BOOMING VINTAGE HERMÈS
集める価値、持つ誇り。再燃するHERMÈSのヴィンテージジュエリー
「新たなラグジュアリー」と言えばヴィンテージだということは今や誰もが知るところとなった。中古のバンドTシャツや古着のデニムからデザイナーもののアーカイブまで、あらゆるアイテムの価格が急騰している。このトレンドの渦中にある最新アイテムが、1930年から1960年に制作されたHERMÈS(エルメス)のシルバージュエリーだ。特に人気のブレスレットには、スタイルによって約$2,300から$17,000の値が付く。
「仕入れるやいなや売れていく」と、Instagramアカウント@studio_silvery_でジュエリー販売を行うパリ在住の若手デザイナー、ダミアン・ロバルデー(Damien Robaldey)は語る。価格は今年1月から上昇傾向にあるという。「2、3年前から始まった現象で今最高潮に達している」

HERMÈSのヴィンテージジュエリー市場は、各オークションハウスや1stDibsなどのウェブサイトを舞台に何十年も前から存在していた。ブレスレットは数千ドルで出品されている。一方、現在盛り上がりを見せているこの新しい市場は、よりP2P型だ。Instagramによって世界各地の売り手とコレクターが繋がり、直接販売ルートが活発に形成されるようになった。
現状、このヴィンテージトレンドはまだ比較的ニッチなものに留まっている。「現時点で関心を持つ人はそれほど多くない」とロバルデー。「これが広まり、多くの販売者が参入すると、市場は崩壊するだろう」
売り手側は、商品の調達手法や丹念に築き上げたコレクターネットワークといった業界の内部事情を明かそうとしない。しかしその誰もが、発端はバッグブームであったと口を揃える。過去数年間、バーキンヒマラヤが$175,000で出品されるなど、HERMÈSのハンドバッグは天文学的な価格で取引されている。入手に躍起になった買い手がHERMÈSに販売を迫り、訴訟を起こすケースも発生している。
カウスにとって、市場の進化の次のステップは、大手ブランドを超えた深い層に目を向けることだ。HERMÈSのジュエリーへの興味と知識を深めた日本やヨーロッパのコレクターはやがて、ほかのデザイナー、メーカー、Gay Frèresやジョルジュ・ランファン、ガエタン・ド・ペルサンなど、ほかのブランドで働いていた職人にも注目するようになっていく。
「お金がある人は金額に糸目をつけない」と、パリで経営するBoutiqueSymposiumでフランス、アメリカ、イギリスの顧客に販売を行ってきたローラン・カウス(Laurent Caux)は言う。「その現象がジュエリーにおいて再び起きている。目の飛び出るような値段でブレスレットを購入する顧客の場合、ハンドバッグは既に購入している」
「HERMÈSに関心が寄せられているのは、きちんとした品へのニーズが高まっていることを意味すると思う」とカウスは加えた。「HERMÈSの刻印が入った製品は自ずと高品質と見なされる」

コレクターには、品物に求める特定の要素があることが多い。『L’ETIQUETTE』マガジンの共同創業者であり、FURSAC(フルサック)のクリエイティブディレクター、そしてパリのヴィンテージシーンを横断する有識者として知られるゴーティエ・ボルサレロ(Gautier Borsarello)が特に関心を寄せているのは、1938年からHERMÈSと協業してきた伝説のジュエリーデザイナー、ガエタン・ド・ペルサン(Gaëtan de Persan)の作品だ。「HERMÈSのものかどうかに関係なく、ガエタン・ド・ペルサンの作品を集めています」とボルサレロは言う。「ブレスレットのチェーンや留め金に創造性があり、どれも非常に精巧に作られているんです」
ロバルデーは注目すべきメーカーとして、HERMÈSと長年仕事を共にしてきたスイスのブランドGay Frères(ゲイ・フレール)や、フランスのジュエリー職人ジョルジュ・ランファン(Georges Lanfran)を挙げた。人気は「主に形による」という。中でも代表的なのが、1930年代からHERMÈSが採用している「シェーヌ・ダンクル」のモチーフと、太く重厚なリンクで構成された「アクロバット」だ。「高値で売れるのは1960年代以前に製造されたHERMÈSのクラシックモデルだ」とカウスは語る。「HERMÈSの刻印入りで、かなり古くめったに見かけないものを手に入れたこともあるが、買い手がつかない。求められるのは伝統的なものばかりだ」
ロジウムメッキが施されていないものも、特に人気が高い。HERMÈSは、ローズゴールドで人気を得た数十年後の1980年代後半に、銀の酸化を防ぐためシルバージュエリーにロジウムメッキを採用した。しかし、「ロジウムメッキものにはほとんど需要がない」とカウスは言う。

ヴィンテージHERMÈSジュエリーへの新たな関心を牽引している市場として、カウスとロバルデーは特に日本を挙げている。ボルサレロは、その背景に日本のヴィンテージ市場の強さがあると指摘する。「ヴィンテージ市場の魅力をいち早く発見し、歴史を掘り下げ、最高の品を選び出してストックしているのは日本人だ」と彼は語る。「いずれヨーロッパの消費者がその価値に気づいた時には、ほとんどのアイテムが個人コレクションに収められ、手遅れになっているだろう」
日本では、定評のある販売業者ネットワークのほか、旧来のヴィンテージ小売店でもHERMÈSのジュエリーが扱われている。例えば東京で5店舗を展開するヴィンテージショップAMORE Vintage Tokyoでは、HERMÈSのブレスレットや腕時計を幅広く取り扱っている。カウスが販売をする相手は主に日本の小売業者だ。「日本の顧客から連絡が入ることはない」と彼は言う。「日本の顧客は、たとえ高くつくとしても、日本のショールームや店舗でのブレスレット購入を望む」
現状、このヴィンテージトレンドはまだ比較的ニッチなものに留まっている。「現時点で関心を持つ人はそれほど多くない」とロバルデー。「これが広まり、多くの販売者が参入すると、市場は崩壊するだろう」
カウスにとって、市場の進化の次のステップは、大手ブランドを超えた深い層に目を向けることだ。HERMÈSのジュエリーへの興味と知識を深めた日本やヨーロッパのコレクターはやがて、ほかのデザイナー、メーカー、Gay Frèresやジョルジュ・ランファン、ガエタン・ド・ペルサンなど、ほかのブランドで働いていた職人にも注目するようになっていく。
例えば現在、ガエタン・ド・ペルサンのデザインには、HERMÈSの刻印が入ったものほどの高い価格は付いていない。「しかし上昇し始めている」とカウスは言う。「ビジネスが成立するためには在庫が必要で、希少過ぎるとどうにもならない」。しかし、ド・ペルサンのようなデザイナーの場合、「多くの作品が作られているため、比較的見つけやすい。ビジネスとして成立するので、価格が徐々に上昇する可能性もある」
とは言え、「シェーヌ・ダンクル」と「アクロバット」の価格は市場が崩壊するまでは上昇し続けるだろう。そろそろInstagramでガエタン・ド・ペルサンをアラート設定しておいた方がいいかもしれない。
※本記事は2025年9月発売のHIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE15+に掲載。

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE15+ : TASUKU EMOTO
発売日:2025年9月16日(火)
定価:1,650円(税込)
仕様:A4変型
◼︎取り扱い書店
全国書店、ネット書店、電子書店
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- Words: Jack Stanley
- Photography: @studio_silvery_