style
Where the runway meets the street

私はテクニカルファブリックの専門家というわけではない。週に数日はハードなトレーニング、別の数日は軽めのトレーニングをしているが、服装はほぼ常にPRO CLUB(プロクラブ)のTシャツとeBayで買った昔のLOTTO(ロット)のFCルメッツァーネのショートパンツ姿という、かなりアナログなものだ。最先端の生地に反対というわけではないが、長年吸水性素材を着てウェイトリフティングをしてきたため、現在のウェアに落ち着いている。

PRO CLUBなら1週間相当のトレーニングをしても一回の洗濯で済むのが楽だ。私の場合マラソンをするわけではない。ケトルベルやランドマインを使ったトレーニング、ケーブル、ダンベル、自重トレーニング、時々する短距離走などは、いずれも無酸素運動で、服装を問わない。

しかしこうしてローテクなトレーニングウェアを着続けてきた年月の中で、進化版トレーニングウェアを数世代分見逃してきた。パフォーマンスを重視しながら見た目にも優れたウェアを生み出す新進気鋭のブランド群が誕生している。これは新しい。見た目に優れ、かつパフォーマンスを向上させてくれるようなウェアはあるだろうか? そう考えた『HIGHSNOBIETY』から、今シーズン話題のパフォーマンスブランドのウェア10着の試着依頼を受けた。

リック・オウエンス(Rick Owens)がかつて述べた「毎日着替えるとか、ジムに行くために着替えるというのは考えられない。このウェアならジム通いにもスタジオでの仕事にも着られるし、上にミンクのコートでも羽織ったりすればディナーにも着ていける」という言葉は有名だ。そんな彼の哲学にかなうようなワークアウトウェアであれば理想だろう。

私が愛用しているLOTTOのショートパンツとPRO CLUBのTシャツではその条件には当てはまらない。

『HIGHSNOBIETY』の編集者が今シーズン最高のパフォーマンスブランドと評価したアイテムについて、長時間の非学術的試験を行った感想を、本記事では述べることとする。

adidas EQT(アディダス エキップメント)

Jacket, Pants, Sneakers adidas EQT

最初に試着したのはadidas EQTのトラックスーツだ。テクニカルウェアの度合いが最も低いフィットで、通気性はなく、レトロで明確なスタイルだ。カットは週末にブライトン・ビーチ辺りで見かける年配者の着ているトレーニグウェアとそれほど変わらない。落ち着いた色使い(やや渋めのルビー色)で90年代的雰囲気だが、フィット感は私がずっとeBayで不満を感じながらも購入し続けてきたヴィンテージ品よりもゆったりとしていた(これは良いアップデートだと思う。私は「リラックスした」着こなしが好きなのだ)。通気性はまったくないが、おかげでつま先タッチ、ポゴホップ、コサックダンスなどのウォームアップで汗をかくことができたので、これも良いことと捉えた。

SATISFY RUNNING(サティスファイ ランニング)

Cap, Jacket, Top, Shorts SATISFY RUNNING / Sneakers HOKA

私は自分自身のことを、明るい色やネオンカラーを着ない人だと思っているのだが、今月のワークアウト動画を見直してみると、色鮮やかなTシャツを着ていることが多い。とは言えSATISFY RUNNINGの売りは色ではなく素材だ。今回、スプリントやフットワークのトレーニングの際に試着した、非常に軽量で通気性の良いリサイクル素材のテクニカルコーデュラショートパンツとPES Tシャツは、過去数年間で私が着用し、汗を流してきたものとは完全に別物だった。

DISTRICT VISION(ディストリクト ヴィジョン)

Fleece, Hoodie, Top, Shorts, Socks, Sunglasses DISTRICT VISION / Sneakers DISTRICT VISION × NEW BALANCE

ジムに行く際には、私も周囲に負けじと見栄を張った着こなしをしてしまう。ロサンゼルスのDISTRICT VISIONのスタイルは、運動のためというより注目を集めるためのものという感覚だ。グラフィックスウェットシャツとTシャツの上に南西部モチーフのイタリア製ハイパイルフリースを重ね、下はコンプレッションショーツと別のパンツの重ね穿きとすると、上下のコントラストがうまく表現できた。

GR10K(ジーアールテンケー)

Sweater GR10K / Pants VUORI / Sneakers SALOMON

競技用以外のトレーニングウェアに必要な要素はシンプルだ。動きを妨げずに、体の火照りを冷ます、あるいは体を温めることができ、欲を言えばトレーニングのモチベーションを高めてくれるウェアであること。

GR10Kのフード付きスウェットシャツを着て何十回か懸垂をしてみたが、3回くらいしかしていないかのように楽に感じた。フード付きパーカーは体温が心地よく保ってくれる。パイピングや生地のディテールも、ミラノのブランドであるGR10Kの考え抜かれたコンセプチュアルなウェア本体とよく調和していた。

gnuhr(ヌー)

Hoodie, Top gnuhr

gnuhrのウェアを着て腕立て伏せとケトルベルスイングを大量に行った。gnuhrのウェアは1週間で試着したものの中で最もジムウェアらしくないウェアであったが、皮肉にもこれを着た際にそれほどしっかりと運動を実際したわけだ。Maison Margiela(メゾン マルジェラ)やYEEZY(イージー)で経験を積んだデザイナー、ヌー・アバス(Nur Abbas)が創設したポートランドを拠点とするgnuhrのセレクトは、私がこれまで着たり見たりしてきたウェアよりもしなやかで繊細だった。Shag(シャグ)のパーカーはポーラテックフリース製で透き通って見える。

