリー、キルスティン・ダンスト(Kirsten Dunst)をはじめ枚挙にいとまがない。キャメロン・ディアス(Cameron Diaz)に不動産購入の好機を助言したのも彼女なら、ビヨンセの結婚、ブリトニー・スピアーズの復活、そしてオバマ大統領の再選を言い当てたのも彼女だ。しかし何よりミラーが自負するのは、インターネットを使い、マス向けにスピリチュアリティを届ける、という可能性に誰よりも先に気づいた功績だ。彼女が最初のライブ投稿を行ったのは1995年12月14日のことだ。

「ミレニアル世代の方々の好きな占星術は将来の職業を占うライジングサンでしょう」とミラー。彼女が毎月発表する星座占いは4万語もの長文となることがしばしばだ。「これまでの世界ではあまりにも科学ばかりを強く信頼し、占星術を取り入れる能力が完全になくなるような方向に突き進んできた。(けれど)人間にとって占星術は必要なもの。その筋道を示す必要がある」

そこに、ファッションとの真のつながりが役割を果たす余地がある、とミラー。「クリエイター達は深遠な構造とディテールで成り立った占星術をとても好む。自分の目に既に見えているもの以外にどのような可能性があるのか、右脳で知りたいと欲する。そうしなければ限界を超えてさらに面白みのある人生を送ることはできないでしょう?占星術を通して発想が得られる。進歩を欲する者に、占星術は道を示す」

ミラーは数多くのものに真価を見出している。ウェストの行いのことも、スピリチュアリティの世界における「偉業」だと考えている。人生は元来苦難に満ちたものであり、そうでなければ人間は誰もが腰抜けになってしまう。占星術から人は発想を得る。課せられる試練も、その先に得られる報酬も、体系的に与えられるものなのだと教えられ、直感に逆らって行動に出るべきには背中を押してももらえるのだという。

何より、スピリチュアリティに対する社会の捉え方が変わってきていると彼女は考えている。「話題に上るようになったのは受け入れられてきているから。時代の社会的道徳観に影響される人間に対し(占星術は)ひらめきを与えてくれる。だから、その占星術の話を是非するべき」だと。

アメリカ国民の多くも考えを同じくしている。クレア・ゲセヴィッツによると18歳から29歳のアメリカ人のおよそ65%が、占星術、霊能力、輪廻転生、物体に宿るスピリチュアルエネルギーといったニューエイジ的な思想を少なくとも1つは受け入れているという。

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こうした変化は、ニューエイジ思想がデジタルの世界に滑らかに溶け込み、多くの人がスピリチュアリティに対する関心を新たにしたことで加速した。現代においては、現実に生きる文化圏の外でのスピリチュアルなコミュニティーの発見が、かつてないほど容易になっている。これまでスピリチュアリティには集団性がつきものだったが、今のスピリチュアリティは非常に個人主義的だ。ソーシャルメディアによってスピリチュアリティは自分を見つめる風刺ツールに姿を変え、親しまれるようになった。

「インスタグラムというフィルターを通して占星術を見てみると、ミームのように何かを語りかけてくるように感じられる」とチャーチル。「ミームは誰かと触れ合うためにシェアするもので、例えば蠍座の2人が占星術の投稿をシェアし合えば、絆がさらに深まる」

ミラーのような先駆者やCo-Star,ThePattern,TimeNomadなどのスピリチュアルアプリが目立つようになったのは、多くの若者が科学に代わるものやニューエイジ思想に心を開いているためだ。それを「connectedness2.0」と呼ぶ。

「こういうものが流行だという見解は違うように思う」と「Co-Star」のCEOであるバヌゥ・グレアは語る。ニューヨーク本社から発信されるAIを活用した占いアプリCo-Starは、NASA提供のデータを占星術師が読み解き、それを各ユーザー向けに細かくパーソナライズした結果を示す。またアプリ上、対面、両方の友人関係の運勢を毎日知ることもできる。「他者との関係性を深めて、そこから自分の奥底にある恐怖や不安、希望、夢について互いに話していくための手立てだと思っている。深い話ができる関係こそが本物の人間関係だから」

かつて「VFILES(ブイファイルズ)」でプロダクト・デザインディレクターを務めたファッション界出身のグレアは、2017年、若者同士を結びつける民主的プラットフォームとしてCo-Starを立ち上げた。現在の登録ユーザー数は750万人以上。18歳から25歳のアメリカ人男性の5%が利用経験を持つ。今日に至るまでの獲得投資は600万ドル近く。192カ国で利用されている。「占星術もファッションもつながりを創出する存在。誰もがつながりを求めている中で、それを促進してくれるような共通言語が欠けている」とグレアは説明する。「占星術もファッションも、人が集まるきっかけとして使われている。そこで自分の興味を発信し、真剣で深いつながりを培う共通言語が見出されていく。ソーシャルメディア、ショー、あるいはそれこそ洋服や記号そのものについて盛んに雑談する中で核心に迫る。街をぶらつき、同じマイナーなデザイナーものを着ている人を見かければ“仲間だ”と思う。それが、互いを真に認め合い、強くつながり合う強烈な瞬間なんだ」

