KIDILL 2021年秋冬コレクション
ブランド:KIDILL(キディル)
キールック:顔や目などのドローイングやグラフィックをコート、ジャケット、ニット、Tシャツなどに施したルックが目立った。2020年から継続してタッグを組んできた「EDWIN(エドウイン)」とのコラボレーションで今回はグラフィックやペイントをあしらったジャケットやシャツ、パッチワークデニムが登場。ひし形を繋ぐようにスタッズが配されたセットアップなど、パンクとストリートスタイルが合わさったアイテムも特徴的だ。
内容:今回が初となったパリ公式スケジュールで発表したコレクションテーマは「DESIRE(=欲望・欲求)」。Nine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)やPoppy(ポピー)のアートワークを手がけたことで知られる、LA拠点のアーティスト ジェシー・ドラクストラー(Jesse Draxler)のモノクロのグラフィックをあしらい、KIDILLならではのパンクスタイルに落とし込んだ。ミュージシャン灰野敬二のノイズミュージックをバックに、今だからこそ自身の信念を宿した服を作るという「欲望」をコレクションに爆発させた。
デザイナーインタビュー:
——最初に服を作った日のことを覚えていますか?
服を作ってみようと思ったのは、27歳くらいですね。趣味として服のリメイクをしてました。ロンドンのブリックレーンにある古着屋で買ったTシャツに、自分で描いた絵をトレースしたハンド刺繍をしたんです。それに、もう一枚のTシャツをレイヤードしながらドッキングした。これがすぐに売れたらしいんだけど、誰が買ったかまではわからないです。
——前身のブランドを経て、2014年にKIDILLをスタートさせます。90年代に自身が体感したロンドンパンクやハードコアパンク、ポストパンク、グランジなどのカルチャーを軸にしていくスタイルは、どう進化していったのでしょうか?
2016年頃まではテーラードを意識したある種のベーシックなスタイルを追求していて、「服をきちんと作らないといけない」という固定観念にとらわれていました。そこでは、本来、自分が得意とする “ファンタジー” が抜け落ちていた。文字通り夢のようなものだけど、自分が好きなカルチャーと深く繋がりあっているんです。2017年に、Tokyo新人デザイナーファッション大賞の東京都知事賞を受賞した頃からこうした服作りの考えが変わってきた。ファンタジーのコアである音楽やユースカルチャーなど、自分の好きなものを服作りに反映させたいと思うようになってきた。
——現在のスタイルにも通じる前向きな転換は、どのようにもたらされたのでしょうか?
世の中にデザイナーがたくさんいる中で、彼らに負けないものは何かというシンプルな発想が第一にありました。自分が世界で戦っていける武器を模索した時、音楽やストリート、それらにまつわるカルチャーに正直に向き合い、文化への深いリスペクトを自分が得意とするパンク、ロックの文脈やファッションに落とし込んで作るというところにたどり着いた。そうそう負けないだろうなって考えた。その頃に写真家のデニス・モリスと知り合って一緒に仕事をしたことが自分にとっては大きなきっかけを生んだ経験になりました。同時に、ドーバーストリートマーケットやトレーディングミュージアム・コム デ ギャルソンで取引が始まる年でもあった。そこで、「パンクが好きならば、それを続けなさい」と、川久保怜さんの言葉としてトレーディングミュージアム・コム デ ギャルソンのバイイング担当者から伝えられたことがあったんです。迷走していた自分を導くセンテンスに、すっと心が楽になった。だって、得意なフィールドでやっていけば良いんだ、ということだから。本当に感謝しています。もっとも尊敬しているデザイナーに刺激のある助言をいただけたことが、俺の人生を変えた。実際に、あの言葉の通りに自分はデザイナーを続けているし、2021年秋冬からパリのオフィシャルスケジュールに入ることができている。紛れもなく、ターニンングポイントです。
——マインドセットの変革が起こって以降のKIDILLにとって、“コラボレーション”はコレクションにおいて欠かせないものになっています。ヒロさんが、自分自身が敬愛しているもの存在を確かめているように、彼らへの愛を表現するのがKIDILLなんじゃないかと思っています。
