New Natureがアウトドアを新たに定義する
マイルドなハイキング。都会の公園でのバードウォッチング。例え1時間でも、ナチュラリストになる。New Nature(ニューネイチャー)のオリー・オラニペクン(Ollie Olanipekun)による、新世代のアウトドアの過ごし方紹介。統計情報の出展元である新刊白書はこちら。
「ネイチャー・パーソン」とは何かについて改めて考えてほしいとオリー・オラニペクンは考えている。多岐にわたるクリエイティブを手がけ、起業家、バードウォッチングの達人の顔も持つ彼が最近立ち上げたのが、アウトドアの考え方を刷新することを目指したNew Natureだ。「自然との接し方は人それぞれ。それこそがいいところ。正解も不正解もない。自然に関する解釈は自由。どのような方法であっても、知覚し、探求し、繋がりを持つことに重要な意味がある」
39歳のオラニペクンは、人と大自然を結びつけることに関して知見が豊富だ。世界がステイホームを強いられた2020年、彼はバードウォッチング集団「Flock Together(フロック トゥギャザー)」を立ち上げた。自然がもたらす無限の喜びを満喫する有色人種の緊密なコミュニティである。このコミュニティが急速な成功を収めたことに加え、アウトドアグループ全般の人気が高まっていることを受け、オラニペクンは自然愛好家の新たな波に関心を抱くようになった。こうした人々はどういった理由から屋外での時間を求めるようになったのか。なぜ今まではアウトドアをしてこなかったのか。
そこにはアウトドアマンシップを定義づけるエトス(精神)が大いに関係しているということを彼は発見した。アウトドアマンシップは、アウトドアを楽しむ手段やアクセス、時間の全てを持った白人レジャー階級によって遥か昔に確立されたものだ。彼らはクラブを作り、土地を買い、服をデザインし、スキルを磨いた。こうしたクラブや衣服とともに、リスク、強さ、そしてコミットメントといった、アウトドアについての一定のストーリーがつくられていった。こうしたことが、本来であれば熱心な自然愛好家になれてもおかしくなかった大勢の人々を、自然との関わりから遠ざける結果となっていた。
「もし、都会でハイキングをすることもアウトドアに入るとしたらどうか? 何かを達成するためではなく気分転換のために外に出るだけでもいいとしたら。アウトドアが完全に個人の営みなのだとしたら?」とオラニペクンは問いかける。
そこで彼が立ち上げたのがNew Natureだ。
HIGHSNOBIETYのカルチャーパイオニアが語る自然
目下、ラグジュアリーアウトドア・ファッションは爆発的人気を博している。そこでHIGHSNOBIETYでは、世界有数のスポーツ・アウトドア見本市であるISPOと提携し、アウトドア業界におけるパフォーマンス、ファッション、カルチャーを案内するブランドプラットフォーム、520M(ミュンヘンの最高海抜にちなんだ名称)を立ち上げた。活動の第一歩として、現在「ニュー・アウトドア」と呼ばれるようになったものを形成する企業、消費者、イノベーターの核心に迫るべく、読者のみなさんのようなZ世代やミレニアル世代の世界のカルチャー・パイオニア400人を対象とした調査や、業界リーダーへのインタビューを行った。
その結果、読者のみなさんのような今の世代が外の世界へと繰り出す理由が、これまでの世代とは全く異なっていることを知った。高い山を登ったり、険しい下り坂を切り開いたりするスリルを味わったり、どれだけの冒険をしたかを自慢するためではなく、心身の健康のために大自然に繰り出している。世界の新たなナチュラリスト達の原動力となっているのは、創造性、仲間、そして体と心の健康だ。
9%:ハイパフォーマンスな活動のために外に繰り出す
67%:知られざるアウトドア・アクティビティについてもっと知りたい
64%:アウトドアを深めるための新しいインスピレーションやアクティビティを常に探している
68%:外に繰り出すことは自分の創造性にとって重要である
そこには根拠がある。森林医学の世界的権威であるチン・リー(Qing Li)博士は、著書『Forest Bathing: How Trees Can Help You Find Health and Happiness(森林浴: 近くの公園で 家族と一緒にリラックス ストレスを解消し 自律神経を整え 免疫力を高める 新しい健康増進法)』の中で、自然が心の健康に及ぼす力について「無意識の注意とは、精神的な努力を要することなく自然と起こるものである。自然の中にいるとき、人間にはこうした注意が起きる。心落ち着く景色や音は精神に安らぎを与えてくれる。自然の中で思いを巡らせ、内省することで、明晰な思考能力を回復させることができる」と考察している。
Z世代は経済的、地政学的、社会的な激動にさらされている関係で、心と体の健康の関連性や、自然に身を置くことが心身の健康にもたらす効果について、直感的に理解している、と考えると納得がいく。
ハイキング、サイクリング、ウォータースポーツ、スノースポーツといったアクティビティは今でも人気だが、今回の調査でわかったのは、Z世代において、こうした活動に極限レベルで取り組む人はほとんどいないという点だ。重視されるのは地面や空と触れ合うこと。TikTok風「ソフトハイキング」と言ったところだろうか。歩き、観察し、感じ取り、振り返るというところが全てだ。
65%:アウトドアのニッチな要素(バードウォッチング、釣りなど)がファッションやスタイルに影響を与えていることに気づいた
こうしたスタンスであるが故、採集やバードウォッチングのような、よりオフビートなアウトドア・アクティビティの人気も高まっている。こうしたアクティビティについてもっと知りたい、アウトドアの新しい楽しみ方を発見したいと回答したのは、HIGSHNOBIETY読者の3分の2以上に上った。
ギアに関しては機能性と見た目が同等に重視される。今回の調査でアウトドアギアに実用性と快適性を求めていたのは回答者の72%に上り、製品に込められた技術革新やテクノロジーについて価値を感じる回答者も67%であった。
77%:山道だけでなく徒歩通勤にも使える見た目や使い心地のアウトドア製品を購入する
80%:思いがけないクリエイティブやコラボレーションをしている伝統的アウトドアブランドに興味がある
79%:パフォーマンスと同じくらいスタイルを重視しているアウトドアブランドのものを購入する
71%:アウトドアにおける深い歴史、伝統、信頼のあるアウトドアブランドのものの方が購入したい
63%:アウトドア領域に新規参入するブランドに期待している
しかし自然と言えば国立公園、だけではない。都会の緑やボルダリングの壁もアウトドアと言える。何もせず過ごす、キノコ採りをする、風景をスケッチする、前庭で過ごすなど、方法は無数にある。
- WORDS: VIVIANA HARRIS
- TRANSLATION: AYAKA KADOTANI
- PHOTOGRAPHY: HIGHSNOBIETY / CIAN OBA-SMITH