初めてETRO(エトロ)を身にまとったとき、髙橋海人は「内側からエネルギーがあふれ出す感覚」を体験した。その出合いをきっかけに、彼はブランドと深く関わりを持つようになり、なかでも強く惹かれたのが、ETROの象徴であるペイズリーだ。インドからヨーロッパへと渡り、時代や文化を超えて受け継がれてきた紋様には、生命や豊穣を象徴する意味が込められていると言われる。髙橋はETROが現代に再現させたペイズリーの原画を目にしたとき、緻密な線の強弱や色の重なりに「ドローイングアーティストが命を削って描いたエネルギー」を感じたと振り返る。表現者として、その感覚は決して他人事ではなく、創作や表現に直結する大切な刺激だ。

——初めてETROのコレクションやペイズリーに触れたとき、どんな印象を受けましたか?

自分が一番感じたのは、エネルギーです。ダンスを本格的にやっていた中学高校のときから洋服が好きで、当時は白黒の服を着ることが多かったんですけど、二十歳くらいのときに映画『ブラック校則』の舞台挨拶で初めてETROの洋服を着させていただいて、そのとき、自分の感性や考え、内からなるエネルギーみたいなものが爆発する感覚がありました。そこからETROのアイテムを愛用するようになりました。

——運命的な出合い。

そうですね。

——なぜエネルギーを感じたんでしょう? 模様なのか色なのか。

当時は分からなかったんですが、改めてETROに触れてみて、学ばせていただいたことがたくさんあります。その中のひとつに、ペイズリーのドローイングアーティストの方が描いた原画を見せていただいて、色使いや線の強弱、一つのラインにも魂を込めて、命を削って描かれているんだなと感じました。

原画には本当に細かい線の強弱が出ていて、これはデジタルやAIが勝てない領域だな、と。そして、そのアーティストの方が描いた原画が元々持っているエネルギーを損なうことなく、綺麗に洋服に落とし込んでいる。だから、着たときに「うわ〜これ何⁉︎」って思ったんだなって。

——今回ペイズリーの歴史を調べてみたんです。そうすると、非常に歴史が長く、あまり明確ではありませんでした。例えば、植物の種子であったり、植物が発するエネルギーだったり、諸説あるということでした。その中でも長寿や繁栄、命の偉大さみたいなものが語られていました。

洋服を着ていて、そういったものを生々しく感じられる感覚って本当になかなかありません。そのエネルギーがETROの持っている鮮やかな色使いで表現されています。(ETROのクリエイティブ・ディレクターの)マルコの色彩感覚ももう大好きで憧れの人なんですけど、マルコに選び抜かれた色達が持つエネルギーみたいなものが融合して、着ている人達にビシバシ届いていく感じ。自分も絵を描くのが好きなので、すごく勉強になりますね。

——なるほど。そのバックグラウンドがあってこそ、色彩の力強さや強弱に気づけたのかもしれないですね。ETROのペイズリーの本質のところまで目が向く人はあまりいないと思うので、その境地にいらっしゃるのはアンバサダーたるべき。

ありがとうございます(笑)。原画、本当に面白かったですよ! 一枚一枚見ると絵の端っこの細かいニュアンスまで鳥肌ものでした。

——見てみたいですね。では、マスターオブペイズリーとして話を進めさせていただきますけど……

早くそこまで行きたいですね。

——ご自身でペイズリーもデザインされました。なかなかできることではないと思うんですけど、デザインの着想源や工程を伺えますか?

昨年の9月にイタリアでたくさんの原画を見させていただいて、そのときに「自分でペイズリーを描きたい」と思って。日本に帰るやいなや、練習と思って遊び半分で描いてみたんです。ETROのペイズリーのお話をいろいろ教えていただいた中で、ナツメヤシの種子が起源であると知りました。そういったところから「繁栄」が大事なキーワードだなと思いました。

自分は、周りの人達や家族、友達、スタッフ、そして支えてくれるファン、いろんな人がいて自分があると思っています。そう考えると、人と人が手を取り合っているからこそ繁栄できる。みんなが当たり前だと思うようなことですが、それを改めて見つめ直す機会になりました。それを描きたいと思ったんです。

——ペイズリーにはあまり見たことがない手の模様だと思いました。すごくプリミティブというか、さっきの魂の話もそうですが、手は非常に根源的なことな気がするんです。

手はすごく象徴的な人間のパーツじゃないですか? 手を使って絵を描いて、手を使って物をクラフトして、手で表現する。

——手が真っ先に浮かんだんですか? 足でも指でも口でもなく?

はい。「手を繋ぐ」というイメージであったり、繁栄を表すには、手は欠かせないと思っています。

——ペイズリーからもう少しブランドを大きく捉えると、ETROらしさとはなんだと思いますか?

ETROが持つ歴史、ETROの象徴であるペイズリーの起源はインドのカシミール地方だと聞きました。そこからいろんな国に伝わって、その文化を吸収して、表現されたものが、ペイズリーなどを通してETROになってるのかなって思います。

——何かを媒介する、何かを繋ぐ、調和する、みたいな?

