「リアルネス」美学が肯定する世界:RMK クリエイティブディレクター YUKI
ありのまま、サステナブル、ジェンダーレスといった用語があらゆるメディアを通して蔓延しているが、美の価値観は10年前と変わっただろうか? マナーとしてのメイク、人に合わせるメイク、キャパオーバーの市場を拡張するためのメンズメイク、そのどれもが巧みなマーケティング活動によるもので、本質的な美やその多様性、ジェンダー視点で言えば、社会的な意識改革の種になっているかも疑問である。非常に規模の大きい市場なだけに、社会に与える影響は絶大。だからこそ、メイクは正しく導かれるべきではないだろうかと筆者は思う。
ニューヨークで多くのセレブリティやファッション誌のエディトリアルで活躍する傍ら、2年前にRMKのクリエイティブディレクターに就任したメイクアップアーティスト、YUKI。彼のリアルネスとひらめきの哲学は、新しい美のあり方への突破口となると感じずにはいられない。
トレンドレスなYUKIの美学が息づく、今夏新発売となるフォールコレクション「LOVE MONOCHROME」をひっさげて、ビューティーの本質を、社会へのアティチュードを示す。
——新しく発売されるフォールコレクションの出発点について伺えますか?「LOVE MONOCHROME」というテーマで、何に着想したのでしょうか?
僕のリアルな日常の身の回りにいる友人や、クリエイティブな仕事の仲間たちでした。人間としても、クリエイターとしても、インスピレーションをもらったり、人間力がある人だったり、そういう人にカリスマ性を感じる彼ら彼女たちに使ってほしいという思いでアイシャドウパレットを作り始めました。
彼らの共通点を考えたときに、ニューヨークらしい芯のある強さはもちろん、周りに対する優しさ、愛情深さがかけ合わさっている人間性に自分はすごく惹かれるなと思ったんです。そういう強さと柔らかさがミックスしたアティチュードの4色アイシャドウパレットにしたいという思いで作りました。
僕が就任してからちょうど2年になりますが、ようやく新生RMKの世界観が定着したかなというところで、メッセージやムードをぎゅっと詰め込んだコレクションとして発表します。
——実際に試してみると重ねるたびに透明感が増していきます。重ねると色を濃くしていくという理論を打ち破るようで驚きました。
そこが一番ポイントです。重ねて明るさを下げるのではなく、重ねることで色や質感が変化するといった4色構成になっています。深く暗くなるというアイメイクというのは今のムードではないので。
——YUKIさんのスタイルである、ストリートやレイドバック、リアルというエッセンスをどう変換していったのでしょうか?
ストリートはストリートファッションやストリートカルチャーと捉えられることが多いですが、僕にとってはリアルの説明の1つとしてストリートです。ストリートを歩いている人たちからインスピレーションを受けます。彼ら彼女たちのリアルな日常にこの色が、質感が溶け込むとどんな感じになるかを想像しました。レイドバックなアティチュードは、しっかり重ねて深くして暗い目元というよりは絶対的に軽さ、明るさ、透明感を意識しました。
——勝手な想像ですが、色を作る際に、「トレンドカラーって何?」「今何が流行ってる?」のようなマーケティング視点から入っていくと思っていました。YUKIさんは人物像や感情など感性でアウトプットするのが自然なんですね。
今回特にそういったコメントを多くいただきました。そうなんだと逆に気付いたというか、客観的にはそうなんだ、と。自分的にナチュラルというか、クリエイターとして頭で考えたロジカルな部分より感覚的な部分を大事にするというか、僕はそこでしか一人のクリエイターとして戦っていけないと思います。その感情は僕にしかないもので、それが唯一無二のものになると思うので。
——いつものモノづくりもそういったスタイルでされていますか?
