2025年の数ある大型デビューの中でも、デムナ(Demna)のGUCCI(グッチ)初コレクションは間違いなく最大級の注目作だ。BALENCIAGA(バレンシアガ)を世界的な存在へと押し上げた彼が、規模のさらに大きいGUCCIでは一体どんな衝撃を見せるのか。

デムナのBALENCIAGAでのヴィジョンが「飾り気のないグランジ」だったとすれば、GUCCIでのヴィジョンはまさに「邪悪なトム・フォード(Tom Ford)」と言える。

デムナのGUCCIデビューが2026年に予定されていたことは広く知られており、2025年末に最初のルックが披露されるとの噂も一部で囁かれていた。しかし、それがこれほど唐突に、しかも自然に姿を現すとは、誰も予想していなかった。

8月中旬、デムナの夫でミュージシャンのロイク・ゴメス(Loïk Gomez)が、レザージャケットに黒シャツ、色落ちしたストレートデニム、つま先が長いシューズを合わせた姿をInstagramに投稿。しかし、その写真はすぐに削除された。

一見するとありふれた装いだが、存在感のある「GG」バックルですぐに目を奪われる。

おそらくこれが、偶然とはいえデムナのGUCCIを初めて目にした瞬間だったのだろう。もちろん確証はない。だがロイクは未発表のものを含め、常にパートナーのデザインしか身につけないため、その可能性は十分に考えられる。

この装いは、デムナの新しい方向性を示すものだ。ただし、BALENCIAGAでのスタイルを完全に覆したわけではない。尖ったシューズや汚れ加工デニムはいかにもデムナらしい。一方で、裾が地面に擦れるほどの超ロング丈のデニムや、小さなスケートランプのように細長いシューズこそが彼の真骨頂で、一目でBALENCIAGAだと分かるものだった。

ロイクの光沢のある “不良っぽい” レザージャケットは、BALENCIAGAでデムナが提案した巨大なカーフスキンボンバーに比べるとずっと控えめだ。もちろん、それが悪いわけではない。

今年のはじめ、デムナは「今はオーバーサイズに全く興味がない」と語っていた。さらに業界関係者によれば、ジョージア出身の彼は、特に90年代にトム・フォードがセクシーな新風を吹き込み、停滞していたGUCCIをよみがえらせた時期から大きな着想を得ていたと言う。

言われてみれば、確かに理屈は通る。

トム・フォード期のGUCCIはいまなおファッション史に残る黄金期とされ、商業的にも批評的にも大成功を収めた。デムナのBALENCIAGA時代は賛否を呼んだが、それすら彼の意図だった。影響力や売上の確かさは疑いようがなく、彼は人々が何を着たいのか、何を買いたいのかを熟知している。救世主を求めるブランドにとって、デムナの真価の発揮はこれ以上ない切り札となる。

もっとも、デムナは模倣をしない。単にアーカイブを掘り返しているだけだと考えるのは間違いだ。アーカイブを漁ることなら誰にでもできる。デムナの真骨頂は、過去からのインスピレーションを挑発的な新しさへと転換することにある。ロイクのルックを見れば分かるように、彼流のトム・フォード美学はよりグランジで、さらに鋭い。「邪悪なトム・フォード」と呼ばれるゆえんだ。スリムフィットでありながらダーク。BALENCIAGAより落ち着きがありつつも、そのムードは決して失われていない。

トム・フォード時代のGUCCIは、大胆な肌見せで時代を席巻した。ランウェイにはシャツを着ないモデルが並び、ときにはボトムスすら身につけず、ビキニトップやTバックがかろうじて肌を覆うだけの姿もあった。だが、そんな全裸に近い挑発はデムナのスタイルではない。むしろ衝撃的なのは、彼のシグネチャーシルエットをそぎ落とし、シンプルにして洒脱な服へと仕立て上げることだ。そしてラグジュアリー界が「リアルに着られる服」を求める今、この選択は実に巧みでもある。