style
Where the runway meets the street

クールできらびやかなファッションの世界を支えているのは、環境汚染や大量廃棄、動物虐待にはじまる、社会的問題のデパートメントだ。限りある自然資源の持続的な開発への保全が叫ばれる今、ファッション産業が生み出す汚染の深刻さと改善策実行は緊急レベルで必要とされている。そんな中「環境に優しい明るい未来を築きたい」という想いで伊オンワードラグジュアリーグループがローンチした「F_WD(フォワード)」デザイナー、ラファエル・ヨンにインタビューをし、その展望について聞いた。

ファッション産業が生み出す環境汚染への社会的責任に対する取り組みとして、世界中の大手企業がプラスチックに変わる環境に優しい素材の開発に乗り出している。例えば、もともと毛皮不使用を謳い、成長を続けてきたラグジュアリーブランドであり、PVCの不使用など年を追うごとにより厳しいサステナブル基準をクリアしてきた「Stella McCartney(ステラ・マッカートニー)」彼らのロンドンの新店舗での電力は風力エネルギーを使用、マネキンの主原料は生分解可能なサトウキビだ。ここまで実現を可能にした徹底ぶりは一筋縄ではいかないが、不可能ではないことを立証した。2018年にスタートし、日本で本格ローンチを迎えたF_WDもこれに追随せん、とファッション産業がもたらす環境問題に意気揚々と切り込んでいく。

「僕たちは新しいブランドを立ち上げるだけが目的ではなくて、ファッションビジネスの仕組みを変えることも目指しているんだ。業界に衝撃を与えることになると思うし、インパクトを与え続けないといけない。試みすべてがチャレンジなんだ」

そう語るのは、2019年秋冬からの世界に向けた本格ローンチを控え、東京・代官山の複合施設「Kashiyama Daikanyama」でのポップアップの際に来日したF_WDクリエイティブ・ディレクターのラファエル・ヨンだ。

韓国に生まれ、パリ・NYで育ったラファエルがファションに興味を持ったのは叔父、アレシャンドレ・ナルシーからの影響だ。Yves Saint Laurent Shoe Studioの創始者である彼のアトリエで幼少から多くの時間を過ごし学んだラファエルは、必然的にビッグメゾンのシューデザインを手がけていった。

「伝統的な靴作り技術はもちろん、叔父から学んだすべてが僕の中に刷り込まれていると言えるね。おかげで、僕は靴を“読む”ことができる。ファッションへの情熱が僕を靴作りに没頭させたし、僕が育ったその頃はファッションのビッグ・タイムだった。エレガントでまるで魔法の世界のようで、人々は常にセクシーなものを欲しがっていた。だから僕からエレガンスは切り離せないけれど、必ずエッジーなアプローチを施すのが僕のスタイル。伝統的な靴作りだけではなく、シンプルなアイテムだとしてもそれを強くプッシュする表現をいつも追求しているんだ」

ラファエルが自身の名を冠したブランドを始めたのは2008年。ヨーロッパを中心にまたたく間に人気を博し、リアーナ(Rihanna)やビヨンセ(Beyonce)、レディ・ガガ(Lady Gaga)など名だたるセレブリティからのリクエストを受けるほどに成長。エレガントでゴージャスな靴を数多く生み出していった。

「2009年の2年目にフランスの投資家からの流れでLVMHとパートナーシップを結んだ。僕が本当はスニーカーを作りたくても、コマーシャルなこともしなくちゃいけなかった。2011年にローリング・ストーンズのロニー・ウッドとコラボレーションしたスニーカーが成功したことで自信を持ったから、たくさんのスニーカーを作りたかったんだけれど、当時のエディターたちはまだスニーカーを履きたがらなかったんだ」。

YSL(イヴ・サンローラン)、Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)、Fendi(フェンディ)、Calvin Klein(カルバン・クライン)コレクション、Paco Rabanne(パコ ラバンヌ)、Jil Sander(ジル・サンダー)といった名だたるメゾンとのクリエイションの数々。その中には、業界のゲームチェンジャー、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)も名を連ねる。

ヴァージル率いるOff-WhiteがNIKEを始めとした様々なブランドと行ったコラボレーションの数々は、その絶対的な付加価値によって価格の飛躍や消費者傾向の変化へとつながり、建築やデザインを背景とする彼のブランディング手法は目に見えて立証されていくこととなった。2017年、破竹のごとく勢いを増すデザインハウスで、シューデザイナーとして現場を共にしていたラファエル。当時の影響力や仕事術をどう感じていたのだろうか。

「デザイン面においての違いは明白だったよ。僕はアイキャッチなプロダクトが好きだ。彼はリアルでアスレチックなプロダクトを好んでいたけれど、僕はエレガントな世界観にずっと身をおいてきたから、クリエイションを行うときは全く別の言語を組み合わせるような感覚でデザインしているんだ。これからの未来にとって必然だし、5〜10年後の社会を考えると、当然の流れだ。僕がF_WDで行っていることは、いわゆる未来のストリートウェアという感じだよ。君の履いている靴によって誰かが何かを感じ、その靴がメッセージを発していく。その靴を履くことが表現やステイトメントになる。現在の消費者はプロダクトそのものだけではなく、背景に流れる付加価値を求めているし、その傾向はより強まっていくと思うんだ」

未来へのメッセージ。それは、このブランドが持つ背景と強い姿勢だ。#REACT #REDUCE #RECYCLE を掲げ環境問題に向きあい、再生素材等、環境に優しい素材などを使用したアイテムを採用することで、プラスチック汚染への注意を喚起する。

「プロダクトには、ヴィーガンレザーのオーガニック素材やバナナの葉で作ったレースを使用している。僕は汚染を食い止めるだけではなく、汚染物質をなくし、環境を改善していきたいんだ。素材メーカーにももっと研究を進めて、環境改善のための大きなステップであることを実感してほしいと思っているんだよ。とにかくこれまでの慣習を完全に覆すような仕組みを作りたい。デザインだけでなくサステナブルな素材のプロダクトを取り扱うグローバルストリートブランドにしたいんだ」

ミレニアル世代やジェネレーションZへのアプローチを強く意識しているのはなぜか。

「ミレニアルズに強く訴えているのは、未来を担っていくのは彼らだから。ジェンダーやスタイル、アウトドア、アクティブ、フォーマル。いろいろな言語をミックスしてデザインしているけれども、最も気楽で袖を通す機会があるのはストリートウェアだよね。そこに、メッセージというアクティビズムを注入することで、人々のアクションに直結させている。なぜなら、環境問題は本当に深刻で、今すぐに動かないといけない、レッドアラート状態だ。若い世代がこの意識を持って受け入れてアクションしてくれることが僕たちのゴールのひとつでもあるんだ」

デビューシーズンの2019年秋冬コレクションで英国百貨店、セルフリッジズの「Bright New Things」(クリエイティブなプロセスの真髄にサステナブルな革命を起こしている新進デザイナーに与えられる栄誉の選考)にノミネートされたことからでも世界の注目度が伺える。フランスの「ボン マルシェ百貨店」、Kashiyama Daikanyama、阪急うめだ本店のほか、フィレンツェのセレクトショップ「ルイーザ ヴィア ローマ」、モスクワの百貨店「ツム」など100以上での販売が予定されている。

「僕たちのゴールは2つだ。ひとつはこのブランドを確立すること。そしてこのブランドを通して人々がサステナブルという価値観を理解し、少しでも考えを変えること。アートを使って表現をするように、ファッションというツールを使ってまだ認識不足の人たちの意識を変えて、世の中を変えていくことが非常に重要だと思っている。これは社会活動なんだ