style
Where the runway meets the street

今のPRADA(プラダ)メンズウェアは本当に良い、と言えば、前のPRADAメンズウェアは良くなかったという風に解釈するだろうか。そうだとしたら誤解だ。PRADAは前から素晴らしかった。ただ、今が本当に良すぎるだけだ。

ブランド自体が大きく変わったわけではない。むしろPRADAを取り巻く世界が変化し、2024年春夏メンズウェアのキャンペーンで、今のPRADAの流れが一際優れていると世界に認識させたのだ。

トム・ホランド(Tom Holland)やフランク・オーシャン(Frank Ocean)など名だたる著名人を起用していた前のPRADAのキャンペーンが裏付けに不十分だったということでもない。2024年ゴールデングローブ賞でも、PRADAはベラ・ラムジー(Bella Ramsey)やウィレム・デフォー(Willem Dafoe)といったスタイルアイコンの強い印象を残し、その存在感を示したが、2024年春夏キャンペーンに関しては、さらに脱帽せざるを得ないと言わせるかのように、卓越した瞬間を感じさせる。

広告には、ハリス・ディキンソン(Harris Dickinson)、トロイ・シヴァン(Troye Sivan)、ケルヴィン・ハリソン・Jr(Kelvin Harrison Jr.)など、実に影響力を持つ若手スターが出演しているが、ハンサムな顔を強調しているだけではない。PRADAの場合はいつもそうであるが、リアルクローズに重きを置いているのだ。

©︎PRADA / WILLY VANDERPERRE

ファッションにおける真正性というゲームをPRADAほど行動で示すブランドはほとんどない。

例えば、クリエイティブ・ディレクターのミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)やラフ・シモンズ(Raf Simons)が自分達の商品がいかに素晴らしいかを大々的に宣伝することを、誰も期待しない。彼らやメゾンのやり方ではないからだ。

それにも関わらず、ありとあらゆるところでPRADAを見かけるのは、みんなが純粋にそれを着たいと思っているからだ。

ポーチ付きショルダーバッグやモノリスブーツの模倣品は至る所で見かける。PRADAによる素材実験だけでもトレンドが生まれる。業界を組織する姉妹ブランドのMiu Miu(ミュウミュウ)については、言及するまでもない。

トライアングルロゴに自信を持つPRADAは、この形そのものを単独でブランド化した服も製造し始めている。それだけでも十分、服が売れるからだ。(この装飾が施された$3,900のカシミヤカーディガンは、オンラインで全サイズ売切れだ)。

影響力を担っているのはロゴだけではない。 “着やすさ” こそが、PRADAの中核であり、おそらくほかのどのハイエンド商品よりもそれを重視している。PRADAは、親しみやすいエレガンスと、贅沢でありながら多用途性を兼ね備えたものを常に約束してきた。

©︎PRADA / WILLY VANDERPERRE

今のPRADAメンズウェアも、これまでと変わらずにこの姿勢を完璧に映し出している。しかし、ラグジュアリー製品の買い手がリアルクローズを求める現代の風潮において、ここまでそれを重要だと感じることはなかった。

「僕がPRADAを着る理由は、単に洋服を好きだからという理由だけじゃなくて、ミウッチャの考え方に共感するから」。PRADAに加わる前のシモンズは語る。「世の中には大変素晴らしいものをたくさん作っているブランドがあるけれど……。僕が共感できる考えじゃなければ、そんなものはいらない」

これはシモンズが常に心得てきたことだが、PRADAを購入する最近の人々は、彼の視点をよく理解し、分かち合えるようになりつつある。

PRADAのひたむき志向を立証する、PRADA 2024年春夏キャンペーンをもう一度見てみよう。

例えば、ディキンソンは、ゆったりカットを演出したフィールドシャツに、グロッシーなレザーのショルダーバッグでアクセントをつけている。精巧であり、タフだ。着心地が良い。

©︎PRADA / WILLY VANDERPERRE

一方シヴァンは、何カ月も作業現場で着古したかのような、色褪せて傷んだルーズなチョアコートを着ている。

©︎PRADA / WILLY VANDERPERRE

この一着は、今のPRADAメンズウェアを完璧に表している。世界中の彼らが毎日肩をすくめて着ているようなものにエレガントなアレンジを施し、親しみやすく、着心地が良い。

ただ名前の違うCarhartt(カーハート)ではない。PRADAの着古されたワークウェアは、柔らかい裏地とクラック加工が施されたレザーの襟によって格上げされ、ヴィンテージのワークジャケットには見られない(そしてその場合でも、PRADAの品質レベルには及ばない)考え抜かれたディテールが落とし込まれている。

PRADAが不可欠な存在だと感じるのは、人々は自分が買うものと真のつながりを求めているからだ。彼らは、実質的でありながら豪華なものを欲している。

PRADAは長きにわたり、このバランスを完璧にこなしてきた。現在のコレクションは、エフォートレスでありながら、自分だけの特別なデザインになるようなもので彩られている。リラックスしたパジャマシャツ、シルクのトラックジャケット、グラフィックシャツは、無理なスタイリングを必要とせず、どんな日にも合う。

おそらくこれは、派手なブランディングより、形、質感、感情、衣服そのものを通して自己表現することに重きを置く、クワイエット・ラグジュアリーの真の在り方と言えるかもしれない。(参照:ロゴのないPRADAロゴ)

賛同が欲しい一心で、あれこれとトレンドを急いで追わないPRADAのコンテンポラリーメンズウェアを “根気強いラグジュアリー” と考えてみてほしい。彼らはいつだってここにいて、時代の流れが自分達の思想に戻る瞬間を根気強く待っているのだ。