スニーカーのモノカルチャー経済、その華やかな幕切れ。
かつて、良いフットウェアと言えばひとつに決まっていた。退屈な話だ。だが今や光が差し込んだ。フットウェアはすっかり民主化され、特定のシルエットはもちろん、特定のブランドに縛られることもなくなった。今日のフットウェア文化は、もはや “人気スニーカー” だけでは語れない。
トレンドを利用して利益を拡大するフットウェアメーカーにとっては悩ましい現象とは言え、このことは(ポスト)スニーカー文化の繁栄を意味している。流行よりも好みが大事になることは遥かに良いことだ。
かつては、2017年のBALENCIAGA(バレンシアガ)の「トリプル S」、2019年のNIKE(ナイキ) × sacai(サカイ)の「LDワッフル」やトラヴィス・スコット(Travis Scott)の「エアジョーダン1」など、時代を代表するスニーカーが存在し、数多くの模倣品、トレンド、転売価格の高騰を呼んだ。
そうしたスニーカーは、どこにでもあった。そして同時に、所詮はスニーカーでしかなかった。
変化が起きた背景としては、パンデミックによりフットウェアが強制的にリセットされたことと、ファッションの個性崇拝が終わりを迎えたことが少なくとも部分的にはあるだろう。文化が進化したわけだ。
現在スタイリッシュな人々は、フラットシューズ、レザーシューズ、スケートシューズ、ランニングシューズ、デザイナーシューズ、そしてトゥシューズなどを評価している。ボートシューズやビーチサンダルも、機能性抜群のSaucony(サッカニー)や BROOKS(ブルックス)のランニングスニーカーに匹敵するクールな存在となった。DR. MARTENS(ドクターマーチン)のブーツ、DRIES VAN NOTEN(ドリス・ヴァン・ノッテン)のスウェードスニーカー、ダッドシューズ、Maison Margiela(メゾンマルジェラ)の足袋スリップオンといったアイテムもシーズンを問わず人気を集めている。
もちろん支配的なトレンドは今も存在する。低価格帯からラグジュアリーまで数十のブランドがNew Balance(ニューバランス)のスニーカーローファーとMIU MIU(ミュウミュウ)のコラボを後追いする一方で、MIU MIU自身はさらにヘビー級の領域へと踏み込んでいる。Adidas(アディダス)とPUMA(プーマ)は、バレエをモチーフにした人気フットウェアを大量生産している。とは言え、現在はやはりモノカルチャーではない。
New Balanceのオリジナルモデルと同じく後発のスニーカーローファーが完売状態に至っていることは、世間の関心が今、特定のシルエットではなくトレース可能なスタイルに対して高まっていることを示す事実だ。例えば話題のadidasのシルエットを履きたいと思った場合にも、現在では「スタンスミス ローバレエ」、「スタンスミス エスパドリーユ」、「サンバ メリージェーン」、「タバコ」、「カントリー」、「SL 72」と豊富な選択肢がある。フラットシューズだけでこれだけのバラエティがある時代だ。
NIKEがスニーカー界の最高権威の座を失ったことは非常に分かりやすい例だろう。かつてNIKEとジョーダンとのコラボレーションやニュースクールランナーと言えば支配的存在だったが、現在のNIKEはマス市場へと降格している。しかし現代は白黒のはっきりした世界ではない。HOKA(ホカ)やOn(オン)に追随する立場となっているとは言え、NIKEのスニーカーの少なくとも一部には今も力がある。
それは今日のフットウェア文化に、知名度や人気度の点で多くの種類が混在しているためだ。スニーカーはかつてないほど巨大な存在感を持っているが、スニーカーらしからぬ多様なアイテムも並んで存在している。頑丈なソールを備えたレザーのレースアップ、夏向けのフラットなスリップオン、OUR LEGACY(アワーレガシー)のドレススニーカー、SALOMON(サロモン)のテクニカルハイカーなどがどれも人気を博している。特定のブランド、特定のフットウェアがクールということではない。最近のファッションウィークのストリートスタイルを見れば、流行の服が混在する中で、フットウェアの多様化は明らかだ。
昔はもっとシンプルだった。今の方が良いという意味で。
@ootd Streetwear edition!! Nothing compares to NYC street style, these girls get it 😎 #OOTD #streetwear #outfit #fashion #inspiration ♬ Victory Lap – Fred again.. & Skepta & PlaqueBoyMax
- Words: Jake Silbert
- Translation: Ayaka Kadotani
- Thumbnail Photography: © Highsnobiety / Asia Typek