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Life beyond style

2024年3月2日、McQUEEN(マックイーン)に新たな転機が訪れた。2024年秋冬コレクションから、クリエイティブディレクターにアイルランド生まれのショーン・マクギアー(Seán McGirr)が抜擢された。2014年にセントラル・セント・マーチンズを卒業した後、ファッション雑誌や日仏ユニクロでのアシスタントを経て、DRIES VAN NOTEN(ドリス・ヴァン・ノッテン)などで経験を積み、2020年にJW ANDERSON(JW アンダーソン)に入社。最終的にはヘッドデザイナーとして実績を積んだ。

McQUEENは、創業者のリー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQUEEN)によって1992年に設立されたブランド。「僕のコレクションを見終わった後に、嫌悪感でもいいし、ワクワクした気分でもいい、とにかくなんらかの感情が起こってほしい」と語っていたリーの破天荒ぶりには賛否両論が湧き起こることもしばしばだった。「Highland Rape」をテーマにした1995年秋冬コレクションではスコットランド侵攻を批判し、ランウェイを歩くモデル達は胸部や下半身が破かれた衣服をまとっていた。また、1999年に発表した「No.13」では、白いドレスを着たモデルにロボットがスプレーペイントを施すパフォーマンスを披露し、人々を驚かせた。「モードの反逆児」と呼ばれ、多くのセレブリティやファッショニスタから寵愛を受けたリーが2010年に40歳という若さでこの世を去ってからは、スタート当初から彼の右腕であったサラ・バートン(Sarah Burton)がクリエイティブディレクターを務めた。リーのソウルを引き継ぎながら、さらに女性としての視点や広がりを加えたコレクションを数多く発表。2011年にはキャサリン皇太子妃(Catherine, Princess of Wales)のウェディングドレスのデザインを、2012年には大英帝国勲章を授与されるなど、ラグジュアリーの最高峰へとブランドを牽引してきた。

ショーンがデビューを飾った2024年秋冬コレクションは、リーが1995年春夏に発表した「The Birds」を参照した、アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)監督の映画が着想となったコレクションだ。リーを尊敬しているというショーンが選んだのは、1995年から飛び出してきたようなシースルーの生地やジャケット、メタリックな素材。「ファッションは楽観的に楽しむべき」と考えるショーンは、ミレニアル世代の若いエネルギーや観点、カルチャーを今回のコレクションに注ぎ込んだ。「遊び心を忘れず、アグレッシブに。それがこのブランドのDNA」。ショーンが発表したコレクションには、顔まですっぽり隠れるようなプレイフルなニットや、鮮やかな色使いが見られた。リーのアイデアを自分自身の中で噛み砕き、洗練された美しさの中にもどこかダークで不気味な奇妙さを感じさせる。自らの感情を注入し、見た者の内面をむき出しにするリーが闇に光を当てるとするならば、ショーンは人の闇を光でもって昇華する、そんな印象を与える。

若者のストリートカルチャーを巧みに織り込むMcQUEENのスピリットに、音楽からのインスピレーションは欠かせない。2024年秋冬コレクションには、リーの時代から寄り添い続けてきた音楽ディレクター、ジョン・ゴズリング(John Gosling)が起用され、重厚感のあるオープニングからアップテンポへと流れ、フィナーレはアイルランド出身の歌姫エンヤ(Enya)の「Orinoco Flow」で幕を閉じた。グラムロック、サイバーテクノ、パンクなどジャンルと世代の垣根を超えた現代らしい解釈を感じさせる、音楽とファッションが融合したコレクションに合わせて、今回のHIGHSNOBIETY JAPANのシューティングでは「Nico」「Kai」「Kio」の3兄弟で編成されたバンド「Gliiico」が起用された。退廃的なフィールドから新しい時代の始まりを想う。

リーが亡くなって以来、14年間にわたってリーが遺した挑発的でユニークなデザインやクリエイティビティを守りつつ、更新し続けてきた。クリエイティブデザイナーがショーンに代わってからは「Q」の中に小文字の「c」を記した新しいMcQUEENのロゴが発表された。美しい華やかさと棘が同居したMcQUEENから、かつてリーが冒険してきたようなアグレッシブなショーンの時代へ。新たなファッションを描き出す、McQUEENの未来に希望の光が差す。