レファレンスを置くことも多いですね。ただ、ディレクションなだけであって、やはり頭で考えて計算して作ったものは、感覚とか、感情とか、その瞬間の無意識に作ったものには勝てないという自分の経験がありました。
僕の仕事は現場でフォトグラファー、モデル、スタイリストなどとコラボレーションすることです。その場所で、その人たちと得たエナジー、コミュニケーションをとって刺激し合ってできるものって、前もって準備ができません。すごく緊張感がありますが、そこが一番の醍醐味というか面白さでもあります。
——コレクションの方に戻りますが、重ねると透明になっていく光のような発想は、アイメイク、特にスモーキーアイにはあまりなかった気がしたので、発想がパンクだと思いました。パンクというのは、一般的な春夏=軽やかとか、秋冬=深いという概念をYUKIさんはその逆を行くと言う意味でのパンクです。自分の中のストリートで言うと、ヒッピーやパンクカルチャーのような社会に対する意思表明であったりとか、それに近しいものを感じます。
無意識にあるかもしれないですね。いわゆる一般論、当たり前から外したいというのは絶対にあると思います。マスなメインストリームなものではなく、なるべくオルタナティブの方に行きたがるので。ビューティー業界のシーズナルな常識を知らないというのもあるかもしれない。
——だからこそRMKのような大きいブランドでのやりがいはありますね。タトゥーもガッツリ入っていて、日本のビューティー業界で見るような人ではないから面白い。ファッションでも結構リアルな人が広告塔になっていたり、アイデンティティやリアル、多様性がどんどん広がっています。製品開発をする上でもちろんマーケットを見ると思うのですが、トレンドとどのように向き合っていますか? メディアとしてもトレンドを作るというよりは本当に個人によってきていると感じます。
トレンドを参考にものづくりはしないです。クリエイター仲間で刺激を受ける感じですね。それで自然に僕たちがアウトプットされていくものなので。仰るように、今は昔のようにみんな同じものをみて参考にする時代ではないじゃないですか。ネットに情報が溢れかえっているところで、「これがトレンドです」というのはインポッシブルです。なので今は「これがトレンド」という感覚に違和感を感じてしまいます。
——日本の市場でウケるメイクは世界のそれとは違うと思います。よりクリーンで、美白といった方向が強いと感じますが、その違いは感じますか?
もちろん感じます。このお仕事をさせていただくようになってからすごく勉強しています。
——例えばどういう日本のビューティーマナーみたいなものに疑問を持っていて、どのような製品を通して進化させたりとか壊したりとかしていきたいと考えていますか?<
ルーツを辿るとビューティーではなく、日本のカルチャーに行き着きます。目立たないことが美学、周りに馴染むことが美しい、良いとされている根本的な思想や、教育というか。なので、ビューティーに限らずそこが変わらない限り難しいと感じています。僕ももちろんそれで育っていますし、そういう感覚でアメリカに行ってすごく苦労しました。12年間ニューヨークに住んでいるので、アダプトした感覚があって、外側から日本を見れるようになった視点で見ると、オルタナティブ、人と違うことの良さってところを文化として、本当の意味でみんなが評価できるようにならないといけないと感じます。
——YUKIさんの抱く疑問や思想は、製品開発や、プロダクト、インタビューを通して伝播して、変化が起こっていくと思います。RMKのヴィジュアルにアジア人のモデルを起用し始めたのもYUKIさんだと伺いました。
これまでは欧米人のモデルさんで、みんなこれだけが素敵なんだと刷り込まれてしまうこともあると思います。リアルに、アジア人の方がエンゲージするのではと。クリエーションを通じて、新しい世代のアジア人の美しさを世界に発信していきたいと思っています。
——アジア人の中でもいわゆる欧米化の目が大きい美人というよりも、オフセンターな印象を受けて、ビューティーの多様性が見えました。
日本人、アジア人の典型的な美形の感覚もニューヨークで影響されている部分も大きいと思います。なので、美形のセンター顔は誰なんだろうと逆に気になりますが、いわゆる整っている、黄金比ということですよね。僕にとってキャラクターは絶対に必要なんです。キャラクターがなくて不透明で綺麗だと「ただ美しい」で終わってしまって、何にもエンゲージしないというか、魅力を感じないのです。
——YUKIさんの哲学をお聞きして率直な疑問です。自分の信念とビジネスには矛盾が生じることもあります。特にメガブランドであればあるほど。そのバランスはどう取っていますか?