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─ファッションにおける形而上学的パイオニア─

我々の生活の中で、スピリチュアリティやファッションがなんらかの役割を果たす、という概念は、かつてのように突拍子もないものではなくなっている。LouisVuitton、GUCCI、BURBERRYといったファッションハウスは、世界の美意識を牽引するスーパー消費者の絶えず進化する嗜好を満足させるべく、常にしのぎを削る中で、単なる高級品という枠組みを超え、カルチャーに影響を与える存在となっている。

こうしてファッションブランドは、人が自分の兄や姉、近しい友人に求めるようなもの、あるいはもっと大きなものまでをも包含する存在に進化した。頻繁に双方向コミュニケーションを行い、首尾一貫したアクセシビリティを担保し、持続可能性、政治、福利厚生と、様々な正しさについて積極的に見解を示す。こうした点で、我々はブランドに対し、我々自身の個人的考え、信念と足並みを揃えることを期待している。だからこそファッション業界で成功しているブランドはまず、若い消費者をスピリチュアリティへと駆り立てているものがなんなのかについてよく考える必要がある。そしてその先に、製品そのものに留まらず、自己成長やアイデンティティにまつわるスピリチュアル性を体得することで、消費者を購買に至らしめる要因を作り出していくことになるだろう。

そのことに成功する者が他者をふるい分けていく。本物のブランドは人生をも凌駕するのだ。世間的な見方はさておき、Supreme、「JW ANDERSON(JW アンダーソン)」、GUCCIといったブランドは世相を映し出す鏡となっている。平等、銃犯罪への反対、新型コロナウイルス肺炎の救済活動といった事柄に目を向けるよう、社会に対し、絶えず強く促し、文化的啓蒙を行い、人同士のつながりの媒体となることを通じ、最終的に消費者をファンへと導いている。より良い人間になる努力を促し、思想を広めるブランドに、人は自ずと導かれていく。コロナウイルスが猛威を振るう中、ステイホームを求める国の指導者の声よりも、「Louis Vuitton(ルイ ヴィトン)」や「New Balance(ニューバランス)」といった存在に世間の耳が傾くのもそうしたわけだ。

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─スピリチュアリティの説法─

ファッションは現在、若者文化とつながりを得るためのスピリチュアリティの体得という最大の課題と向き合っているが、これが、かつて起きたファッション業界によるストリートウェアの濫用の二の舞となるようなことがあってはならない。2010年代初頭、ラグジュアリーマーケットを先導する層が若年化の傾向を見せ始めた頃、ファッションブランドは、「若者」という新たなオーディエンスとつながり、繁栄すべく、ストリートウェアとそのクリエイター陣をこぞって取り込んだ。

過去10年行われた、ワーキングクラスの服装を“MadeinItaly”のレザースニーカーや職人の手仕事の込んだフードパーカー、高額なグラフィックTシャツといったアイテムでレベルアップさせようという試みは、消費者行動を単純に捉えすぎていた。一部の消費者には響いたものの、大半の消費者はそこには反応せず、カルチャーを追い求めていった。そ
うした中、成功しているブランドはストリートウェアの“ドロップシステム”から学んでいるし、コミュニティーと対話しその一部になるという手法に適応している。そして実際それにより、新たなショッピング族の信頼を獲得している。

ファッション業界によるニューエイジスピリチュアリティも同じことから教訓を得ることができるだろう。消費者に正直に語りかけ、理解に努めるブランドは、今入れ替わろうとするこの波を乗りこなすことができるはずだ。その努力をせず、時代精神の変化を単なる流行と履き違えるブランドは、売れ残りの在庫を山ほど抱えるのが関の山だ。

Supremeや「DOVER STREET MARKET」の店舗に列を成す若者にとって、ブランドは自分自身の延長であり、同じものを知る他者とつながり合う手段だ。こうしたブランドや小売店発祥のコミュニティーは、単に売る側の努力によってできたものではなく、共通の意識事態がまとまり、結実したものである。真のファンにとってプロダクトそのものは、自分がそのコミュニティーに属している、その一員であるということへの勲章に過ぎない。そうなることでこそ、ブランドは、消費者集団の内的自己成長の先導者となり得る。

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その点は英エージェンシー、プロテインの「(プロダクトを生み出すことの)報酬は単に金銭ではなく、どれほど巧妙なマーケティングキャンペーンやインフルエンサーを活用しても決して真似できない、ある種の精神的傾倒を生じさせることだ」という言葉とも通じる。