そうですね。すごく旅をしている感覚にもなりますし、それはほかのブランドとは違うところだと思います。

——なるほど。ETROと髙橋さんが共通する部分はなんだと思いますか?

自分で思う自分の好きなところでもあるんですけど、僕はいわゆる「職人」とは真逆のところにいるなと思っています。職人さんというと、一つのことに人生を賭けるというロマンがあるじゃないですか? 自分は職業柄、自分の性格柄、とにかくいろいろな楽しいことを吸収したい、というところがあって。いろいろな国の文化も好きだし、日本のローカルな文化も好きだし、ヒップホップが持つカルチャー、下北のカルチャー、いろいろなカルチャーが大好きで、そういうものをディグって、いいなと思ったものを自分の中に取り入れています。だからたまに自分ってなんだろうと思うときがあるんですけど。でもいろいろなものをいいと思って、それが最終的に抽出されて、自分として表現するものが髙橋海人なのかなと思うと、様々な文化を横断しているETROと似ているところは我ながらあるのかなって。

——ETROが大切にしてきた旅や文化の融合、調和の哲学は、髙橋さんと重なる部分がありますね。

——今回の撮影に関してですが、印象に残ったルックやスタイルのポイントなどあれば教えてください。

ブラックのセットアップにペイズリーナをつけた、結構シンプルで攻めたルックがあるじゃないですか? あれがとても好きでした。勝手なんですけど、「こういうETROもめっちゃ良くない?」「ETROの良さって、柄とか色合いだけじゃないぞ」「みんなこのETRO知ってる?」という感じが。とにかく質感、そして良く見たらジャカード織りのレオパード柄。普段着ていると、色や模様、デザインに目が行きがちなんですけど、着ていて心地良くて、艶のある質感にときめきます。自分のランクがひとつ上がる感覚って、すごく大事じゃないですか。これを着ている自分が大好きだと思える。ETROのアイテムはそれがすごく多くて大好きなんです。シンプルだけど、質感と品の良さと。あとは、自分がデザインさせていただいたペイズリーナを合わせて。

——今回のホリデーコレクションにも、髙橋さんがデザインされたペイズリーナが盛り込まれていますね。

パープルとブラック。マルコ達がコレクションに合わせて選んでくれたみたいです。めっちゃ嬉しいですよね! 前回のカプセルコレクションのときはバーガンディーやターコイズ、自分が好きな色をとにかく選ばせていただきました。

——好きな色に一貫性はあるんですか? 海が好きだからターコイズなど?

元々ターコイズが好きだったんです。シンプルに区分けされない色が好きで、さっきの帰り道にあった壁の、ピンクにイエローが混ざってるみたいな、そういう色が好きなんです。知ってます? ターコイズって、金と銀にシアンを混ぜた色なんですよ! すごくないですか? 僕、水色に緑を少し混ぜたのかなって思ってて。金色が持つイエローの質感と、それを抑える銀の持つ白やグレーのニュアンスが混ざってターコイズができる。本物のターコイズはそうらしいです。

——知りませんでした。

この前知ったんですけど(笑)。

——それはもうファンのみなさんがターコイズに染まってしまいますよ。

前回の「ETRO per Kaito Takahashi」のときは、デザインをしているときから自分の好きな色でやらせてもらっていたのですが、今回のホリデーコレクションは、マルコ達が持っている色彩感覚に混ぜてもらった感覚があります。自分だとなかなか選ばないから、やっぱりいいですよね。

——また新しい自分が発見できました?

現物は今日初めて見たのですが、ETROの世界観にもっと深く入れた感覚がして嬉しいです。このデザインも、改めてかわいいなと思いました!

——今回の撮影では、ジュエリーもたくさん着けました。日頃からもジュエリーをけているようですね。

とても好きです。

——髙橋流のジュエリーのけ方について教えてください。

シンプルだけど少し変わったデザインが好きです。ダンスをやっていたので、周りの人達は貨幣のネックレスなどを着けているんですけど、どんなときでも周りの人と一緒にはなりたくない感覚がありました。ETROのペイズリーが並んでいるネックレスはすごくお気に入りです。

——なかなかないですもんね。

そうなんですよ。ETROを身に着けている人は世界にはいっぱいいると思うんですけど、ETROを着けている自分は唯一無二な気がして最高の気分です。

——素晴らしい。次は、髙橋さんの表現哲学について伺いたいと思っています。

そんな大層なこと言えるかなあ。

インタビューの続きは本誌をチェック。

【ETRO ホリデーコレクション】
エトロと髙橋海人によるコラボレーション「ETRO per Kaito Takahashi」から、ホリデーシーズン限定の新色ペイズリーナが登場。ファッションエディトリアルの中で身に着けた〈パープル〉〈ブルー〉の2色(各31,900円・税込)がラインナップする。 エトロ公式サイトにて 2025年11月26日(水)午後5時より販売開始。エトロ銀座本店での一般販売は2025年11月29日(土) 午前11時より。

 

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE15 Holiday : KAITO TAKAHASHI
発売日:2025年12月19日(金) 
定価:1,650円(税込) 
仕様:A4変型

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