ワークアウトに耐えられるかというと、もちろんだ。懸垂やクリーンの動きをこなす間、パーカーが邪魔になることなく体を温かく包み込んでくれた。ジム周りで着る服の未来、ワークアウトの未来を示すようなこんな前衛的なウェアなら、これまでジムに一度も足を踏み入れたことのない人も気持ちを駆り立てられるかもしれない。そうなればすばらしい。

Bandit (バンディット)

Top, Shorts Bandit / sneakers SALOMON

「Banditについて知りたいか? と囁くようにその声は言った(というウィリアム・ギャディスの小説、『J R』の出だしではないが)、ニューヨークを拠点とするこの新進気鋭のランニングウェアブランドのオールブラックセットは、数多あるウェアの中でも間違いなく最もニューヨークらしいと言えた。ミニマルで気取らない雰囲気に控えめなハイテク。これを着用した際は軽いストレッチとプライオメトリクスを行ったのみだが、仕立ての良さが際立っていた。ランニングやジム用ウェアではなかなか思いつかない要素だ。

プロポーションも完璧だった。縫い目の位置もシャツの袖やショートパンツの股下も、私の着慣れたアナログ系ウェアとちょうど同じ位置にピッタリ来ていた。しかし最も気に入ったのは素材だ。ショートパンツには畝があるが、コーデュロイというよりは三宅一生のプリーツ加工のプリッセに近い。本当だ。自宅でのトレーニングは全てこのウェアで行いたいと感じた。

SOAR(ソアー)

Cap, Top, Shorts SOAR / Sneakers SALOMON

ロンドンのランニングブランド、SOARの新作コレクションは、一目でいちばんストレッチ性が高そうだと感じた。そして実際にウェアを試着してみた。豊富なカラー展開で、レインボウカラーのものもある。砂漠でのマラソン用に作られた薄手のレースベストとマラソン用ショートパンツ(そしてフィッシングハット)は、うだるような暑さの中での長距離ランニング用に特別に作られたものだ。

股下3インチという作りに慣れるまでには多少時間がかかったが、パフォーマンスの低下はなかった。フットワークドリルやバーピーの動きがいつもより少し速くできるように感じた。しかしこちらは夏用長距離ランニングウェアだ。

LA SPORTIVA(スポルティバ)

Beanie, Top, Shorts, Sneakers LA SPORTIVA / Watch CASIO VINTAGE

完璧で、深い、縫い目と肌へのフィット感と言えば、通常はスーツにしか見られないような特徴だが、テクニカルワークアウトウェアもその特徴を備えていることは嬉しい事実だ。仕立ての良いスーツであれば、タイトに作られていなくとも肩の位置が正しく合うのと同じように、ワークアウトウェアも、シャツに限った話かも知れないが、作りがしっかりしていれば肩の位置が合うときはぴったりと合う。そうなると全てが気持ち良くなるというものだ。

LA SPORTIVAのトップスも同様だった。シャツはぴったりフィットしつつも目立たず、動きやすく、ケトルベル・ローイングのワークアウトを数セット追加でこなすことができた。

VUORI(ヴオリ)

Jacket, Shorts VUORI / Sneakers HOKA

VUORIは最近50億ドルの評価額がついたサンディエゴの新興企業である。ご存じないという方は、実は目にしていながらお気付きでないだけだ。しかしそれも無理はない。私が着用した白のセットを含め、多くのウェアが控えめに作られている。このウェアを着用し、牛乳のボトルを使ったサピネーション(回外)フライの練習をしたところ、ジャケットは軽くシンプルなフィット感で、あらゆる動きを自由にすることができた。

牛乳の件について述べておくと、私は最近、特定の食料品店を宣伝しているのでは、との非難を浴びた。牛乳はアメリカ国内の多くの州で合理的に小売販売が可能な製品だが、牛乳に不安を抱いている方に勧めるつもりはまったくない。ただ、牛乳を飲むことがジムでのトレーニングと同じくらい私自身の健康に役立っていることはおそらく事実と言えるだろう。

On(オン) × POST ARCHIVE FACTION(ポスト アーカイブ ファクション)

Jacket Pants, Shoes On × POST ARCHIVE FACTION

最後は、スイスの大手フットウェアメーカーOnと、LVMHプライズの最終選考に残った韓国のブランドPOST ARCHIVE FACTIONによる洗練されたコラボレーションの一環で誕生したリラックス感のあるテクニカルトラックスーツを試着した。ケトルベルを担いで数百メートル歩くファーマーキャリーや、足場を使った懸垂をすると、最近ポッドキャスト番組『Throwing Fits』のインタビューでベン・ソロモン(Ben Solomon)監督が述べていた言葉を思い出した。

正しくサイズの合った(ウエストにフィットした)軍用カーゴパンツは、ダボダボでもスリムでもなく、標準的メンドーサラインのフィットになる、という話であった。このパンツのシルエットはまさにそれだ。これまでそんなことに気付く人がいただろうか? これほどまでに凝縮された、センチ単位で正確なディテールがワークアウトウェアに現れたことは、素晴らしき新時代の到来を告げる兆しである。

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