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今、PARCO MUSEUM TOKYOには異空間が広がっている。壁も床も青い空の上のような空間に展開されているのは、サムとトゥリーこと、サミュエル・アルバート・ボークソン(Samuel Albert Borkson)とアルトゥーロ・サンドバル 3世(Arturo Sandoval III)の2人組、FriendsWithYou(フレンズウィズユー)の作品達だ。「Ocean – Temple of the Sacred Heart」と題されたこの展覧会には、子供だったらテーマパークかと思うほどの愛らしいキャラクターやスカルプチャーが並び、大人でも思わず吸い込まれてしまうような真っ青な空間が広がっている。世界各地で愛されるLittle Cloudなどのキャラクターで知られるFriendsWithYouは、これほどまでに “カワイイ” 作品達を通じて何を伝えようとしてるのか。来日した2人へのインタビューで、その奥にある思惑を紐解いていきたい。

——展覧会の開催おめでとうございます。まずは今回の展示内容について。一見、愛らしいキャラクターがたくさん描かれたラブリーな空間ですが、実は2人が作った架空の神話『Book of OCEAN(OCEANの書)』の中の、“Little Bear and the Great Algorithm War(リトルベアと大いなるアルゴリズム戦争)” という物語を表現していたんですね。

【リトルベアと大いなるアルゴリズム戦争】昔々、愛と甘さに満ちたシンプルな世界の小さな村で、リトルベアは大いなる運命に呼ばれました。彼は異なる時代と次元での壮大な冒険の啓示を受けたのです。そこで彼は、人間をアルゴリズムとそのデバイスから解放することになりました。リトルベアは友達の軍団を結成し、決意と希望で一丸となって有毒なMiXXYアルゴリズムを打ち破るのです。12人のカワイイ戦士たち、クレア、バターカップbb、ラッキー、ブルーエンジェル、フラッフィー、ブブ、フーフー、シェリー、ケケ、キャンディ、マイケル、そしてクッキーが力を合わせてサイクルを断ち、アルゴリズムを破壊したことが、人類を解放する手助けとなったのです。OCEANの栄光とeTurtleの助けを借り、カワイイ仲間たちは時間と空間を曲げ、リトルベアが愛の剣でねばねばしたMiXXXYを打ち砕くという使命を援護しました。この戦いで生き残ったのは聖人(セイント)クッキーただ1人。彼女はこの物語を伝える語り手となり、世界は新しい時代 Beautiful Place(美しい場所)を迎えました。”

サム:うん、この物語はね、平和な世界にいるリトルベアが、過去と未来からカワイイ戦士や、デジタルキャラクター達をリクルートして異次元の世界で戦うんだけど、OCEANでは過去、現在、未来が全て同時に存在しているからそれができるんだ。OCEANには、時間と空間を司る神・e Turtleがいるからね。そして彼らの異次元の戦場というのは人間が暮らす世界で、そこで制御不能なAKIRAのモンスターのようになってしまったミッキー的な未来のアルゴリズムを破壊し、デバイスの奴隷になっていた人間達を解放する。世界の全てが再び生まれて成長し、“Beautiful Place” に繋がるっていうストーリーなんだ。

——会場の第一印象からは想像もつかない壮大な物語ですが、そのギャップも面白いですね。ペインティングの “Beautiful Place” は、2022年にNANZUKA UNDERGROUNDで開催した『Beautiful War』の時にも拝見しましたが、今回の物語は『Beautiful War』のエピソードゼロという感じですか?

トゥリー:うん、前日譚とは言えるだろうね。でも本当にたくさんのストーリーがあって、実際どこがゼロなのかさえ分からないんだ。でもそれが面白いと思う。「ここから始まって、次にこうなる」って決め込むんじゃなく、いわば自然発生的に膨らませていく神話なんだ。

サム:そう、これより前には、Starchild(スターチャイルド)っていう創造神話も作ったんだよ。Starchildは、マイアミのパーマネントアートとして制作した50ft(約15m)のパブリックスカルプチャー作品なんだけど、それも詩的な概念に基づいているんだ。要約すると、太陽は燃えさかる神様のような存在で、宇宙を旅する破壊の戦士のようだったんだけど、ある日地球で海に出会う。太陽は海の美しさに恋をして、地球に留まり温め続けるんだ。結果、海は太陽との子供・Starchildを産み、そこから全ての生命が生まれた、っていう内容だよ。

