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Life beyond style

2021年、歴史的にも困難な時代の中、日本は記念すべきオリンピックイヤーを迎えた。そして今大会よりサーフィンはオリンピック正式種目に採用されたことによって、国内だけでなく世界的に、レジャーではないアスリートスポーツとして、注目を集めることとなった。そんな時代背景に、世界の各立たる海軍をはじめとするプロフェッショナルの右腕としてサポートを続けてきたスイスの老舗ウォッチブランドTUDORが、今季からポルトガル・ナザレと、ハワイ・マウイ島で開催される2大ビッグウェーブ・イベントツアーパートナーに。ブランドのマニフェストである「Born To Dare(挑戦者の精神)」のもと、日本のトッププロサーファーである西慶司郎のサーフアスリートとしてのこれまでに歩みや、これからのサーフィンについて、彼の比類なき挑戦について話を聞いた。

——まず、サーフィンを始めたきっかけを聞ければと思います。

両親の影響で幼少期からずっと海に通っていました。それが週末の過ごし方だったんで、自然の流れでサーフボードの上に乗った感じでした。兄が学校に入ったぐらいから、もう両親が兄に付きっきりで教えてたんですよ。2つ上の兄と 2つ下に弟もいます。

——全員プロサーファーですもんね。お兄さんが始めた時って、技術的な差はありましたか?

自分が本格的に始めたのは小学校2年生の冬からなので、その頃に はもう兄も小学校4年生で、それで言うと“差”しかなかったです(笑)。自分はやっと立てるか立てないか、沖にいて一人でやるのが精一杯な時に、兄は普通にターンをしていました。

——小学校2年生の冬にはサーファーのライフスタイルになっていたんですね。

はい。その時から1日に3ラウンド。兄に付いて、四国でずっとお世話 になってた方のところで合宿というかたちで。当時、まだ大阪に住んでいたので技術的には週末サーファーっていうレベルでした。本格的にサーフィンに集中し始めた、集中できる環境になったのが、自分が小学校5年になった頃になります。四国の徳島県の海部に住み始めて。それからですね。

——初めて大会に出たのはいつですか?

小学校1年生の時です。プッシュクラスで出させてもらって。本格的に始めたのは小学校5年生からで。そこからは今に至るまでずっと試合一 本って感じです。

——小学校5年生くらいの時の西くんのレベルはどんな感じだったんですか?

NSA(Nippon Surfing Association)のキッズクラスのランキングで2番です。

——凄いですね!そういった環境にいたことや、兄弟でプッシュし合えたからですか?

兄に勝ちたいっていうのと、弟に負けたくないっていうので。両方の立場がすごい分かるっていう(笑)。そこは面白かったですよ。

——プロになろうと思ったのはなぜですか?いつからですか?

始めた時からずっと意識していました。身近にプロサーファーの人がたくさんいたのが大きいと思います。ケンタくん、ユウジロウくん、カオリちゃ ん、エリナちゃんとかトップライダーに囲まれて育ったので、プロを目指すことはごく自然でした。プロライセンスを取得したのは高校2年生の時です。

——四国から千葉に拠点を移して変化はありましたか?

高校1年生で、プロになる前から千葉に通っていました。まだ四国でサーフィンしてたんですけど、ちょうど先輩の樹くん(田中樹 / JPSA元グランドチャンピオン)に誘われて。その時開催されていたWSLQ(S World Surf League Qualifying Series)の大会「SHONAN OPEN」の後に声かけてもらって、そのまま千葉へ連れていかれました(笑)。千葉もまた違ったスタイルのプロだったり、同い年の選手がたくさんいたので、そこで受ける刺激は四国にはないものでした。そういうのがすごく気に入って、通い始めることになりました。

シーズンが終わって冬に入ると四国も波がなくなっちゃうんで練習できる機会がほぼほぼないので、樹くんの家によく行っていました。

Watch TUDOR / Tank Top HANES

——千葉に拠点を移して活躍するプロサーファーはたくさんいると思うんですけど、やっぱり千葉の波は今の日本のプロサーファーがたくさん練習する、活動するという意味では最適なのですか?

