life
Life beyond style

渋谷パルコ4階GMKRで、「SUSTAINABLE DISHES DIGs」通称SDGsが行われる。

住宅街を歩いているとたまに見かける、ダンボールの切れ端に書かれた「ご自由にお持ちください」の文字。箱の中に並んだ日用品を覗き込んでは、その人の好みや家庭環境を想像したことがあるのではないだろうか。何らかの理由でそぐわなくなった品々を見ては時代の移り変わりを偲んだり、袋に入ったままの付録に消費文化の末路を案じたりしながらどこかノスタルジックな気持ちになったり。誰かに見られていたらさぞかし滑稽な光景なのかもしれないが、そのうちそれらがなんだか特別な存在のような気すらしてきたり。

誰かが要らなくなって軒先に並べた生活の破片ーー切り離された日常の延長が持つ哀愁をそのまま持ち帰ってロゴを載せたのが、廃棄されたリソースを芸術と偶然性のちからで再構築するGMKRの新しいプロジェクト「SUSTAINABLE DISHES DIGs」通称SDGsだ。

かつて、無くなりつつある地方工芸を復興させて民藝運動を勃興させた柳宗悦は「使われている道具ほど美しい」と「用の美」を提唱した。随筆家の白洲正子は、戦後日本の西洋化を牽引する夫・白洲次郎に相反するように日本の古典文学や伝統文化の美を讃え、千利休は「侘び茶」の精神のもと質素でありながら目からウロコが落ちるようなアイデアで精神の豊かさを唱えた。視点によって物事の価値が容易に変動することは、これらの歴史が立証している。

GMKRの大橋秀吉が「ご自由にお持ちください」を収集し始めたのは半年前。はっきりとした構想もなく遊び心で集め続けたものがストリートカルチャーの色濃いTALKY(トーキー)との出会いによって具現化した。「ミンゲイプロジェクト」TALKYは、長崎の契約窯とスケボーの箸置きをはじめとした陶器を制作するクルーだ。彼らとともに古い日用品にロゴを載せることで見た目に新鮮さを加えながら、モノが捨てられる状況やそれを拾う行動、ひいてはモノの存在やその価値へと見るものの意識を誘導していく。

世界のロゴの歴史を紐解くと、最も古い登録商標は1870年米国の「エーブリル」社だと言われている。産業革命の時代、企業ロゴとは他社との差別化を図りながら企業価値を高めるためのブランディングとして必須なものであった。そして現在もブランドロゴは見えない価値や存在を顕在化させる役割を担っている。ここ数十年間のファッション業界では限定やコラボレーションなどの定型化した付加価値が充満し、ロゴの乱用や大量生産といった他人が植え付けた価値基準や利己的な資本主義経済が飽和状態だ。「SUSTAINABLE DISHES DIGs」は、そんなファッションカルチャーをも揶揄しているといったら、深読みしすぎだろうか。

人々の意識や様式は、偉人たちの視点の転換によって革命的に変えられてきた。そこから、彼らの新しい視点は枠に囚われない発想に依拠し、モノの価値は個人の視点に委ねられていることを学ぶ。過去から続く数え切れないほどの遊び心は連綿と現代の「ご自由にお持ちください」へとつながり、誰かが置いた生活用品を吟味して持ち帰るまでの一連の回想や滑稽さが、いずれ未来の生活様式を変えるかも知れない。そんなことを考えながら、生まれ変わったGMKRロゴ付きのコーヒーカップで一服してみてはいかがだろうか。

「ご自由にお持ちください」から集めた食器」
価格:各種3,333円(税込)

TALKYのB品にロゴを載せた箸置き
価格:1,555円(税込)※数に限りあり

GMKR「SUSTAINABLE DISHES DIGs」
会期:3月17日(金)〜26日(日)
場所:渋谷パルコ4階GMKR