トゥリー:僕らは言うなれば、ネオ・ナチュラリスティックな神話を作っていて、そのストーリーを通じて僕らの理念を表現することで、人と人との繋がりを生み出していくことが目的なんだ。

——単純にキャラクターを描いたり、個展ごとに完結するコンセプトを設けるよりも深みがありますね。作品を待つ側としても楽しみです。

トゥリー:この神話には4年くらい取り組んでいて、ストーリーからキャラクターが生まれることも、その逆もあるんだけど、神話づくりは僕らが死ぬまで続くかもしれないね。僕らにとってはまだ始まったばかりで、今後は色々なアーティスト達に参加してもらいたいとも思っているよ。僕達にとっての新しい神話の体系を作り上げるための、言わばオープンウィキのようながシステムができたらいいなと思っているんだ。

——今回はMemory Waveという乗り物も作っていますね。彼はMoby(モビー)という名前のマスコットだそうですが、この作品についても教えてください。

サム:Mobyは水の象徴で、彼の名前は小説の『Moby Dick(邦題:白鯨)』が由来だよ。この作品は、僕ら自身が海そのものであるという発想から生まれたんだ。人間の体はほぼ水で構成されているし、全ての生き物の起源は海だよね。だから僕らは全ての動植物と繋がっていると考えられる。そして海に波があるように、僕らにも波打つ鼓動がある。つまり、僕ら一人一人が「歩く海」みたいな存在なんだ。Memory Waveは、その感覚を覚醒させてくれる。ジェームズ・タレル(James Turrell)の作品シリーズ「パーセプチュアル・セル」みたいにね。Memory Waveに乗った人は覚醒し癒されると同時に、僕らと一緒に世界を救う準備も整う。そういう体験をして欲しいんだ。

——FriendsWithYouの作品は、昔から体験型、没入型、参加型のものが多いですよね。20年前に、銀座にあったHaNNaというコンセプトショップでお2人の初期のインスタレーションを拝見しました。何百個ものハンドメイドのぬいぐるみが手を繋いで螺旋状に部屋を埋めていていて、「友達になりたい子がいたら連れて帰れる(購入できる)」というシステムでした。作品と友達になれるという、まさにアーティスト名FriendsWithYouを体現する展示だったのが印象的です。2人の作品はその当時から一貫して、観る人を優しく迎え招き入れ、深い意味やメッセージはあっても、表層的には気取った難解さをあえて排除している感があります。それは常に意識していることですか?

トゥリー:君が20年前の僕らのインスタレーションを体験していたなんて最高にクレイジーだよ。あの展示で表現した「手を繋ぐ」ことや「優しく迎え入れる」というのは、確かに変わらず僕達の活動のコアな部分だと思う。僕らは開かれたアートと体験を提供したいんだ。色々な制約や形式があって、手を後ろに組んで美術館にお邪魔します、みたいな堅苦しい芸術のイメージとは違うものをね。近寄りやすくて、寄り添える芸術を作りたい。もちろん、作品には深い意味といくつものレイヤーを持たせているから、知ろうと思えば沢山のことを掘り下げられる。アートの歴史や文脈に明るい人が僕らの作品を見たら、何をリファレンスにしているのかも気付けるかと思うんだけど、同時に、子供でも象徴的なレベルで理解できるような表現をしたいんだ。多くのアートは、その作品自体が重要視されるけど、僕達にとっては「アートを体験すること」自体が作品そのものと同じくらい、もしくはそれ以上に重要なものなんだ。人間と芸術の関係性の上では、体験こそが本質的な芸術だと思う。例えば美しいオブジェクトを見ても、それを手に入れられない、触れられない、感じられないとしたら、それはある意味リアルさに欠けるものになってしまう。でも体験や経験は、誰にも奪われることなく自分の中に残るものだからね。

サム:あの2004年の銀座でのインスタレーションは『Aqui Uzumaki』というタイトルだったよね。「愛と友情の渦巻きへようこそ!」というコンセプトで、たくさんのキャラクター達が観る人を抱きしめ包み込むような竜巻を描いて歓迎しながら「I love you」と言っているような展示だった。君が実際にその体験を覚えていてくれているのが何よりの証だよ。あの頃も、Macy’sのパレードを手がけた時も、そして今も、僕らの多くの作品に共通して言える事は、愛、歓迎、そして体験という魂が込められていることなんだ。

