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Life beyond style

本記事はThe Sociology of Business創設者のアナ・アンジェリック(Ana Andjelic)の執筆によるものです。記事内で述べられている見解や意見はあくまで執筆者のものであり、必ずしもHighsnobiety全体としての見解を反映したものではありません。

「あなたより写真写りの良いオレンジ色のカリフラワー」とは、インフルエンサーのTinxが高級食料品店エレウォン(EREWHON)の人気商品であるオレンジ色のカリフラワーを表現して用いた言葉だ。エレウォンは、26ドルの高濃度酸素水を足掛かりにカルチャーの領域に足を踏み入れた。また健康的な間食であるのみならずソーシャルメディアの人気コンテンツ、ステータスシンボルともなったスムージーを主力商品とし、2023年1億7,140万ドルに上る利益を達成した。

昨年のハリウッド・リポーターの記事には「エレウォンが文化において重要な存在となっている背景には、ミレニアル世代やZ世代の消費行動がモノから体験へ、欲望の対象が魅力的な洋服から魅力的な体へと移行している事実がある」と述べたものがある。マッキンゼーによるアメリカの消費者支出に関する調査によると、消費者による支出の対象となる行為は、1位が食事、2位が食料品の買い出しと、食関連が1、2位を独占している。

エレウォンは、自社製品の健康、ウェルネス、そして憧れ感を軸に構築されたブランドだ。米国の消費者にマクロビオティックの食生活を紹介することを目指してボストンで誕生したエレウォンは、地元産でトレーサビリティのある、ナチュラル、オーガニック、ヴィーガン、マクロビオティック食品のみを販売している。そんなエレウォンブランドは、製品とそれを消費する全ての人々との結びつきというところから成長し、今では高級ファッションブランドに匹敵する地位と認知度を獲得している。

コンテンツが多ければ多いほど、話題であればあるほど、多くの人が買っていればいるほど、エレウォンのストーリー性、文化的共鳴度、憧れ度は高まる。「エレウォンは単なる食料品店ではなく理念を支持する対象、とご理解いただきたい」とエレウォンのオーナー子息であるアレック・アントシ(Alec Antoci)は言う。アレックの友人でクリエイティブ・コンサルタントのジェイ・ドウジ(Jay Douzi)は、「実質的にはプラスチックの容器に家で作れるようなものを入れただけのようなものが、歴としたラグジュアリー、富、ステータスのシンボルになった」と付け加える。製品主導型ブランディングが完璧に作用した例と言えるエレウォンは、(テレビで流れる無数の消費財CMのように)何かを買うように説得するのではなく、人に買いたいと思わせる、共感を生むものを作り出している。

エレウォンの製品主導型ブランディングの主要な5つの要素は以下の通り:

価値観

コロイダルシルバー、霊芝パウダー、ハトムギエキス、ネオセル・ヒアルロン酸ドロップ、活性炭、リキッドコラーゲン、ステビア、ブルーマジック、スーパーフード、トコス(米ぬかパウダー)、ルクマ(ペルー原産の果物)、メスキート(メキシコやアメリカ南西部に自生するマメ科の植物)、ウコン……いずれもエレウォン独自生産、または地元産だ。健康食品はエレウォンが当初からセールスポイントとしてきたものであり、高値で取り引きされながら人気と支持を集め、憧れの的となっている。

「お客様に最良の製品、最良の原材料をお届けすること、棚に並んだものを信頼いただけるようにすることを念頭に製品選定に取り組んでいる。安さで選ぶビジネスはしていない。原材料や見た目の風合いなどが重要。食料品店の他社と比較した場合、(当社の場合)価格付けは後回しになりがち」と、エレウォンの購買ディレクター、アナ・ユン(Ana Yoon)は言う。エレウォンは最近、ウェルネスに精通した顧客に対応するため、ウェブサイトにAI生成の商品説明を導入した。ウェブサイトでの売上は店舗売上を70%上回る。

利用

エレウォン製品の栄養を届け、体験を実現する媒体となるのは、広告ではなく、消費行動とコミュニティだ。エレウォンは宣伝を行わない。フォロワーやインフルエンサー、セレブリティが宣伝役を果たす。ヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)のストロベリースキングレイズ・スムージーがTikTokで流行って以来、エレウォンは毎月4万杯のスムージーを作り続けている(2023年のエレウォンの売上はスムージー分だけで1,060万ドルに上った)が、それもこれもエレウォンを定期的に訪れる大勢のファン(ヘイリー・ビーバーのようなセレブから、コンテンツ制作者、ステータス発信者、健康、向上を目指す人まで多岐に渡る)によるものだ(Glossierのポップアップの全盛期も、規模は小さかったものの現象としては類似していた)。