はい、もちろんそれが大きな理由にもなるんですけど、でももうひとつ、空港へのアクセスがあります。自分達のように海外を回る、世界を目指している選手にはすごくいい部分です。

——プロサーファー西慶司郎はどんなライフサイクルを送っているのですか?

一年の始まりは大体2月のハワイ、パイプラインからです。WSLがあるので、そこを目指す上でここは世界共通の登竜門的な位置付けになるのだと思います。

——波は日本と違いますか?

とにかくすべて違います。危険度も大きさ。フィールドも全然違いますし。フリーサーフィンの練習をやっていても人生が変わる一本があります。

——人生が変わる一本というのは、例えば?

ハワイのノースショアのシーズンにだけ、トータルで誰が一番やばい波に乗れたかを競うコンテストがあるんです。2〜3カ月の期間中に本当にいい波に乗れた人がすごくフィーチャーされるんです。その一本をつかめれば人生が変わる、変わっちゃうっていう感じです。

——今シーズン、昨シーズンは行けていなくて2020年が最後になります。2020年の時の手応えは?

高校2年生の時からハワイに通ってたので、自分的には(いい波が) 来たらイケるなっていう自信はありましたが、ボンミスがあって。

——そのミスは、自分の技術的なところなのか、気持ち的なところなのか、 何が足りなかったと思いますか?

気持ち的な部分だと思います。制限時間もありますし、その時間内で自分が乗れる、自分がパフォーマンスできる波が自分のところに来てくれるかっていうのは、予測不能の部分で、どうやって自分がその波を引けるのかっていうのはすごく面白い、サーフィンの見どころのひとつなんですけど。

自分のところに波が来るっていう絶対的な自信、波を呼び込む部分があり、やっぱり迷いっていうか、負けている状態で、気持ち的にどこまで自分を強く持てるのかが大きいと思います。

——試合運びみたいなところで。西くんは実際に結果を残してきてると思うんですけど、自分の強みはありますか?

練習ではすごくメンタルを重要視していて。例えば練習で1時間サーフィンする中で波に乗れるのかっていう不安もないし、コケたときの不安もない、そのメンタルを試合に持っていけた方がやっぱり気持ち的にもすごいラクになると思うんです。試合だから波に乗るっていう考えを変えて、 試合でも波に乗れるっていう心の切り替えを意識し始めました。

T-Shirt SABY

——実際に大会では隣に対戦相手がいると思うんですけど、やっぱり意識はするんですか?

しないですね。自分のパフォーマンスを出せれば絶対勝てるので。ライバルよりも自分とどう向き合うかっていう部分が大きいですね。ほんの少しの気持ちのブレでパフォーマンスも波を引くサイクルも変わっちゃうので、その部分は気にしてないです。

——西くんは試合に向けて「自信」とか自分と向き合えるように普段からの何か特別な練習をしているんですか?他のプロサーファーよりも練習量が多いですか?

サーフィンに関してはさほど変わらないと思います。それ以外の時間ですね。トレーニングだったり体の動き、自分でどうやって表現できるのかという部分に時間を費やしているのかなと思いますね。

——生きているほとんどの時間を“サーフィンのため”に使っていますね。

トータルすればそうなります(笑)。

——サーフィンの競技はフィギュアスケートのように魅せる要素が強いですよね?

フィギュアスケートのように「あなたの時間です」っていうものがサーフィンにはないんです。フィギュアとは違って自分で魅せる場を作っていかないといけない部分が大きな違いです。フィギュアだと大きなフィールドに自分の時間があるんですけど、サーフィンの場合は相手がいる状態で、かつその相手から波を奪っていいんです。邪魔しちゃったらペナルティになるんですが。

——フィギュアは一人一人に始まりと終わりの時間があるけど、サーフィンは始まりを自分でジャッジしないといけないんですね。

先のことが本当に見えない中での試合です。自分のタイミングで自分の気持ちを整えていける競技とは違い、サーフィンの場合はそういったのがないので。さらにプライオリティという順番も入ってくるんで。

——自然相手ですね。

そうですね。サーフィンは感情的になったりすることもあるのですが、そういう感情があると、波を引く力だったり視野が狭くなっちゃうので。

——試合運びにおいて、自分のリズムの作り方ってあるんですか?

