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Tune in and turn up

南フランスの島に設られた、巨大なジャンプ台を備えた黒く、長いランウェイ。木々のあいだを砂煙を立てながら疾走する漆黒のバイク。燦々とした太陽の光と、風を全身に受け、髪をたなびかせ、真っ直ぐ眼差し、地を踏みしめるように邁進していく68名のモデル。当時LAで暮らしていたエディ・スリマンが2011年から撮影を続け、1990年台、モトクロスにおいてレースでなくジャンプ中のトリックを競うようになってアメリカで誕生した、フリースタイルモトクロス(FMX)のバイカーが地中海の青空に向かって跳んでいく——。

「COSMIC CRUISER」と冠したコレクションはFMXバイカーたちが体現する自由への謳歌を称揚し、それらを鳥瞰的なスケールと抑制したトーンで写しとった映像は、一度耳にしたら脳裏から離れないループサウンドと呼応して素早くスイッチ&リフレインされていった。壮大なランドスケープとドラスチックなパフォーマンス、ユースたちの歩き様、静謐なブラックから煌めくファブリック、90年代のバギーパンツを思わせる新作「エレファント ジーンズ」に至るまでが象徴的なテンポによって驚くほどに調和していく。この、類比の無い映像においてもっとも抜き難いエレメントのひとつであったサウンドトラックを、エディ・スリマンとともに生み出した新鋭アーティスト、イジー・カミナ(Izzy Camina)に質問を投げかける好機を得た。ロサンゼルスを拠点に活動する彼女に、コラボレートの経緯や楽曲誕生の背景までを訊ねた。

 

——CELINEのサウンドトラックを手がけることになった経緯をお聞かせください。

CELINEのデニム部門で働くとても素敵な人がいて、ミュージシャンでもあるその男性があの曲をエディに紹介してくれたんです。Spotifyラジオか、プレイリストで見つけてくれたんだと思います。

——彼らからコンタクトがあった時、あなたはどのような気持ちでしたか?

当然、とても驚きました。鳴かず飛ばずの音楽人生を送ってきた私に、こんなこともあるのかと。

——2020年にリリースしている「UP N DOWN」をもとにしながら、CELINEのコレクションのために新たに手掛けました。ループサウンドとビートが今も頭から離れません。原曲からどのようなアレンジのプロセスをふんだのでしょうか?

彼と私は、基本的にオリジナルの楽曲の良い部分を集め、それらをリピートさせていったのです。個性的にしようとすればするほどトラックが複雑になっていったので、できるだけシンプルに保つように、そして、クールに仕上げることを心がけました。

——エディ・スリマンとの対話の中で、印象に残っていること、感化されたことはありますか? また、彼が手掛けるコレクションや、総合的な表現全般に対して、あなたが共感したエッセンス、あるいは驚いたことなどがあったら聞かせてください。

彼の、謙虚さ、好奇心、知性、音楽への情熱。驚くべきは、仕事にかける時間の長さと濃密さ。毎回のコレクションに対して、想像を絶するほどにハードに仕事をしています。1日10時間とか12時間の、立ちっぱなしのシフトを何日も続けてきた私がハードだと言うくらいですよ。

——原曲の「UP N DOWN」を制作している時、どのようなことがあなたの創造力に影響を与えていましたか?

ロンドンで生きるために必死に働いていました。1日を通して不快感があるにもかかわらず、その日の終わりには、自分が幸運で、恵まれていたとさえ思いました。私は若くて、健康で、シングルマザーのように背負うものもありません。だから、人生の闇を感じて惨めになる瞬間があっても、次の瞬間にはまた楽しく元気にやれました。そんなことが繰り返されていったんです。苦あれば楽あり、楽あれば苦ありで。

 

——生まれ育った環境は、あなたのサウンドトラックにどのように結びついていますか?

両親がいいバンドの曲をいろいろたくさん聴いていて。バウハウスとかキリング・ジョークとかホワイト/ロブ・ゾンビとかザ・クランプスとか。あとは聴いていた音楽とは関係なく、子どもの頃の様々な痛みが自分の音楽に結び付いています。

——あなたが音楽にリーチした最初のきっかけはなんですか?

両親が車の中でかけていたありとあらゆる音楽。ラモーンズとか。私は当時まだ幼稚園児でしたが、ラモーンズの曲の歌詞はとても易しくて子供でも理解できましたし、口ずさむこともできました。あとはスパイス・ガールズとかセーラームーンのオープニングテーマとか。

——ロックやサイバーパンクをベースにしながら、あなたの音楽とクリエイティビティを特定のジャンルで括ることをはばかれる魅力があります。あなた自身の音楽の特性を説明するなら?

あくまで楽しみながら色々なジャンルを探求してきましたが、今の路線はかなり一貫していると思います。最近はより真剣に音楽を考えるようになって、自分自身が満足できるようなものをリリースしたいと思っています。それはつまり、よりダークで、実験的な音楽のことです。

——あなたを取り囲む環境や世界に対して、不満に思っていることはありますか? それは、あなたの創造性と結びついていますか?

不満はあります! 物心ついた頃からずっと世の中に怒りと混乱を感じてきたので。大半の人間は利己的でエゴに満ちている。論理性の欠落、地球に対する思いやりの欠如、倫理性の乏しさが、私をもっとも悩ませ続けています。が、私は、オプティミスト(楽観主義者)でもあります。それでも、人間のあり方や行動様式に対してはどうしても非常に批判的になる。私自身も含めて、ね。

 

——今、あなたが最も関心を寄せていることはなんですか?

ロッククライミング。

——ファッション、あるいは装いやドレスアップは、あなたにとってどのような意味をもちますか?

コミュニケーションのひとつの形態で、言葉を介さずとも、同じマインドを持つ人たちと一瞬でつながり合える手段。

——あなたが思い描いている自身の未来について聞かせください。あなたが計画していることはありますか?

近いうちにEPをリリースする予定です! これから先がどうなっていくのかは分かりませんが、一歩ずつ、大切に歩んでいきます。

 

イジー・カミナが音楽を手がけたCELINEのコレクション詳細はこちらから。