style
Where the runway meets the street

Jun Hyeong Yang / Highsnobiety

例年、年の暮れにこの1年間でトリートファッションシーンに影響を与えた、敬愛すべき人物を紹介している。Highsnobiety Crownsは編集部がピックアップした中から、読者投票により勝者が決まる。私たちの分野(ストリートファッション)で力を発揮してきたり、業界に変化をもたらす新風をバックアップする私たちなりの方法だ。昨年同様に、受賞者にはSnarkitectureHighsnobietyによって製作されたアルミニウムキートロフィーが贈られる。

過去数年間で、ファッションに関するすべてのルールは事実上、完全に逆行したり、行き詰まったり、再定義されている。部分的には、この動きをファッション業界全体の進化・発展と理解することもできなくはないが、実際にはこの変革の大部分は特定の個人によるものと言えるだろう。

この流れは、たとえば「エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)」が2011年にリリースした楽曲「Peso」で「ラフ・シモンズ(Raf Simons)」や「リックオウエンス(RICK OWENS)」のことをラップにしたときのように、大概にして一時的な動きで終わる。だがときに「ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)」の台頭のように、時間をかけて徐々に変化がもたらされることがある。

「インフルエンサー」という言葉は、すでに価値が失われてきているかのように思えるが、その影響は以前として存在する。そして、大事なことは誰の貢献が最も大きかったのか、ということだ。

それでは、ここに今年の最も影響力のある人に授与される“Most Influential Person”と、編集部によるエディターズチョイスを発表したい。

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2017年の最も影響力のある人物

ブロンズ―カニエ・ウェスト

Thomas Welch / Highsnobiety

2017年は「カニエ・ウェスト(Kanye West)」がとてもおとなしい年だったという人がいる。しかし、一見静かに思えたとしても、実態は全く逆だった。

マディソン・スクエア・ガーデンで行われたSeason 3のプレゼンテーション、続くSeason 4のプレゼンテーションではアクシデントに見舞われた「イージー(YEEZY)」。その結果、Season 5の位置づけがより重要となった。SNSでの拡散を極力を避け、一般人のように親しみやすいモデルを起用。インビテーションの数も減らし、閉鎖された場所を会場に選び、そして奇をてらわない昔ながらのランウェイ形式で発表した。これらの”静かな”動きは、明らかにカニエのキャラクターから外れているように思えるが、”らしくない”行動を取ることこそ”カニエらしい”と言えるのではないだろうか。

しかし、2017年のカニエの控え目な言動からは、彼のより大きなビジョンを実現しようという思いが垣間見られた。たとえば、「アディダス・オリジナルス(adidas Originals)」とのコラボレーション「カラバサス(Calabasas)」ラインを発表したことは、「手頃な価格でスタイリッシュな服を作る」というカニエの夢の実現へ、非常に大きな一歩を踏み出したと言える。そして大方の予想通り、商品は即完売した。

他の地域では、カニエは流行の仕掛け人や業界のリーダーとしての存在価値を証明し続けている。2017年の頭に、フィンランドのスニーカーブランド「カルフ(Karhu)」のFusion 2.0スニーカーを履いている姿をパパラッチされたことをきっかけに、そのスニーカーはたちまち大ヒット。一方でイージーの2017年は、YEEZY Boost 750と350モデルの過度なPRが収束した年だった。記事執筆の時点では、350 V2モデルがわずか4つしかリリースされていない。

代わりに、1990年代後半から2000年代前半にかけて多くデザインされたランニングモデルからインスパイアされた、新しいシルエットの「YEEZY Wave Runner 700」が注目を集めた。「バレンシアガ(Balenciaga)」、「ディオール(Dior)」、「アクネ ストゥディオズ(Acne Studios)」など、多くのレーベルからこの”ダッドスニーカー”が発表されていること、そして新たなモデルMud Rat 500がリリースされたことから察するに、明らかにカニエがこのトレンドに深く関わっていることがわかる。

音楽面に目を向けると、2017年は彼にとって比較的静かな1年だった。にも関わらず、カニエを取り巻く噂は後を絶たなかった。年間を通して、彼は「ミーゴス(Migos)」、「ポスト・マローン(Post Malone)」、「キッド・カディ(Kid Cudi)」、「パーティネクストドア(PARTYNEXTDOOR)」、さらには「メアリー・J. ブライジ(Mary J. Blige)」らと一緒にプロジェクトを進行していたと囁かれている。先ごろ、カニエが “Yeezy Sound”の商標登録をしたとの報道があり、音楽ストリーミングサービスをいよいよスタートさせる段階にきたと言われているが、現時点で確かな情報はない。ただ、「影響力」について言うと、結局何らかの形でカニエはいつも話題の中心にいる。

 

シルバー―エイサップ・ロッキー

Eva Al Desnudo / Highsnobiety

「エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)」が自分のことを“ファッションコンシャスなラップボーイ”と例えたことを考えると、2017年の彼のファッション界での躍進は決して驚くべきことではない。エイサップ・ロッキーは、「ミスター・ロボット」の「ラミ・マレック(Rami Malek)」と80年代のポップ・アイコン「ボーイ・ジョージ(Boy George)」とともに「ディオール・オム(Dior Homme)」の2017春夏シーズンの広告キャンペーンに起用され、幸先のいい2017年のスタートを切った。

「ゲスジーンズ(Guess Jeans)」とのコラボレーションは年間を通じて人気だった。加えて、最近は「アンダーアーマー(Under Armour)」と新たなパートナー契約を締結。どのようなコラボレーションになるか詳細はまだ明らかになっていないが、アンダーアーマーに若者の熱い視線が注がれることは疑う余地もない。