去年のサーフィンを思い出すと臨機応変にって感じです。状況がやっぱり全てなので、自分が凄い(良い)パフォーマンスしたいと思ったとしても、 波が来るか分からない状態なので、そういった部分で波に対してあまり求めないようにして、あるものでパフォーマンスするように切り替えてます。

——西くんが活動してる分野、コンペティションサーフィンについて、海外と日本の意識の差はありますか?

環境自体が海外と日本でかなり差が付いてしまっていると思います。日本に何が足りないかと言えば、指導者だったり体を鍛える施設だったり、 メンタルの部分でいうとやっぱり海外はすごく長けてる。

©︎DELTA FORCE SURF

——波以外の環境も大きく違うんですね。

トレーニングが必要だと思ったのが高校3年生くらいだったんですけど、海外の選手はこういうことをやってるからこういうパフォーマンスができる、こういうことをやってるからあれだけのフィジカルがあるって。自分は何をやっているのかというと特に何もやっていなかった。サーフィンだけやってたらうまくなる環境で育ったので、もっといろんなことをやらないといけないとなったときに、自分が気づくのは遅かったのかな。

小学校5〜6年生の子達がトレーニングを取り入れてるのを間近で見ていたんで。日本にそういう施設があるかと言われたら全然確立されてない。それが日本と海外のレベルの差として大きく出てるのかなと思いますね。

——(日本は)環境が整っていない中で、グランドチャンピオンを取り、ある程度結果をしっかり残し、それから変化はありましたか?

メンタルの部分ですごく大きく変わった部分があって。高校生から世界をメインで回ってて2020年に(パンデミックで)日本に帰らざるを得ない状況の中に、日本のツアーはほとんど回ったことがない状態で。自分にどれだけの力がついたか、ついたか試せる機会がなかったので、2020年度の特別戦で優勝できてその次の年にグランドチャンピオンを取れて、 自分の中で今までの2〜3年間の海外で受けた刺激や経験が全てプラスになってるんだなって強く感じました。また海外でどれだけ戦えるんだろうっていうチャレンジ精神が強まりました。

——生活面は何か変わりましたか?

生活面としては残念ながら(笑)。それがサーフィンのまだまだ発展しきれてない部分なのかなと思います。サーフィンはファッションの方だったりが社会に広めた部分が大きくて、例えばテレビ番組の『テラスハウス』でサーフィンが認知されて、いいイメージでオリンピックにつながったのは嬉しいことです。ですが、アスリートのサーフィンの部分で考えると、同じカテゴリーの中で埋まっちゃってる。自分達アスリートが試合としてのサーフィンをどうやって見せていけるのか?っていうのを最近は考えるようになりました。そういう部分でアスリートとして、もっといろんな人に現状を知ってもらいたい。

現状、日本一だから生活ができるかと言われると、かなり厳しいと思いますね。どうすればアスリートのサーファーがサーフィンと向き合えるかを考えると、アスリートがどういうものを求めてるのかを発信し続けないといけないとすごく思います。どうやったら変えられるのか。アスリートとしての価値を示さないとそこは絶対変わらないと思うので。

——金銭的な補助などはありますか?バイトしてるんですよね?

そうですね。

——実際にはどんな部分でサポートが必要ですか?金銭面なのかフィジカルな施設などでしょうか?

