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LOEWEに革命をもたらしたジョナサン・アンダーソンの次なる挑戦
ファッション界の “公然の秘密” がついに現実に。LOEWE(ロエベ)のクリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が正式に退任した。
約1年にわたる業界のささやき、涙にあふれたランウェイのフィナーレ、そしてあからさまなInstagram投稿を経て、ついに真相が明らかになった。40歳のアンダーソンは晴れてフリーエージェントとなったのだ(彼の名前が挙がるDIOR(ディオール)での新たなポジションについては、また後ほど詳しく触れる)。
「ファッション・アワード」で2度「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、2023年にはCFDAの「インターナショナル・デザイナー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたジョナサン・アンダーソンは、11年間にわたりクリエイティブ・ディレクターを務めたスペインのラグジュアリーメゾンLOEWEに革命をもたらした。
1846年にスペインの職人達によって皮革工房として創立されたLVMH傘下のLOEWEは、長らくクラフトマンシップにこだわるニッチな存在としてあり続け、既製服の分野には本格的には踏み込んでこなかった。そのことは、アンダーソンが2024年に発表した「スペリング・ビー」(単語の綴りの正確さを競う大会)をテーマにしたキャンペーン映像で遊び心たっぷりに表現している。
とは言え、アンダーソンの卓越したクリエイティビティによって、LOEWEは長らく一般層にも支持される成功を収めてきた。
LOEWE在任中、アンダーソンは緻密に計算されたバランス感覚を発揮した。ややシュールで実験的なコレクションを展開しながらも、誰もが欲しがるハンドバッグやロゴ刺繍入りジーンズといったアイコニックなアクセサリーやアイテムを軸に据えることで、見事に商業的成功を収めた。
まるで現実に飛び出したテレビゲーム『マインクラフト』の服! デザインから草が生えた植物実験! 大人向けの「ポーリーポケット」風の服! そんな見応えのあるランウェイショーでのユニークな演出が、LOEWEをファッションウィーク屈指の注目ブランドに押し上げた。これにより、アンダーソンの独創性と観客の心を掴む巧みなセンスが証明され、LOEWEは高い評価とブランド認知の拡大を同時に獲得した。
アンダーソンの幻想的なデザイン言語は非常に独特で、奇妙な形をしたトマトのような何気ないものですら「まさにLOEWEらしい」と形容されるほどだった。こうした評判は、確かな商業センスの賜物である。
2023年、同ブランドは年間利益を60%以上増加させた。さらに2024年第2四半期には、ファッション商品検索エンジン「Lyst」がLOEWEを「世界で最もホットなブランド」に選出し、成功の要因としてアナグラム入りタンクトップ、バスケットバッグ、そしてコラボスニーカーの「On」を挙げている。
かねてからの噂では、LOEWEのオーナーであるLVMHが、同グループの中でも最大級のメゾンのひとつであるDIORへアンダーソンを昇格させる準備を進めていると言われていた。
キム・ジョーンズ(Kim Jones)が退任して以来、DIORはメンズウェアデザイナー不在の状態が続いている。マリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)はウィメンズウェアのクリエイティブ・ディレクターを務めているが、今月初めに発表された2025年秋冬コレクションが彼女にとって最後のコレクションになるという噂も囁かれている。
あくまで現時点では噂に過ぎない。しかし、アンダーソンのLOEWE退団は憶測をさらに加速させるだろう。
※4月17日、ジョナサン・アンダーソンがキム・ジョーンズの後任に就任すると正式発表された。
これはアンダーソンにとって、大きなステップアップになるだろう。今の地位からさらに上を目指せるとすれば、これしかないのかもしれない。
アンダーソンは、自身の名を冠したレーベルやLOEWE、さらには量販店のUNIQLO(ユニクロ)においても、批評・商業両面で成功を収め、業界から高い評価を得てきた。しかし、DIORでのポジションは、彼に国際的な名声をもたらすことになるだろう。
※本記事は、2025年4月にHIGSHNOBIETYに掲載された内容です。