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Where the runway meets the street

ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)のLOEWE(ロエベ)退任からわずか1週間後、LVMHは速やかに後任を発表した。業界全体で進行中の大規模な再編の一環として、スペインのラグジュアリーブランドLOEWEの次期クリエイティブディレクターに、アメリカ人デザイナーのジャック・マッコロー(Jack McCollough)とラザロ・ヘルナンデス(Lazaro Hernandez)が就任する。その手腕が気になるところだ。

マッコローとヘルナンデスのLOEWE就任の噂は1月に浮上した。2人が2002年に共同設立し、以来率いてきたCFDA賞受賞のウィメンズウェアブランド、PROENZA SCHOULER(プロエンザ スクーラー)を退任すると、噂はさらに広まった。

シャープな仕立てで知られるPROENZA SCHOULERは、2人の大学卒業制作プロジェクトとして始まり、やがてニューヨーク・ファッション・ウィークの常連ブランドとなった。一時期はVALENTINO(ヴァレンティノ)グループとの共同所有となったが、やがてマッコローとヘルナンデスが自社株の全てを買い戻した。しかし2人のLOEWE就任が決まった今、今後の動向は不透明だ。

実務の詳細はさておき、誰もが疑問視しているのが、PROENZA SCHOULERの2人がアンダーソンの水準に到達できるのかという点だ。アイルランド出身のデザイナー、アンダーソンは、無名のレザーグッズメーカーであったLOEWEをわずか10年余りで$15億ドルのファッション企業に成長させた。その後任となれば、芸術性、職人技、商業性のバランスを適切に取りながら重大な(かつ特異性の高い)責務を果たさなければならない。

LOEWEが競合他社同様、第一にアクセサリーブランドであることは、重要なポイントである。現在ではアイコンとなった「パズルバッグ」は、アンダーソンがLOEWEで初期に手掛けたアイテムであり、間違いなく最も長く愛されているもののひとつだ。アンダーソンの退任後も、長く生き残るだろう。

@loewe Making the #LOEWE classic Puzzle bag in our Spanish atelier. The Puzzle is the debut bag for LOEWE by Creative Director Jonathan Anderson and comes in both ‘classic’ and ‘edge’ constructions. #MakingOf #ASMR ♬ ワルツ第10番/ショパン・ピアノ – Noi m knot

奇しくも、PROENZA SCHOULERの初ヒット作も同様のバッグであった。そしてこのバッグは稲妻のごとく衝撃を与えた。カップルから仕事の相手となった二人が考案し、「PS1」と名付けられたこのミッドサイズのバッグは、2000年代後半から2010年代初頭の時代を象徴するイット・ピースに必ず挙げられるアイテムだ。

前兆かどうかはさておき、過去にヒット作があったからとて、今後のヒットメーカーになり得るものだろうか。目に見える部分では、マッコローとヘルナンデスには、コメント欄で皮肉で言われている以上に、アンダーソンと共通する点が多い。例えば他の分野からインスピレーションを多用し、画家、彫刻家、建築家へのオマージュをコレクションの随所に散りばめている点などだ。

アンダーソンのような遊び心には欠けるが、2人には超現代的なスタイルへの愛がある。非対称のドレープ、革新的なシルエット、カラーブロックの達人である2人は、LOEWEのシュルレアリスム的スタイルと1世紀近くの伝統に、より未来志向のミニマリストなエッジを注入することのできる存在だ。「LOEWEの次章を築くための自然な選択として、折衷主義的創造性とクラフトへの情熱を持つ2人を選んだ」とLVMHのシドニー・トレダノ(Sidney Toledano)は述べた。

美的感覚以外の部分でも、三人とも時代精神を注意深く観察し、強力な戦略で成果を上げてきた。アンダーソンはコスチュームデザインやOn(オン)とのコラボレーションにより、LOEWEに新たな層を引き寄せた。一方、PROENZA SCHOULERは最近のVANS(ヴァンズ)や SOREL(ソレル)とのコラボレーションやフレグランスライセンス、ディフュージョンライン「White Label」で、価格に敏感な層へのアクセスを実現した。

PROENZA SCHOULERの現在の関連性や影響力をLOEWEと同等と捉えるのは正確とは言えないだろう。同列でない両者を比較する行為は、インターネット社会の性だが、公正ではない。マッコロー、ヘルナンデスはこれまで独自に困難に直面し、打ち勝ってきた才能あるデザイナーではあるが、今回のバトンタッチでは、巨大グループがバックについている以上、資金が提供され、アンダーソン退任後の不安状態が和らげられることとなるだろう。

LVMHの狙いがもし単に、成功している既存のLOEWEのハンドバッグコレクションを繰り返し作り、時折発展させ、それにより規制服の着用性を向上させるということにあるのであれば、ニューヨーカーの二人は確かに適任だ。そして今回の就任により二人がこれまで自らに課してきた「フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)に対するアメリカとしての答え」になるという重荷から解放されるのなら、なおさら良いだろう。

いずれにせよ、任務の遂行には、財力や技術力よりも、どれだけの時間をかけられるかが真の課題となる、ということを最近の歴史は物語っている。

ジョナサンとてLOEWEをじっくりと時間をかけて煮込んできた。ジャックとラザロだけが、手早く炒め上げなければならないということはあるだろうか?

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