活動していく上で金銭的な部分は重要になると思います。自分でお金を稼げるスキルももちろん必要になってきます。試合では賞金が出ますし、その賞金を取れるか取れないかでアスリートとしての価値は変わってきます。活動資金っていうのはすごい大事なんですけど、フィジカルやメンタルを整え、自分にどれだけその力があるのかを証明できることが今必要だと思います。

——例えば、西プロが世界でバシバシ戦っていくには、もちろん世界を旅するお金が必要ですけど、実際どれくらいのお金がかかるのでしょうか?

年間最低でも300〜500万くらいでしょうか……。サーフィンはオリンピック競技になりましたが、まだまだ競技っていう部分では、かなりマイナー。ルールも全然浸透してないです。なかなかこうやってサーフィンの良さを伝える機会も少ないので。

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——プロのフリーサーファーと競技サーファーの違いはなんですか?

サーフィンを楽しむことに特化しながら、そういう中での魅力を伝える、自分が乗りたい波、挑戦したい波に向かっていくし、しっかりと記録(映像や写真)に残していくのもかっこいいと思います。

目指す部分は違ってもそこにどれだけフォーカスできるかということなのかなと。自分の場合は試合にフォーカスします。ビッグウェーブだったりパイプラインのような凄い波にフォーカスする人、誰も乗ったことのない未開拓の波にフォーカスする人、いろんなジャンルがあるんで、そういうのがもっと広まってくれればと思います。

——ただなんとなくおしゃれなイメージだけではなくて、フリーサーフィンにもそういう側面がしっかりあるってことですよね。

そうですね。かなりたくさんカテゴリーがあります。

——乗ってみたい波(行ってみたいところ)はどこですか?

自分の乗りたい波……あまり考えたことがないですね(笑)。どういう波に乗りたいのかっていうのははっきりしてないんですけど、ここで試合があるからここで練習するというように小さい頃から育ってたので、そこに波があるならやろうという感じです。それがどれだけいい波だろうが悪い波だろうが気にしないです。

——サーファーとして一番エキサイティングな瞬間はいつですか?

ギリギリ逆転できたときです。時間がどんどん減ってくる中で、自分が負けている状態で、メンタルのブレをしっかり保ってスコアした感触。相手が迫ってくるギリギリのラインで、逆転されるかされないかの部分でラウンドアップできたときのホッと感がすごい好きです。

——結構大きい波に乗れればいいと素人は思っているけど、勝ちにこだわってどこでも乗れていい演技ができて、常に自分に挑戦していますね。

自分の場合は試合に特化したサーフィンを目指していますが、いろんな波にフォーカスする精神面だったりとか、また彼ら(フリーサーファー) には別に興奮する部分があって、波を見た時の興奮だったり、その波をメイクした時の興奮だったり、そういう自分が味わったことのない部分をいつか味わえたらなと思います。

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——今後の目標を教えて下さい。

ここ一年での CT(Championship Tour)入りを見据えてやっています。 日本で1番取っ たんで、海外に行って、「そこでやっぱり勝てなかったです」 は、自分が絶対にやりたくないです。「やっぱり日本一でも勝てねーのか!」と思われたくないので。世界に行って、すぐに勝てませんでしたってかっこ悪いじゃないですか。周りから、勝てなかったけどしょうがないよねというかたちで接せられるのも。だからこそ、“日本一でも” ではなく、“日本一だからこそ” 世界と戦えるということを僕が証明してみせます。

西慶司郎
1998年9月3日生まれ。長男の修司、三男の優司と共にプロサーファー 3兄弟の次男としても知られる。長い手足から繰り出されるダイナミックなマニューバーと圧倒的なスキルで、QS KRUI PRO 2017で優勝、2021年には年間王者JPSAグランドチャンピオンを獲得。

 

静波サーフスタジアム PerfectSwell®

TUDORがパートナーシップを組む、日本初の大型ウェーブプール。American Wave Machine社の造波技術により生み出される多種多様な波をエキスパートからビギナーまで安全にライドすることができる。バックフリップからバレル、エアーまでのすべてのサーファーの要望をかなえてきたサーフスタジアムは、昼夜問わず最高のエンターテイメントの体験を可能にした。

住所:静岡県牧之原市静波2220