おそらく、エイサップ・ロッキーにとって2017年最大のプロジェクトとなったのは、自身が主宰を務めるマルチクリエイティブ集団「アウグ(AWGE)」のポップアップストアをロンドンのデパート「セルフリッジズ(Selfridges)」で開催したことだ。ニューヨークのボデガ(ラティーノが経営する街角のコンビニ)のスタイルで展開されたスペースには、自身のブランドのアイテムからクリスピークリームドーナツにいたるまで、あらゆる商品を取りそろえていた。

しかしながら、2017年彼が“Most Influential Person”の候補者に名前を連ねたいちばんの理由は”空気を読む”能力にある。今流行っているものを知るには、エイサップ・ロッキーを見ればいい。彼の着たものが「クール」であって、彼がディスったものは「終了」なのだ。 彼が愛用した「ラフ シモンズ(Raf Simons)」、「バレンシアガ(Balenciaga)」、「グッチ(Gucci)」のアイテムが、実際に今年のストリートにおけるマストハブとなった。影響力について話すのなら、これだけで十分な理由であるだろう。

 

ゴールド―ヴァージル・アブロー

Jun Hyeong Yang / Highsnobiety

「ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)」は今、ファッション業界において最も意見の分かれる人物かもしれない。ただ、悪口を言う人がいたとしても、それは誰からも相手にされないよりもずっとましなことだ。

自身のレーベル「パイレックスビジョン(Pyrex Vision)」とカニエが手掛ける「ドンダ(DONDA)」で注目されるようになったヴァージル・アブローは、ストリートウェアのファン、ファッション関係者、カニエのファン、そしてインターネット上のあらゆるところで話題の中心となっている。2017年は、アブローを取り巻く議論が白熱した。例えば、「リカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)」の後釜として「ジバンシィ(Givenchy)」のデザイナーに就任するかもしれないという噂は、彼のデザイナーとしての能力について議論を呼び起こした。さらにその後「ヴェルサーチ(Versace)」が彼にアプローチをしていたという噂もまことしやかに流れた。

しかし2017年、アブローのキャリア史上最も野心的なプロジェクトでもって、この議論を収束させた。「ナイキ(Nike)」とのコラボプロジェクト「The Ten」は、スニーカーフリークやファッションファンを熱狂させた一大事であったと同時に、アブローのデザインとスタイルへの我流アプローチが正しかったことを証明した。あなたがスニーカーのデザイナーだとしよう。そのスニーカーを買い、デザイナーに会い、そして買ったスニーカーにサインをしてもらうために大勢の若者が店の外に列を作って待っていたとしたら、きっとネガティブなことを言う外野の声は気にならなくなるだろう。

しかし、アブローの影響力は他のどんなコレクションよりもはるかに広範囲におよぶ。彼は、オリジナルのアプローチをもってファッション業界の頂点へ上り詰めた黒人デザイナーだ。アパレルのインターンに甘んじて、何年も足踏みをしていてはいけない。いつかクリエイティブ・ディレクターになれるはずと淡い期待と抱きながら、10年も1つの場所に留まっていてはいけない。それなりのサラリーを支払い、かつ将来の成功を保証してくれるようなアパレル会社なんて、もはや存在しないのだから。

「ニューガーズグループ(New Guards Group)」から投資を受けているにも関わらず、アブローについて知っておくべき重要なことは、“ヴァージル・アブロー”とは彼が自身で築き上げた1つの帝国であり、ファッション界に伝わる慣習について疑問を提起しているということだ。というわけで、「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー™(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH™)」やアブローを嫌う人がいるとしたら、それはきっと彼のパフォーマンスが低下しているか、もしくは彼を脅威に感じているからだろう。

 

エディターズ・チョイス―デムナ・サヴァリア

私たちの業界で使われる「影響力」という言葉は、どんどん意味を失ってきている。身に着けたものが瞬く間に売り切れになるハリウッドスターや、よく手入れされたネイルの写真で5000「いいね」を集めるティーンエイジャーが影響力を持っているとは言わない。私たちは今、「影響力」という言葉の本来の意味に回帰する必要がある。何かを始める能力、そして人に真似させる能力。彼のことが好きか嫌いかに関わらず、2017年は「デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)」が今のファッションシーンをリードしていることを証明した年となった。

場合によっては、デムナがトレンドを発信した張本人か否かについては議論の余地がある。たとえばチャンキーなスニーカーは、かつてのラフ・シモンズの「オズウィーゴ(Ozweego)」を思い起こさせる。「シュプリーム × ラスト・オリウム(Supreme x Rust-Oleum)」など、世俗的なブランドが真のファッションブランドへと進化を遂げたことは過去にもあった。が、近ごろのデムナの動向には、辛辣なファッション評論家さえも注意を払いじっくりと耳を傾けている。

トリプルSのスニーカーが今年初めにランウェイでお披露目されたとき、オーディエンスは「これが今の気分だ」と言った。「ヴェトモン(Vetements)」が従来のファッションカレンダー(ファッション業界のシーズンというセオリー)を破り、年に2回のスケジュールで、しかもメンズとウィメンズのショーを同時に開催すると発表したとき、それは「現在のファッション界が変わるべきタイミングではないか?」という疑問提起となった。変化に対し、デムナは「Jump」と言い、ファッションは「どれくらい高く?」と聞く。それこそが「影響力」なのだ。