本当にストラグルすることもありますが、いい意味でセパレートできるようになりました。スーパーエッジィはニューヨークでいちメイクアップアーティストとして表現していけばいい。そこでの表現を通して得た経験とか、瞬間のクリエーションをインスピレーションの一つとして、日本のマーケットでどのように違うチャレンジができるか、ですね。異なるフィールドで新しさを感じてもらえるように、という目標に切り替えると、すごく自分の中でスムーズになりました。
——そう仰っていますが、RMKでの思想や文脈をみると、いわゆる売れるものをこういうプロセスで作っていこう、というよりはプロダクトにYUKIさんの意志があって、とてもパンクだなと思っています(笑)。
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——アートも好きと伺っていて、エディトリアルの作品も非常に絵画的です。アートからどのようにメイクに落とし込んでいますか?
なるべくテクニカルに責めないようにしています。テクニカルなもの、綺麗なものは練習すれば誰でもできる。なぜなら黄金比が存在するから。それは僕じゃなくてもいいわけです。僕じゃなきゃいけないものはなんだろう。それはいかに崩せるか、その瞬間にしかできないもの、リクリエイトできないもの、その価値とか美しさに重きを置いています。
——そういう個性的で瞬間的な部分をアートから学んでいる、吸収している感じですか?
そうですね。そういうエネルギーとか、これもありなんだとか、こんな切り口から表現してくるんだとか、これをなんでずっと観ていたいと思うんだろう、答えは出ないのに、と。例えば左右対称で綺麗だと気持ちはスッキリしますが、次の日には引っ掛かりがなく忘れていると思います。印象に残すための感情を大切にしたいので、そういうものはアートや絵画、人のクリエイションから得るものが多いです。
その人にしかできない自己表現を追求しているアティチュードにインスパイアされますね。
——好きなアーティストの中に、ジェニー・サヴィル(Jenny Saville)やジョージア・オキーフ(Georgia O’Keeffe)などフェミニズム系のものが多い印象でした。
フェミニズムと言われれば確かに。サラ・ルーカス(Sarah Lucas)とかも好きだし、Sarah Sze(サラ・ジー)などの女性アーティストも好きです。女性らしくとか男らしくとかそういう言葉が嫌いなんです。そういう言葉は窮屈にしてしまうので、そういう意味でフェミニズムの考え方に通ずる部分はあるのかなと思いました。
——メイクをされているのは女性が多いと思いますが、大きなブランドのクリエイティブディレクターとして、少なからず大きな声を発信できる立場として、ジェンダー感をどのように伝えていきたいですか?
ジェンダーに縛られたい人たちをいかに解放してあげられるかは壮大なミッションですが、それを僕がアメリカで経験できたことは、自分にとって最大のプラスでした。例えば、「ブルべ・イエベ」といったようなカテゴライズの中で色を試したりしていることにとても驚きました。
なんでそんなに自分の幅を狭めてしまうんだろう。なんでそんなに真面目なんだろう。間違って見られたくないと言うのですが、誰に? 誰のためにメイクをするのか、誰のためにあなたは生きているのかという根本的なメッセージが少しでも伝えられると嬉しいです。
——メイクの女性的なイメージは社会の中でまだまだ強いです。だからいろいろなジェンダー観はメイクを通して伝えられるし、変化を起こすトリガーともなり得ると思っています。
時間はかかると思いますが、時代と共にもっともっと自然になっていくと思います。ジェンダーという細い部分にとらわれず、もう少し大きな意味で、個人を捉えてほしいですね。
RMK シンクロマティック アイシャドウパレット ※全6種のうち2種数量限定発売
発売日:7月28日(金)
カラー:01 ソフト スポット、02 ストリート スマート、03 コンパッショネイト、04 オール ハート、EX-01 アフェクショネイト、EX-02 エニグマティック
価格:6,380円(税込)
RMK アイディファイニング ペンシル ※数量限定発売
発売日:7月28日(金)
カラー:EX-02 シマリング ヘーゼル、EX-03 オーシャン ジェイド、EX-04 メタリック マルベリー
価格:3,300円(税込)
RMK リクイド リップカラー ※数量限定発売
発売日:7月28日(金)
カラー:EX-02 ラディアント アマランス、EX-03 シアー マロン、EX-04 オータム オーバーン
価格:4,180円(税込)
RMK ネイルラッカー ※数量限定発売
発売日:7月28日(金)
カラー:EX-09 オレンジ スパイス、EX-10 ボールド マリーゴールド、EX-11 リーフィー プラント
価格:2,200円(税込)
- Words: Yuki Uenaka