グレース・ウェールズ・ボナーが
手がける新エキシビション
実地でのリサーチを基に作られるグレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)のコレクションは、すっかり話題である。多くのデザイナーの着想源は曖昧なことが多いが、「ユースカルチャー」や「70年代のニューヨーク」など、ショーのほとんどがはっきりとしたコンセプトを基に作られている。
2019年秋冬コレクションで、LVMHプライズの受賞者となった同デザイナーは現在、「A Time for New Dreams」と題したエキシビションを、ロンドンのサーペンタイン サックラー ギャラリー(Serpentine Sackler Gallery)で行っている。2019年春夏でインドの神秘主義を探求したウェールズ・ボナーが今シーズン興味を向けているのは、黒人の精神性と、ディアスポラ(パレスチナ以外の地に移り住んだユダヤ人)の間にある関係だ。
同デザイナーによって開催されたエキシビションには、本人の作品はもちろん、エリック・N.マック(Eric N.Mack)、リズ・ジョンソン・アーサー(Liz Johnson Artur)、ロティミ・ファニ=カヨデ(Rotimi Fani-Kayode)、ラシッド・ジョンソン(Rashid Johnson)など数々のアーティストの作品も展示されている。
ギャラリー内は、彼女のシグネチャーブランドWales Bonner(ウェールズ ボナー)の新しいコレクションの世界に足を踏み入れるたような感覚を覚える空間となっている。「Mumbo Jumbo」をコンセプトに掲げた2019年秋冬コレクションは、西アフリカでは精神科医のような存在である呪術師と米ハワード大学の文化人の集団が着想源となり、それぞれにある神秘主義の意味を探求したものとなっている。
ウェールズ・ボナーは、同コレクションの基礎知識ともなった、米・歴史家ロバート・ファリス・トンプソン(Robert Farris Thompson)の活動を調査する中で魅力を感じていたという。アフリカンやカリビアン特有の慣習や、文化、しきたりと、アメリカ系黒人の美的感覚との関係についての活動である。
「今回のリサーチに強く興味が湧いた。人間はどのように、ある種族または血統と繋がりを持ち、精神性に対する考え方がどのようにその形を崩さず伝達されているか。また、黒人にとっての精神性が、どのような形で美的なものとして語られているのか。精神性とは、形がない。だから、彼らの繋がりや精神についての考え方を探求することが、精神性について考えることなの」と述べる。
今回のエキシビションでは、ギャラリー内に点在するミニチュアの神社と、写真、動画、音楽、インスタレーションがあり、それらは各々が持つ精神性を覗く場所として展開されているほか、様々な歴史的瞬間への繋がり、知性のその先や起源に加えて精神性を表すものとしても並んでいる。
アートとファッションはリンクする部分が多く、2つの領域で活動することは今や不思議なことではない。エディ・スリマン(Hedi Slimane)や、ゴーシャ・ラブチンスキー(Gosha Rubchinskiy)、トム・フォード(Tom Ford)を考えれば分かるだろう。しかし、コレクションの中のコンセプトを得た過程を見せてくれるデザイナーなど稀である。「アートとファッションの境界線は徐々になくなっているけれど、まだ完全には一致していない部分もある」と、ウェールズ・ボナーは語る。「私の学校は、自分のリサーチしたことを表現したり探求したりしてより深い理解をするため、場所や時間を惜しまず使うことを許してくれた。深く考えることができる場所があるのは私にとって、どんな場所でも何かを生み出そうと努力するための重要なこと」
また、「たくさんの人と関与でき、アーティストとしてのチャレンジや、考えを表現できる機会がある。心の中にある考えと対話することや、自分が誰かであるなど、まだ知るべきことがあるのはとても光栄なこと」とも述べている。
「A Time for New Dreams」のエキシビションは2月16日まで、ロンドンのハイドパーク内にあるサーペンタイン・サックラー・ギャラリーで行われている。翌17日には、2019年秋冬コレクション「Mumbo Jumbo」がお披露目される予定である。
Serpentine Sackler Gallery
会場:West Carriage Drive London W2 2AR
会期:1月18日(金)〜 2月16日(水)
- Words by: Lia McGarrigle