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Where the runway meets the street

CHANEL(シャネル)のメンズウェアは、ファッション界における “白鯨” とも言える存在だ。業界屈指のビッグネームでありながら、メンズラインが存在しない数少ないブランドのひとつであるのは、少々意外ではないか。

しかし、2024年末にBOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)の元クリエイティブ・ディレクター、マチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)がCHANELのトップに就任したことで、ついにその状況にも変化の兆しが見え始めた。

いや、むしろそれどころではない。

ここ数カ月のセレブの動きを見れば、10月のブレイジーによるCHANELデビューは、メンズライン始動の号砲になると思われた。

2024年のCHANELランウェイショーのショートフィルム制作を手がけ、自身も度々CHANELを着用してきたケンドリック・ラマー(Kendrick Lamar)が、ついにブランドアンバサダーに就任した。同じくアンバサダーのルピタ・ニョンゴ(Lupita Nyong’o)は、2025年の「メットガラ」でメンズライクなCHANELクチュールを纏って登場。そして「ブルー ドゥ シャネル」の顔として知られるティモシー・シャラメ(Timothée Chalamet)は、小ぶりなCHANELのショルダーバッグを愛用し始めている(さらに興味深いことに、TRUE RELIGION(トゥルーレリジョン)のジーンズも穿いているようだ)。

その一方で、ブレイジーがBOTTEGA VENETA時代にスタイリングを手がけた面々を含むファッショナブルな男性達が、それぞれのスタイルでCHANELを着こなすようになっていた。

ブレイジー時代のBOTTEGA VENETAは、BALENCIAGA(バレンシアガ)の全盛期以来となる、男女問わず熱狂的に支持されるラグジュアリーブランドとして大旋風を巻き起こしていたことを思い返してみよう。

これも、CHANELが今後メンズウェアに取り組もうとしていることを示唆していたのかもしれない。

が、そう単純な話でもなさそうだ。少なくとも、公式にはまだそうではない。5月末のインタビューで、CHANELのグローバルCEO、リーナ・ネア(Leena Nair)は、この噂をほぼ否定した。

「答えは同じです」と彼女は「VOGUE BUSINESS」に語った。「メンズラインに参入する予定はありません」。

残念な知らせだ。ただし――。

CHANELが本格的にメンズウェアに参入する可能性は低いかもしれないが、MIU MIU(ミュウミュウ)のようにメンズライクな要素を取り入れたコレクションを展開することを期待するのは、決して無理な話ではない。

厳密に言えば、MIU MIUにメンズ専用カテゴリーは存在しない。代わりに、PRADA(プラダ)傘下のこのラグジュアリーブランドは、「メンズウェア」サイズの服や靴のラインナップをさりげなく拡充し始めている。

まさに、 “シュレーディンガー” のようなラグジュアリーブランドと言えるだろう。MIU MIUの「メンズウェア」は一部の小売店で取り扱われ、著名な男性達も着用しているが、正式なカテゴリーとしては存在しない。あくまで、メンズサイズ展開のMIU MIUに過ぎないのだ。

ブレイジー率いるCHANELが同様の手法を採る可能性は十分に考えられる。つまり、専用のメンズラインを設けるのではなく、プレタポルテやフットウェアのサイズ展開を拡充する方向だ。

そうすれば、ネアが言う「メンズ参入」は回避しつつ、ますますジェンダーレス化が進む顧客層にさりげなく応えられる。

CHANELのメンズウェアの夢はまだ終わっていない。望むなら、サイズをひとつ上げて、ファッションが辿るべき必然が訪れるのを祈るだけだ。

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