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Life beyond style

Jumpsuit CELINE BY HEDI SLIMANE

中国・広東省で生まれ育ち交換留学生として来日。SNSを通じてモデルへ転じた馮 家豪は、華奢なラインやソフトな話し口調に対してアイデンティティの強いファッションが印象的だ。男性らしさ、女性らしさを押し付ける従来の文化にはファッションと友情で跳ね返す。礼儀正しく相手をおもんぱかる優しさで作り出す最強のサポーターこそが、誰をも寄せ付けない強さの源となる。

——日本でモデルをするようになったきっかけと経緯をお聞かせください。

東京に来て、偶然表参道の喫煙所でTHE OVERSEAの美容師さんにサロンモデルとして声をかけられて。そこから業界の人にインスタを通して知られるように。2019年に初めてKOZABUROのファッションショーに出たのが初めてです。その時からフリーでやっています。

元々はモデルに憧れがあったんですけど、自信がなくて。多分出来ないだろうなと諦めかけてたというか。でも貴重なチャンスを頂き、業界に触れることが出来てすごくありがたいと思ってます。

——これまで傾倒したブランドやカルチャーについてお聞かせいただけますか?

日本に来る前から原宿系のスナップがすごく素敵だなと思ってかなり集中して見ていました。最初はパンクファッションが好きで、パンツがボンテージとかボロボロのシャツとか鎖・チョーカー・釘とかにハマっていました。東京に来てからやっと原宿に行けるようになって、竹下通りでゴスロリ系に出会って、クローゼットチャイルド(ClosetChild)っていうゴスロリ系の古着専門店に行ってみたら、想像できないくらいすごく衝撃を受けて。以来ずっと、普段はゴスかパンクでした。VCF(VOLTAGE CONTROL FILTER)、アリスアウアア(alice auaa)とかのブランドに2年くらいはまって、たまに古着とかも着ましたが気合いを入れる時はやっぱりゴスですね。最近は2000年代にハマって、ギャル系とかロック系とかちょっと落ち着いた感じの。L.G.B.(ル・グランブルー)を結構私服で着てます。スナップをインスピレーションに勉強しています。

ALL MODEL'S OWN

——今日は私服で撮影もさせていただきましたがどこのブランドですか?

シャツは普通の古着。3Lのシャツで、Tシャツはヴィヴィアン(・ウェストウッド)、スカートはフェトウス(fotus)。昔流行ってたサイバー系のブランドです。

——どんなモデルを目指していますか?

自分は自信の無い人間だから、外見だけじゃなくて内側から自信を持てるようになりたいし、仕事的には、レディース・メンズこだわらずにいろんな分野で出来たらいいなって思います。ファッションは人間を縛るためじゃなくて、楽しませるためにあるものだから。男だからメンズ、女だからレディースを着なきゃいけないというのがあんまり好きじゃないんです。だからいろんなファッションを取り入れて、融合してっていう答えが自分らしいかなと。

——他人の目は気にならないですか?

すごく勇気がいることではあります。最初は自分も周りの目が気になるタイプで、かわいいスカートを見つけても、着れないと思ってって買わなかった時もあって。やっぱり周りに理解してくれる人がいないと、なかなか勇気は出ないと思います。でも、友達が背中を押してくれて、自分もいけるかもって思えてきたり。実際に着てみたら似合うなって思ったり、そんな自分を見て自信が湧いたりして気分も上がる。そこからどんどんスカートやワンピースにも挑戦していくようになりました。やっぱりいろんなファッションを楽しめると、他の人の目を気にせずに出かけられるようになりましたね。

——直接なにか言われたことなどありますか?

あんまり言われないですけど、言われても「別にこっちの自由なんで」って感じで気にしないですね。でもさすがに公衆トイレにいく時は気まずいかも。レディースの時は障がい者用トイレとかを使うようにはしてますけど。女子トイレに行く訳にはいかないし、男子トイレに行ってもびっくりされちゃうから。だから男女分けないトイレが出来たら良いなって思ってはいます。ファッションの問題ではなくて、ジェンダーの問題。そういう方もいらっしゃると思うんで、必要だと思う。

——ノンバイナリーを謳うことで、どんなことにストレスや違和感を感じますか?

初対面の人や親しい間柄じゃない人に「彼女いるの?」って聞かれること。「いない」って答えると「作らないの?」って返されるから困りますね。どう反応すれば良いのか分からない時がある。普段は「興味ない」とか「作らない」とかって適当に答えてますけど。そういう特定の聞き方じゃなくて、「パートナーいる?」とかだったらまだ答えられると思います。

——今の多様性という世の中に対して思うこととしてここ数年で何か変わったと思いますか?