かつてのGlossier製品もそうだったが、エレウォンのスムージーも味、見た目、栄養に優れ、シェアを喚起するように作られている。ストロベリースキングレイズのほか、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)のオレンジキンシクルスムージー、ソフィア・リッチー(Sofia Richie)のスウィートチェリー、エマ・チェンバレン(Emma Chamberlain)のコールドブリュークッキー、マリアナ・ヒューイット(Marianna Hewitt)のココナッツクラウド、ウィニー・ハーロウ(Winnie・Harlow)のアイランドグロウ、オリヴィア・ロドリゴ(Olivia Rodrigo)のグッド・フォー・ユア・ガッツ、ジゼル・ブンチェン(Gisele Bündchen)のジゼルダーベリー・ブースト……もはやVacation(バケイション)の日焼け止め、Levi’s(リーバイス)の501、BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)のアリゾナ、Dr. Martens(ドクターマーチン)の1460と同じく、エレウォンのスムージーは、エレウォンのビジネスの大黒柱となっている。スムージー以外のところでは、有名シェフ、ブルック・バエフスキー(Brooke Baevsky)が厳選した材料で作った200ドルのピーナツバター&ジャムサンドイッチの動画が現在注目を集めている。エレウォンの食品は、まず撮影対象となり、その後に食されることを前提に作られている。

美学

フォトジェニックなアイテムや雑誌の中からそのまま飛び出てきたような食品の品揃えだけでなく、エレウォンは商品の発売、マーチャンダイズ、コラボレーションを通してもその美学を表現している。「どの都市にもその文化を語る場所がある。エレウォンはロサンゼルスの象徴だと思う」と、アレック・アントシは言う。LAスタイルに忠実に、UGG(アグ)は定期的にスタンダード・コレクションを発表している。中間色を基調としオリジナルのロゴをあしらったパーカーやフレンチテリー製スウェットパンツの価格は125~150ドル。最近のコラボレーションでは、タトゥーアーティストのJonBoy(ジョンボーイ)による茶色のヤシの木がプリントされたUGGのタズミュールが登場した。この限定版ミュールには、ザ・タズ・トニックと呼ばれるコールドプレスドリンクが付いてくる。BALENCIAGA(バレンシアガ)のランウェイショーには、スウェットパンツにUGGのようなブーツ姿、エレウォンの食料品袋のようなレザーのトートバッグ、エレウォン製のブラックジュースのボトルを携えたモデルが登場した。

ストーリー性

エレウォンの語るストーリーは、ラグジュアリー、向上心、健康、ウェルネス体験をテーマとしたストーリーだ。コーチェラでのイベントやグッズの発売、Sushi Clubなどとのコラボレーションを見るとそれがよくわかる。Sushi Club × エレウォンの限定ラグジュアリー弁当ボックスは、ノブ・マツヒサが自ら監修したもので、帽子、パーカー、海苔グリーンのロゴTシャツがセットになっていた。

ファン層

エレウォンの店舗は、地域社会への影響を最大化できるよう慎重に選ばれている。各店舗がLA各地(シルバーレイク、ビバリーヒルズ、パリセーズ、ヴェニスなど)の雰囲気を反映している。地域コミュニティはセレブのスムージーと同様に、豊富なソーシャルメディア・コンテンツを生み出し、エレウォンを世界的に知らしめ、新規ユーザーを惹きつけるチャンネルの役割を果たす。エレウォンの店舗はコミュニティを育むように設計されている。大型スーパーマーケットよりも狭い通路は交流を促す。健康的でオーガニックな、地元産の食品に対する愛情を共通項に、エレウォンの地域コミュニティ、グローバルコミュニティは結合している。年会費を支払うとキャッシュバック、ポイント、無料ドリンク、配送などの特典が受けられるほか、Pvolve、Athleta、Sauna Box、デートアプリのBlush、Ritz Carlton Maui、Alo Yogaなど、厳選提携ブランドでのディスカウントを受けることもできる。