HERMÈS(エルメス)は、世界で最も入手困難なバッグを生み出すことで名声を(当然ながら)築いてきたが、比較的手が届きやすい形でそのエレガンスの世界観に触れられるのは、むしろ個性的なレザー小物の数々かもしれない。

2026年秋冬コレクションの発売に先駆け、私達は今シーズンの新たなオブジェクトシリーズを一足先に見るべく、HERMÈSのショールームを訪れた。

予想通り、そのラインナップはどれも非常に贅沢で、もはや “持ち歩けるアート” のようだった。特に、バレニアカーフを用いた虫眼鏡は、まるで20ドルのアダプトゲン入りスムージーの成分表を確認する社交界のセレブのために誂えられたかのような仕上がりだった。

ほかにも、HERMÈSオレンジのミニサイズの巻き取り式メジャーや「A vos Souhaits!(お大事に!)」と刺繍されたティッシュケース、そして毎日のマルチビタミンを入れるのにちょうど良さそうな、洗練されたステンレス製の円形ピルケースなどが揃う。いずれも、柔らかなバレニアカーフを使用している。

こうしたアイテムが魅力的なのは、精巧で美しいから——もちろん実際そうなのだが——それだけではない。そこには、HERMÈSが肩の力を抜き、普段の完璧さを少し崩しながら遊び心を見せている感覚がある。通常こうしたメゾンは、禁欲的なエレガンスの象徴として語られる。だからこそ、少し茶目っ気のあることをされると、つい惹きつけられてしまうのだ。

近年のHERMÈSは、iPhoneやApple Watch、Air Pods向けの「Paddock」シリーズのアクセサリーから、昨年ランウェイに登場した、あまりにも洒落たオールレザー仕様のラジカセまで、思わずコレクションしたくなるようなアイテムを次々と生み出している。

確かに、後者は実際には音楽を再生するラジカセではなく、キーポールバッグなのだが、とにかく見た目が圧倒的に格好いい。さらにHERMÈSは、“クワイエット・ラグジュアリー” では物足りず、重低音を求める人々のために、ブランド内の実験的部門「Hermès Ateliers Horizons」が手がけた、15,000ドルの完全受注生産による本格オーバーイヤーヘッドホンまで販売している。

HERMÈSをはじめとするラグジュアリーブランドが、ようやく思いきり遊び心を解放し始めているのを見るのは実に楽しい。LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のiPod型やロブスター型のレザーバッグ(さらにはHERMÈSの若い雄牛のレザーとナイルクロコダイルを使用した、19,100ドルのピンクの装飾馬)が示しているように、いま私達は “贅沢な遊び” のルネサンスの真っ只中にいる。

HERMÈSの2026年秋冬の新作オブジェは、その “贅沢な遊び” をさらに加速させている。そして改めて思い知らされるのだ。私達のような庶民の指では一生触れることのないような最高級レザーで包めば、どんなものでも美しく見えてしまうのだと。