あってるよ。逃げ場はないよね(笑)。基本的にオリジナルのテキスタイルを共に制作することが多いけれど、コロナ以降、デザイナーとして何ができるのかを常に考えている。ファッションデザイナーとして思うように発表ができない状況になり、自分の場合は展示会だけをやっていても面白くないと気づいた。自分達らしい表現を具現化できるショーという形式に意義を見出しているKIDILLにとって、必然ですね。だからこそ、服そのものの強さについて真剣に向き合う時間を過ごしてきた。
2021年秋冬は、いかに自分の感性や思想を服にどれだけ叩き込めるか、そういう闘いをしているのかもしれない。自分は今後、それをし続けるのかもしれない、と今思っている。自分が好きなことを爆発させていかないといけない。売上も大切だけど、それよりも大切なことが絶対にある。誰が何を言おうとね。終わる時は終わる。だから、自分のコアを表現し続けようと決意したんです。
コレクションでは、必然的に外見の強さにも繋がっていくけれど、もっと精神性の部分が大事。「服だけど服じゃない」、そういう感じにしたかった。きっかけはいくつかある。世界情勢を考え、地球の未来を憂う、ウィンストン・スミスさんとの2021年春夏コレクションでのやり取りを通じて自分が偏狭だったと気づいたこともあった。
——ブランド名は、カオスの中にある純粋性を意味する造語でもある。ピュアネスを突き詰めると狂気になるのかもしれない。
まさにその通りなのかもしれないね。とある人物が、「好きなことばかりやっていたら、ただのオナニーになる」と言っていたんだ。夢がないなと単純に思ったね。そうした考えとは、真逆の作り手がいてもいいんじゃないかと思う。自分達は、もがく。懸命にもがいて、先が見えない状況って自分が成長していくためにかなり大切なんだと知ってるから。不安定で、足元がぐらついて、ギリギリの精神状態でやっているけど、昨日の自分は超えることができたという闘いを、俺の周りの人達はみんなやっている。それでいいんだよ。だから、先に進める。それこそパンクだ。ついつい弱気になったり保守的になるけど、俺はやめた。それくらいの決意を持って服を作りたいと思う。ありがたいことに、今は一人じゃないし、安心して仕事ができる仲間もいる。
——2021年秋冬の即興的なショーミュージックは、灰野敬二さんによるものでした。これまで話していただいたことと関連していますか?
もちろん。1970年代初期から自分を貫き通し、一切の妥協をせず、未だにやり続けている姿勢と思想は、俺の言葉で言うなら唯一無二のパンクだと思うんです。彼はパンクと言うと嫌がると思いますけれど、尊敬を込めてそう言いたいですね。俺達が生まれる前から音楽と向き合い、彼にしかない唯一無二のパフォーマンスで世界各地でライブをやっている日本の第一人者である。二回り以上世代が違うけど、考え方を共有できる部分があると信じてる。色で言うと、黒のイメージ。ただし、黒なのにカラフルなんです。赤も緑もある。ダークサイドな部分がある一方、ロマンティックな人でもあるんです。自分の頭の中のごちゃごちゃを120パーセントの純度で吐き出すような、純粋で濁りのない音楽をやられている。だけど、やっぱりロマンチック。話してみるとチャーミングな一面があったりする。ショーについても頑固一徹で、真剣だった。そうした人柄もすごい好きですね。濁ったものは自分に取り入れない生き方と言えばいいんでしょうか。
——自分の感性を爆発させたいという2021年秋冬コレクションと固く手を結んでいますね。
本当にそうです。俺も貫きたいことがある。灰野さんとはやっていることは全然違いますが、彼にも「もし妥協するならやらない。それが嫌ならオファーするな」と言われましたね。光栄です。
——今シーズンは、ジェシー・ドラクスラーとは、アートワーク全般でコラボレーションしていますがきっかけは?
ポピーのアルバム『I Disagree』を見たのがきっかけで、ジェシーのことを知りました。モノクロ写真にペイントしていてかっこよくて、ファンとして調べてみたのが始まり。ゴスやメタルの匂いがするグラフィックやペイントで、純粋に好きになったんです。共通する友達もいなかったけど、こちらからコンタクトし始めた。テキスタイルからタグ、招待状の封筒、プレスリリースまで、彼は俺がやりたいと伝えことを真摯に受け入れ、最高のフィードバックをくれるんです。コラボレーションは継続しているEDWIN、rurumu:、Dickiesに加え、HYUSTO、CA4LAのプロダクトとも取り組んでいます。
- Interview: Tatsuya Yamaguchi