style
Where the runway meets the street

アイナ・ジ・エンドの半径5メートルには、いつも淡い「終わり」の気配が漂っている。それはきっと、生と死・平静と狂騒の合間で生きもがく彼女のその生々しい生き様が、そのまま表現へと直結しているからだ。破壊と再生を永劫回帰しながら、人間そのものと向き合い続けるアイナ・ジ・エンド。彼女にまとわり付く「終わり」の正体を探る。

——今日の撮影はいかがでしたか?

結構、朝が早くて大変でした。でも、ここ……学士会館ってすごくいいところですね。こんな綺麗な建物があるんだって、マジでビックリしました。こういうファッションの撮影のたびに思うんですけど、一度も同じ経験ってなくて。フォトグラファーの方やシチュエーションや衣装によって、全然撮り方が違うし、毎回すごく新鮮ですね。今日もすごく楽しかったです。

——今回の撮影はMARNIのスタイリングでしたが、アイナさんも普段から私服でMARNIの服は着られるそうですね。

ああ、そうなんです。MARNIのことは前から名前は知ってたんですけど、やっぱりハイブランドだし、自分には合わないかもなっていう印象を勝手に持ってて。でも、服が好きな先輩にお店に連れていってもらって試着したら、めちゃくちゃかわいくて……ハマっちゃいましたね(笑)。私服でも着てますし、ソロのライブの衣装でも着たりしてます。

——そうなんですね! 以前、「古着が好き」と別のインタビューで仰っていたのを拝見したので、MARNIを着られているのは少し意外でした。

いまだに古着は好きで、私服ってなると9割9分古着です。撮影だといろんなお洋服を着させてもらうんですけどね。普段は、友達や知り合いがやってる古着屋さんやセレクトショップによく行きます。でも、古着以外に買うブランドは、MARNIぐらいかもしれない。サイズ感とかシルエットがとにかくかわいいし、かっこいいので。

——ファッションに対するこだわりとか、自分なりに大切にしている部分ってあります?

よく古着って、その服が持ってる歴史とか文脈をちゃんと分かって着るのが正しいとかっていうじゃないですか。それは自分も「そうだよな」って思うところはあるんですけど、別にそんなこと気にせず好きなものを好きなように着ればいいよなとも思うんです。例えば、私がGreen DayのツアーTとかを着てると「あー、俺そのツアー行ったわ」とか言ってくる人もいるんだけど、「知らないです……」みたいな(笑)。私そもそもそのツアーのとき生まれてないし、かっこいいから着てるだけなんだけどなあっていう(笑)。

——あー、そういうマウント取ってくる人っていますよね。服っていうジャンルに限らず。

幸せなことに、私の周りの服好きの人たちは「このアイテムはこういう歴史があって」みたいなことを無理に教えてきたり、マウントを取ってくることはないので。だから、正直なところ、あんまりこだわりもなくて、ただただ好きな服を好きなように着てるって感じですね(笑)。

——いや、でも、着る人によってアイテムに意味が出るっていうファッションの側面もあると思うので、アイナさんという人・アイコンが特定のアイテムを選んで着るっていうことで生まれる文脈があると思います。あれ、すいません……これもファッション・マウントですかね……(笑)。

いや、大丈夫だと思います(笑)。嬉しいです、ありがとうございます(笑)。

 

——全然話変わるんですけど、最近、何してるときが一番生きてるなって感じます?

えー、そうだなあ。最近は、割と何してても楽しいんですよ。ありがたいことにすごく忙しくて、休みとかも全然ないんですけど。寝る前にYouTubeとか観てボーッとしてるときに、ふと「ああ、今日 分、結構頑張ったな。明日も張ろう」とかって思えているので。それはすごく幸せなことですよね。「今日何もしてないじゃん! でも寝なきゃなあ」みたいな状態よりは。

——でも、それってウキウキ人生最高って感じでもないですよね?

「超幸せ!」って感じではないですね(笑)。ウキウキするときは、やっぱりライブですかね。ライブってやっぱり来てくれる人の「生きがい」と向き合う場だと思っているので。それを考えると、生半可にステージには立てないなって思うんですよ。だから毎回、気合が入るんですけど。そうやって、ステージの上でギリギリな状態に自分を追い込むのが、ウキウキするのかもしれない(笑)。

——ヒリヒリというか焦燥感がないと嫌なんですかね。そこに喜びを感じるんですか?

うーん、いや、基本はずっと穏やかでいたいんですよ。でも、アルバムや曲を作るときに、ずっと幸せなまんまだと、やっぱりなんの言葉もメロディーも生まれないんです。ちょっとヒリヒリしてたり、グラついてるときの方が、ダンスとか振り付けも浮かぶので。こういう話をして「分かる」って思ってくれる人と「何言ってんのか全然分からない」っていう人の間を行き来したいんですよね。穏やかな自分も、焦燥感に満ちてる自分も、どちらも自分……というか。

——自分の「痛み」を糧に作品を生み出していると、いつしかその闇に飲み込まれてしまうっていうのって、これまでいろんなジャンルの表現者が吐露してきた悩みだと思うんですけど、今のお話を伺っているとアイナさんはそこに対して、意識的にいいバランスを見つけようとしているような気がしますね。

自分でも、ダーク・サイドに行き切ることは全然できるなって思うんですよ。このまま全部やめて、逃げちゃおうかなみたいに考えたことも、これまで実際あったし。でも……私、バランスを取っているというよりは逃げたり、抜け駆けをするのがうまい(笑)。だから、去年も1年で2枚もアルバ ムを作れたんだと思うんですよね。他の人から見たら「アイナって、ずっと闇の中だね」って思われてるのかもしれないですけど。

——確かにそうですね。さっき「何してるときが一番生きてる感じがする?」って質問をしましたけど に最近、マジで死にたいなって思ったことあります?

