style
Where the runway meets the street

ヌーディな装いで絡み合う男女によるセンシュアルなアートパフォーマンス。スペイン・バルセロナ発のファッションブランドDesigual.が北半球最大のアートの祭典、マイアミ・アート・バーゼルで2020年のコレクションを発表。前衛的な試みで彼らが導く未来は明るくて自由で心地よい。

すぐにだいたいのものが手に入る今の私達は、すぐに安易に手に入れる代わりに、特別な何かを欲している。自分にとっての特別は人それぞれだが、モノを通して何かしらのつながりを求めているのは確かだ。自分にとって特別なつながりを、それを所有する理由を、体験から広がるあたらしいストーリーを。ブランドの社会活動やCSRの姿勢、例えば地下資源に頼らないテクノロジーの開発、トレーサビリティからつながる世界。私達がストーリーを求めるいま、多くのファッション企業にとってサステナビリティの取り組みは必須となり、10年後またはそれ以降のサステナブル・ゴールに向けて少なからずとも取り組みの姿勢を示している。

そんななかで注目すべきはスペイン発のファッションブランドDesigual.だ。彼らはクリエイターの活動を支援することでその思いを拡散する。声なき声を形にし、誰もがクリエイティブでいられる社会の素晴らしさと必要性を訴える。さらに生産過程での環境汚染にもしっかりと目を向け、サステナビリティの実現に真摯に取り組み、2020春夏のコレクションのうち11%をサステナブルに移行。さらに一部100%オーガニック生地で作り上げたカプセルコレクションを発表した。これは、世界100都市で展開するグローバルブランドの試みとしては目覚ましいものだ。

そんな彼らが2020年のコレクションに最適な発表の場として選んだのが、アート・バーゼルに沸くマイアミだ。アール・デコ建築に囲まれ、パステルカラーやネオンサインが光りノスタルジックな雰囲気が漂う高湿度なトロピカル・タウン。期間中はここそこにさまざまなインスタレーションや特別なプロジェクトが催される。少し離れたアート・ディストリクトでは、近年恒例となっているLOEWEの展示「チャンス・エンカウンターズ」、ヴァージル・アブローとBaccarat(バカラ)とのコラボレーション、やディオール メンズコレクションのフォール2020ショー、さらに元コレットのサラ・アンデルマンの期間限定セレクトショップなど、街ごと沸いていた去る12月。マイアミ・ビーチのHotel Nautilus by Arlo(ノーチラス バイ アルロ) でDesigual.は、ミランダ・マカロフのインスタレーションとともにカプセルコレクションを発表した。

Miranda Makaroff(ミランダ・マカロフ) はバルセロナを拠点にするマルチアーティストで、Desigual.での100%オーガニック素材を使ったカプセルコレクションを手がけた若き有志だ。インスタレーションは、eva(エヴァ)と命名され、旧約聖書内のアダムとエヴァ(アダムとイブ)の見解に一矢報いる形となった。

「私たちはエヴァが罪人だといつも言われましたが、喜びの偉大な発見者である彼女に私たちは感謝すべきです。 退屈な楽園にいるよちも、悪徳と矛盾を持って地球上にいる方が良いと思います」 (ミランダ・マカロフ)

コレクションの雰囲気そのもののように、明るくて自由で自然体なミランダ。彼女の創造性ほとばしるエネルギッシュなインスタレーションには、物事は見た目ではない、というメッセージが込められている。さらに、女性やセクシュアリティ、自由を伴う観察や実験から派生した彼女の喜びのための際限のない愛が形作られている。女性器をモチーフにした入り口の中を入ると、カラフルな人形が絡み合うスカルプチャが。その周りを囲うように、カプセルコレクションが浮遊する不思議空間が広がる。淡いピンク色の心地よい光と柔らかなドームには多幸感が充満している。美しくて華やか、ハッピー・ポジティブ・クリエイティブ。数え切れないほどの女性の素晴らしさをすべて解き放ち、自由で自然体であれ。そんな想いを感じる情熱的なインスタレーションとなっていた。

さらに12月6日のTemple House(テンプルハウス) では2020年最高のコレクションを発表。Desigual.のアイコニックなロゴを象った彫刻にダンスをしながら歩み寄る30名の男女。年齢・身長・サイズ・背景はバラバラだ。力強い踊りのあとにはそれぞれ対になり、情熱的なキスをする。ゆっくりと服を脱ぎ始め、ほぼ完全に脱衣すると30名全員が混ざりあいキスや抱擁をする。それはまるでひとつの共同体のように蠢きながら絡み合う美しい肉体が体現する愛のかたちであった。

このコレクションには、モデルの福士リナ、人気シリーズ『テラスハウス』をきっかけにモデルとして活躍している石倉ノアが参列。彼らの目にはどのように見えていたのか。石倉に話を聞いてみた。

「ものすごく感動しました。年齢や性別、愛する人。それぞれ違いがあってもそんなことは気にすることではない。みんな平等でみんなが自由である。フラットな目を持って愛し合えば、平和で幸せな世界に必ずなるんじゃないかな。居場所が見いだせず悩んだ幼少時代の記憶。平和に対して強い思いを抱えていたあの頃の純粋な想いにまた出会ったような気がしました」(石倉ノア)

Desigual.が掲げた新しいスローガンLoves Different(違いを愛する)を直接的かつ情熱的な表現で魅せたのはカタランのアーティストCarlota Guerrero(カルロタ・ゲレーロ・写真左) 。愛し合うべき人たちが、価値観や概念の相違によって歪曲し対立を生む不条理が横行する世界。それもまた自然の摂理だったとしても、それは幸せに変えることはきっとできるはずだ。違いを受け入れ心を開いてみる。キスをする。あまりにも稚拙で原始的な行為こそが我々の原点であり、本来あるべき姿なのではないだろうか。目を疑うほどにスキャンダラスでアーティスティックなインスタレーションは、見るものを立ち止まらせ振り返らせる極上のエンターテインメントであった。違いを愛する、その美しいストーリーに共感をして立ち上がる小さな声は、やがて大きな力につながり、かならず世界を変える原動力となる。そしてその責任は私達ひとりひとりに託されている。