——2人がFriendsWithYouの活動を始めてから23年が経ちますが、FriendsWithYouの始まりを教えてください。

サム:僕らが出会ったのは大学生だった90年代で、その頃はレイブシーンがかなり盛り上がっていたんだ。そこには僕らなりのネオヒッピー文化というか、peace、love、unity、respect、みたいな理念があって、共鳴できることが多かった。そんな時代に、デザイン、カルチャー、科学、医療なんかが見直され再構築されていくのを見て、アートも新しい癒しや精神性を探る場として捉えられてもいいんじゃないかと思ったんだ。それがFriendsWithYouの始まりだよ。FriendsWithYouっていう名前は、プロノイアという精神状態を反映させる意味で付けたんだ。プロノイアは、パラノイア(被害妄想)の対義語で、「宇宙が自分を助けようと寄り添っている」っていう状態。つまり、FriendsWithYouと口にすれば世界が君の味方で、君は1人じゃないんだよっていう意味を込めたんだ。

——FriendsWithYouはプロノイアを象徴する最適な言葉なんですね。サムはフロリダ出身、トゥリーはキューバ出身ですがどんな幼少期を過ごしたのですか? 今の活動に特に影響している体験などはありますか?

トゥリー:僕はキューバで育って、14歳の時にアメリカに移住したんだ。キューバは日本と同じ島国だからか、島国ならではの神話や文化があった。閉ざされた場所だからこそ、そういった独特の物語が生まれるんだろうね。それが神話作りの糧になっている部分があるかもしれない。昔からクリエイティブなことが好きで、親も僕を応援してくれたから、周りに恵まれてここまで来れたなと思ってるよ。

サム:僕はフロリダのマイアミ、ブラウワード郡っていうところで育ったんだけど、かなり治安が悪くて怖くて変な場所で、ハードな幼少期だったね。14歳でもう家を出ていたんだ。今の生活や、僕らが作り出しているものとは対極のような幼少期だった。トゥリーも10代からアメリカ社会に馴染むために戦ってきたし、そういった僕らの過去のハードな経験や困難は、転じて今の活動に何かしら生かされていると思うよ。僕なんて若い時はほぼ毎日喧嘩していたようなものだし、2人ともいわゆる普通のストレートな男としてハードな社会で育ってきたけど、それでも、というかそれだからこそ、ソフトな力を信じて大切にする手本になりたいんだ。優しさとか、甘さとか、愛情深さというものの力を大切にしたいんだ。

——20年以上の活動と、今に至るまでの道のりはどんなものでしたか? 2人のモチベーションとは何ですか?

トゥリー:今の僕達はこれまで以上にモチベーションが高いと思う。アーティストっていうのは、ただ何かの技術を磨いて上手くなることが目的じゃなく、どんどん深みを増して、限りなく成長できる職業だ。そのプロセスを通じて自分達の進化も感じられるし学ぶことも多い。一般的な会社の仕事みたいに「この役職まで来たらもう十分だ」っていうこともない。常に変わり続けて、新しい表現を追求し続ける楽しさが、僕らのモチベーションだよ。

サム:トゥリーの言うように、経験や深みが増すほど、僕らはより多くのツールを手に入れられるし、お互いへのリスペクトもより強く感じられる。それがまた探究心と楽しさに繋がるんだ。最初はヨチヨチ歩きで言葉を話すのが精一杯だったけど、今はダンスまでできる、みたいな感じだよ。僕達の作品により興味を持ってくれる現代美術施設も増えてきて、実験的なことや新しい挑戦をさせてもらえる機会も増えたのは本当にありがたいし、よりやる気が湧いてくるんだ。自分達の奥底にあるものをもっと引き出して、表現できることが本当に楽しいんだ。すごくポジティブなサイクルだと思うし、機会を与えてくれる人達や環境に本当に感謝しているよ。

FriendsWithYou「Ocean – Temple of the Sacred Heart」
開催期間:9月13日(金)~ 9月30日(月)11:00~21:00 ※入場は閉場の30分前まで。※最終日は18時閉場。
会場:PARCO MUSEUM TOKYO、渋谷PARCO 4F吹き抜けエリア
入場料:無料
キュレーション:NANZUKA
※アーティストグッズ、エディションプリント等の販売あり