えー、そうだなあ……。「死にたい」とかは、あんまり考えないですね。というか、生と死みたいなことを最近自分に対して深く考えなくなったんですよ。なんか……飽きちゃった(笑)。

——それは何かきっかけがあったんですか

単純に飽きたんです(笑)。病んでても、すごくシンプルに「なんでこんなことにいつまでも悩んでるんだろう」って思うようになってきて。多分、それはソロとして作品を2枚も出して、BiSHの活動もやってって、去年アウトプットをしすぎたからだと思うんですよね自分のポジティブなところも、ネガティブなところも、毎回、作品やステージの上で出し切ったから。そういう日々を続けていると、自分のダーク・サイドに飽きてくる(笑)。

 

——それって、表現の原動力となる部分を失った状態と言い換えられないこともないと思うんですよ。そういう状態になると「辞めてもいいかな」って普通の人だったら思うのかなと思うんですけど。今日もきちんとこうやってお仕事されているわけで。アイナさんを今ここにつなぎ止めているモノってなんですか?

冷静に考えると、やっぱり自分は根本的には穏やかな人間ではないと思うんです。常にヒリヒリとしていて、ジェットコースターみたいに感情が常に揺れ動いている。だから、急に家に友達が3人ぐらい押しかけてきてくれて、「大丈夫? 今日、一緒にトランプでもしよっか!」みたいなことがよくある(笑)。自分で自分の状態に気づいてなくて、ずっと周りの人に心配かけてるんですよ。なので、今みたいに「もう病み(闇)に飽きたわ」とか言ってるのは、多分、一瞬なんです(笑)。

——ああ、だから原動力が弱まっているとかそういうことではないんですね。あくまでもそういう時期なんだと。

そうですね(笑)。どうせまた病む時期はくるだろうし、そうなると何か作らないと気が済まないみたいな状態になると思うので。踊りや歌で何かしないとダメだって思う時期が、また絶対すぐ来るって分かってるから、まあ大丈夫でしょ……というか(笑)。あとは、やっぱり周りの人たちのことを考えちゃいますよね。こんなふうにファッションの撮影でモデルをやるなんて、7年前にBiSHを始めた頃は考えもしなかったですから。自分が普段から頼っている人たちのためにも、無責任にいなくなるとかはできないなって思うので、仕事ができてるんだと思いますね。

 

——めちゃくちゃ当たり前のことなんですけど、アイナさんの名前って「ジ・エンド(終わり)」っていう言葉が入ってるじゃないですか。で、BiSHでも活動初期から「おくりびと」という二つ名が付いていて。かつ、ご自身の楽曲を紐解いていくと、何か大切なものを失うかもしれないという「予感」や、既に失われてしまったものに対する「悼み」の感覚が描かれていると思うんですよ。アイナさんの人生と表現に付きまとう「終わり」というものについて、ご自身はどう思われているのかなということを伺いたく。

難しいですね。ずーっと考えてます。終わる……終わるのかーってふと考えちゃったりもしますね。解散もそうですけど。BiSHって2015年結成で「新生クソアイドル」としてデビューしたので、最初はアイドルのライブにたくさん出てたんですよ。そのときは、周りにたくさんアイドルがいたんですね。でも、気がつくと、その頃にやっていた人たち──私が憧れていた先輩たちや一緒の時期にデビューした人たちで、今も精力的に活動を続けている人たちってすごく少なくて。そう考えると「終わり」ってリアルで生々しいものなんだなって思うんです。今までは「終わりは始まりです」とか言ってたんだけど、「終わりって終わりじゃん」って、最近思ってる。

「終わりを終わりって認めたくない自分がいて、でも、冷静に終わりは終わりだろって思ってる自分もいる。ずっとその間で葛藤している気がします」

インタビュー全文は、HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE08+でチェック。

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE08+ AiNA THE END
発売日:2022415日(金)
価格:1,650円(税込)
仕様:A4 変形版
※通常版・限定版ともに、表紙・裏表紙以外の内容は同様になります。

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※本商品は、通常版『HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE08+ YAMATO(COM.)』と表紙・裏表紙以外の内容は同様になります。
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AiNA THE ENDプロフィール
アイナ・ジ・エンド
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。2021年、コロナ渦の約1年間にわたる制作過程で、自身が作詞・作曲した全12曲で構成する1stアルバム『THE END』を2月3日にリリースし、ソロ活動を本格始動。独特のエネルギーに満ちた楽曲、本能的なハスキーボイスとエモーショナルなパフォーマンスで、その表現力は高く評価されている。