献身的な祈りの現象は、セレブリティカルチャーにおいて既に観察されている。かつてエクスクルーシブかつ私的なものであったセレブリティの役割も、よりスピリチュアルなものへと変化した。ソーシャルメディアにより、セレブ達はフォロワーと直接つながることができるようになり、その中で、自分というブランドを自らコントロールできる力を取り戻した。その結果多くの現代人がDJキャレドの格言に耳を傾け、カイリー・ジェンナーの薦めるものを買い、ウェストの服装を真似している。

2019年末のHighsnobietyカバーストーリーで、ロンドン在住のスケーター、アーティスト、デザイナーであるブロンディ・マッコイ(Blondey McCoy)が語ったように、集団が同じ何かに傾倒するという意味合いにおいて、セレーナ・ゴメスがインスタグラムで発信する“truth”(真実)を拠り所とする1億5500万人の思いと、キリスト教信者の信仰との間に違いはほとんどない。「人生において熱望できる何かがあるということは必要なこと。祈りの対象が宗教上の人物ではなくセレブやメイクのチュートリアルだったとしても、宗教、ポップカルチャーにはいずれも、絶対的な真実はないのだから」とマッコイは、自身の最近のアートショー“StellaPopulis”にも触れながら説明した。宗教とポップカルチャーに共通して見られる超的熱狂をテーマとしたショーだ。「セレブは自分の死後も人の記憶に残りたいと思うものだ」

その点は数多存在するブランドも然りだが、多くはまだその領域に到達できていない。一方成功しているのはYEEZYや「FearofGod」「DailyPaper」「Online Ceramics」といったブランドだ。ファッション的美意識そのものに頼りすぎることなく、自らがマーケットに放つ思想を自ら体現している。自らの世界観の全容を見せることで、オーディエンスとのつながりを民主化し、消費者にブランドストーリーの一端を担わせている。またファッションの領域を超えたプロダクト展開も盛んだ。

今月、アドバイザリーボードクリスタルズはAlphabetInc.を立ち上げた。ブランドの世界観と集団言語の延長として機能する専用インスタグラムとウェブページだ。創立者らが「Abc的いまどきの書店」と呼ぶ「AlphabetInc.」は、クリスタルからアート作品、書籍、映画のポスターまでありとあらゆるものを載せたビジュアルムードボードだ。あらゆるものを載せているがプロダクトだけは決して載せない。

ゲストとハーバーの説明によればこのページは「筋の通った、大きな概念の一部になっていなければいけない」とのことで、2015年に作った、より大枠のブランドストーリーのごく一部という位置付けだという。「自分達のコミュニティーが、今世界で起きている物事に対処できるようにするためのひとつの方法かなと考えた。大枠を捉えることは何よりも大事だからね」

ファッションにおいては、スピリチュアリティの基礎を大枠で捉えることが、あいまいにややまとまりつつある。ブラジル人デザイナー、ペドロ・ローレンソの「Zilver(ジルヴァー)」は星座をテーマにした環境配慮型かつジェンダーレスのラインだ。最新コレクションは蟹座がテーマだった。しかしブランドの目的は、顧客とより深いスピリチュアルなコミュニケーションを取ることにある。

「ここ数年、ファッションはスピリチュアリティとは逆行していた。このスピードでは、業界関係者も消費者もこの先長くは続かない」と彼は言う。「今のこの(新型コロナウイルス感染症の世界的流行という)試練によって、時間の持つ価値や、地球における人間のあり方について考え直す機会が与えられているような気がする」

「ファッションにおいて(スピリチュアリティを)真に表現しているのは、直接的なものを一切排除し超現実的かつ説明不可な価値を感じさせる洋服だ。意味合い的なものをどう取り扱うかが重要だ」とフランスのメンズウェアデザイナー、ボラミー・ビジュアーは言う。ビジュアーはスピリチュアル的な影響が色濃いブランドだ。2017年の立ち上げ当初から洋服のそれぞれにタロットカードを合わせ、購入者に渡しているビジュアー。成功している自覚はあるが、さらなる成長を望んでいる。「自分を自分より大きいものに対比して思いを巡らせていないと、次はどんなコラボスニーカーにしようかくらいのことしか考えなくなってしまう」

こうして考えると、現代の我々とブランドとの関係性がどれだけ変わったかを改めて感じる。今のラグジュアリー市場を牽引する若者が育ったストリートウェア時代の中核にあったのは、プロダクトそのものよりも思想を同じくする仲間を見つける行為だった。ブランドの役割は、各自が自己の世界に没入するための空間提供だった。年齢的に成熟した今も、そうした期待は変わっていない。同じ期待が今、そのままラグジュアリーブランドに引き継がれている。ブランドに強烈に傾倒することで、消費者はブランドを宗教のようにみなすまでに至った。消費がサブカルチャーになった今、我々はブランドに期待するのは、消費者と同じ価値観を持ち、消費者同士を結びつけ、進むべき道を示すことだ。世界が不安に襲われるとき、我々はポッカリと空いた穴を埋める力を持つ何かとつながりたいと欲する。それがそもそも、我々をスピリチュアリティに向かわせている。