メディアとかSNSとかでLGBTとかの話題って増えてるし、昔よりは変わってるとは思います。

——人々の意識が変わったなって実感することはありますか?

あんまりないです。自分には無関係だと思ってるんだろうなと。周りの友達は当然そういうことに対しては理解ができる人たちだけど、世間とかにはそんなに変化は感じてないです。

——モデルとして、多様性というところで起用されることに役割などは感じていますか?

感じます。人の考えはそう簡単に変わらないとは思うんですけど、やっぱり変えていかないと、自分と同じ立場の人間は困ってると思うし。ちゃんと発信出来るチャンスを与えられてるから、その人たちの代わりに発信した方が良いかなと思ってます。自分のような存在が世間に伝えて、「あなたたちと変わらない普通の人間だよ」ってことを伝えたい。

——ご両親との関係はどうですか?

中国にいたころは髪も短かったし、ファッションもメンズだったんですけど。やっぱり髪に関しては言われますね。男は髪を伸ばしちゃいけないっていう考えがまだあるから、でも私は聞かない。これが本当の自分だし、誰かのために変えたくないから。それを変えたら自分じゃなくなる気がするから。

——その「自分を変えないぞ」って思えるようになったのには何かあるんですか?

やっぱりまだ家族は抵抗があるかな。あんまり理解してくれないんですけど、友達の存在ですね。

褒めてくれるし、こっちの方が似合うって言ってくれるからすごく嬉しい。やっぱり付き合う相手が正しくないと、本当の自分でいられる勇気がなくなるからすごく大事だなと思います。

——付き合う相手を見極めるじゃないですけど、大事にしてることとかってありますか?

友達はみんな結構オープンマインドというか、いろんなことに対して理解が大きく受け入れ度が高い。その子たちも自分と同じ考えかどうかっていうところが大事だと思います。

——友達と社会問題についてどういう話題で話しますか?

学校のいじめについて。自分はいじめられたりはしてなかったんですけど、似たようなことはされたから。小学校の時の自分はあんまり運動が得意ではなかったし、小さい頃からずっと細くて女の子と遊んでたので、噂になって。高学年の子たちにトイレに行く時に、「あれ、そっち(女子トイレ)じゃないの?」っていう風にいたずらみたいな感じで言われて。いじめではないんですけど、あんまり気持ちは良くなくて。でも友達がかばってくれてたから、ラッキーだったと思いますね。そういう友達に出会えない子たちに関してはなんとかしなきゃいけないと思う、危ないから。仲間がいなかったらみんな遠ざかっていくじゃないですか。小さい頃からちゃんとジェンダーの問題も教えないと、人を傷つけることになる。

——良い友達を持つための心がけとかってありますか?

自分も正直で素直になること。ちゃんと相手を思って行動すること。やっぱりできない子もいっぱいいるから、そういう基本ができるってすごいんだなって思いますね。弱い集団になっちゃうこととかもあるし。

あとは大人もちゃんと見てほしいなっていうのはありますね。先生や親が、早く異変に気づけたら。先生もジェンダーに対する知識とかオープンマインドの気持ちを持ってくれないとやっぱり難しいのかなって。だからこそSNSとかでの発信が必要だとは思いますね。いろんな職業の人にも見てもらいたい。

Jumpsuit CELINE BY HEDI SLIMANE

——馮さんが社会に還元できる才能はなんだと思いますか?

人に共感ができること。人の苦しみや悲しみにちゃんと共感できるからこそ、何をしちゃいけないっていうのが分かる。人を傷つけることはしない。だから気持ちの共感が才能かなと。

——それができるから良い友達が周りにいるんだと思います。相手の気持ちが分かるって大事だから。でも相手の気持ちが分かりながら、なびきすぎないことも大事ですよね。

深入りしないで、向こうから話してくれるのを待つ。向こうが話したくないことは、根掘り葉掘り聞かれても嫌がられるから。デリカシーも必要だと思います。

——分からなさすぎて、すごい失礼なことを質問してくる人とかもいっぱいいますしね。そういう人はどうしたら良いと思いますか?

難しいですよね。育ちの背景とかにも関係しますし、複雑ですよね。

——複雑です。本人も知らずして傷つけてしまったことに対してすごく恥ずかしいって思うと思うし。「なんで誰も教えてくれなかったの」っていう思いをするだろうし。やっぱりその気づきを世の中に増やして行くっていうのは大事だなと思います。これを機に何か伝えたいことはありますか?

自分のアイデンティティとか、本当の自分を見つけて、認めて、もっと自分を好きになって。そしたら自由になれる。自分自身を認められたら、他の人に認められなくても大丈夫だと思います。

自分に正直になりなさいっていうこと。あとは良い友を持ちなさいっていうことですかね。