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ミウッチャ・プラダ、世界を手中に

その歴史的発表は、的を射抜くベテラン狙撃手のような冷静さをもって伝えられた。4月10日の早朝、プラダ・グループ(PRADA Group)はVERSACE(ヴェルサーチェ)を約15億ドルで買収した。チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)の進化論、適者生存を思わせる、主要イタリアラグジュアリーブランドの競合吸収劇であった。
プラダ・グループがその後すぐに発表したプレスリリースは、「(VERSACEには)強いポテンシャルがある」や「未開拓の成長余地が大いにある」とやや自画自賛感のある調子で、意味としては要するに「(VERSACEは)破産しているわけではないが、我々が立て直してやる」と語る内容であった。
PRADAが言うことは信じるようにしている。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)がその才能で正当に獲得した「ファッション業界の巨頭」の地位に輝くPRADAとしては、これでも最大限、謙虚な物言いである。ファッション業界はPRADAのものであり、他のブランドはただその中で生きているに過ぎない。
ファッション商品検索エンジン「Lyst」のラグジュアリーブランドランキングで、プラダ・グループのPRADAとMIU MIU(ミュウミュウ)は2024年2回でも3回でもなく、4回もトップにランクインしている。MIU MIUの成功を支えたのは控えめな超日常的フリースの爆発的ヒットなどだ。
2024年はMIU MIUの年、そしてPRADAの年という、この順序においてこの2ブランドの年であった。
PRADAのポップな姉妹ブランドMIU MIUは、ローライズスカート、ローライズスニーカー、男性による女性向けファッションへの意識と、かつては考えられなかったトレンドを次々と生み出している。PRADAが静かに知的なラグジュアリーを追求し続けるように、MIU MIUは本物の良い服と若者文化への巧みなアプローチ(インフルエンサーイベントなど)を織り交ぜることで快挙を成し遂げた。
ラグジュアリー業界が長期的不況にあり、他のラグジュアリー企業の大半が利益の圧迫に苦しむ中、記録的な成長を遂げたPRADAは、世界の一流不動産市場にも本格参入している。大規模な新店舗のオープンに加え、PRADAは、まだ正式には発表されていないものの、ニューヨーク、ソーホー地区にある旗艦店の階下の、長年飲食店の入っていた物件を獲得した。このスペースは、ミウッチャの息子、ロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)の手がけるアメリカ初のPRADA カフェに改装される可能性が高い。
全てはPRADAの傘下で進んでいる。ミウッチャ・プラダは75歳ながら、次世代の指揮も執っている。
ベルテッリは、プラダ・グループを裏で操る意外な後継者で、業界関係者によると、VERSACEの買収を後押ししたと言われている。そしてVERSACEのトップに就任したのはMIU MIUの元アーティスティックディレクター、ダリオ・ヴィターレ(Dario Vitale)。MIU MIUの勢いを物語る事実だ。一方、元デザイナーのドナテラはチーフブランドアンバサダーに異動し、ファッション界で最も影響力のある女性デザイナー二人が同一グループ内に統合される形となった。
そしてラフ・シモンズ(Raf Simons)だ。シモンズと言えば、彼の世代における最も優れたメンズウェアのデザイナーであり、業界の巨頭だった。彼にできないことなど何もなかったはずであり、ラフ・シモンズブランドを永遠に続けることもできたはずだ。しかし、シモンズは自身のブランドをPRADAストーリーに統合した。ミウッチャ・プラダにそれだけの魅力があるということだ。
地に足の着いた服(それが「良い服」と呼ばれることもあるだろう)の魅力をこれほどはっきりと理解している現役デザイナーは他にいない。
ミウッチャは見事なまでの先見の明(MIU MIUが2022年にランウェイに送り出したバイカーブーツは、2年後には至る所で目にするようになった)と、良い服への頑固なまでのこだわりを併せ持っている。
カーゴポケット付きのシャツやプレフェイドのワークウェアジャケットなどの、画面を突き破って手に入れたくなるほど優れたアイテム。PRADAのシンプルで無駄のないラグジュアリーは一般の人には「退屈」に映るかもしれないが、訓練された目には、ブランクーシ(の彫刻作品を鑑賞するとき)のように、ミウッチャ・プラダが洗練の達人であることがわかる。ラグジュアリーを台無しにする不要な装飾を次々と削ぎ落とし、服の生の美しさを露わにしている。
そしてMIU MIUは、まさにMIU MIUだ。フィルターを通さない、ありのままのミウッチャの姿である。楽しいプレップスタイル、ウォッシュアウトワークウェア、斜めになったスクールユニフォーム、クラシックなアメリカンブルーデニム、クールなサーファー感。若者が手に入れ、TikTokやYouTubeに投稿しているようなアイテムの、より高価でより決然としたバージョンだ。
年配デザイナーが手がけ、若者の言語で服を売り込もうとする大半のラグジュアリーブランドとは異なり、MIU MIUには全く時代遅れなところがない。これはスタイルの転換によるものではない。ミウッチャ・プラダは常に居場所を変えていない。文化の方がそこに戻ってきたということだ。
ミウッチャ・プラダの力はそこにある。そしてその力は、ミウッチャ・プラダがほぼ40年間前、衝撃的なまでに現代的な、すぐに着られるラグジュアリーウェアの最初のコレクションを発表したそのときから、常にあり続けている。
これまで多くの人が注意を向けてこなかったものが、いよいよ明らかさを増し、無視のしようもなくなった、ということに過ぎない。
- WORDS: JAKE SILBERT
- TRANSLATION: AYAKA KADOTANI