style
Where the runway meets the street

2008年にロンドンでスタートしたブランド「QASIMI(カシミ)」は、デザイナーであるハリド・アル・カシミ(Khalid Al Qasimi)のルーツである中東のエッセンスを随所に散りばめながらも、ユーティリティに富んだモダンなコレクションで、毎シーズン着実に評価を高めてきた。

創業からブランドを牽引してきた同氏が2019年に急逝し、現在は双子の妹のフール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)が指揮をとっている。 今年2月にはクリエイティブ・ディレクターとして初となる、『WE ALL LIVE UNDER THE SAME SKY.』と題した2020-21年秋冬コレクションをフィルム形式で発表した。

これまでアート業界でのキャリアを歩んできたフールのファッション哲学や、自身とブランドの関係性を探る。

 

この投稿をInstagramで見る

 

QASIMI(@qasimi_official)がシェアした投稿

2021年秋冬コレクションは「体を包み込む、守る」という、原始的な洋服の役割にフォーカスされていますが、今回このようなテーマを選んだ理由を教えてください。

不確実で孤立したこの時代に、快適さや身体の保護という洋服本来の役割を振り返り、それをデザインに取り入れたいと考えました。

まるでアートのようなプリントが印象的な、着脱可能のパネル付きアウターが目を引きました。このようなデザインはご自身がブランドに加入された影響からでしょうか?

前クリエイティブディレクターの兄は以前、シャツの背中にアートワークを施したことがありましたが、私はシャツにアートワークを施しつつも、場面によっては取り外すことができるような、何か別の方法を試してみたいと思っていたんです。ひとつのアイテムを色々な方法で着られるというアイデアが気に入っています。

 

この投稿をInstagramで見る

 

QASIMI(@qasimi_official)がシェアした投稿

今回は通常のランウェイ形式の映像でなく、パフォーマンスするモデルも見られました。この実験的な手法を試すことで、ファッションショーはどうあるべきかなど、ご自身なりの答えや発見はありましたか?

ファッション業界には、キャットウォークのファッションショーが必要だと思います。ショーはオンラインでは再現不可能な、コミュニティが集まるという大切な機会を提供してくれます。偶然の出会いや社交、友情の構築などの可能性は、個人がリモートで孤立しながら仕事をしているこのバーチャルな世界では失われてしまいます。

もちろん私自身、動画を制作するプロセスは大好きですし、このコレクションで振付を担当してもらった「Bakani Pick-up Company」との時間は素晴らしいものでした。こういった経験から得られるものはたくさんありますが、できるだけ早くフィジカルなショーを開催したいという気持ちがますます強くなっています。

これまで間接的にでもQASIMIというブランドとは関わりはあったのですか?

前クリエイティブディレクターであり、双子の兄であるハリドが亡くなるまで、QASIMIとの関わりは全くありませんでした。しかし、兄はショーのために考えた音楽や、フィッティングやロケーションのイメージなど、たくさんのスケッチを見せてくれたり、話してくれたりしました。兄が成し遂げたこと、彼が自身の夢を実現したことを、私はとても誇りに思っていました。いつも言っていることですが、私はここでの仕事で常に学びを得ていますし、兄が誇れるように、彼の残したレガシーを守り続けていきたいです。兄の同僚と一緒に仕事をして、彼らの経験から学べたのは大変光栄なことです。

ファッションと結びつきは強いものの、アート界でのキャリアから、ファッションブランドのクリエイティブディレクターとして指揮を執る上で苦労したことをお聞かせください。

ファッション業界は、非常に速いペースで変化していく世界だと思います。また、商業的な側面も私にとっては初めての経験です。ファッションショーは短い時間の中で、あっという間に終わってしまうものですが、それがアート業界と比べて大きく異なる点です。展覧会のキュレーションなどのプロジェクトには慣れていますが、そこでは長期の計画を立て、設置した後は数ヶ月にわたり展覧会を体験したり、楽しんだりすることができます。

ご自身がQASIMIに加入し、今後も残していきたいブランドのDNAやヘリテージ、一方で今後変えていくべきこと、取り組みたい新たな挑戦などはありますか?

ブランドは常に進化し、変化していくものですが、兄が立ち上げたQASIMIのブランドの柱である「建築」「中東の伝統」「ミリタリー」「メッセージ性」にこだわりを持って取り組んでいくつもりです。これらのアイデアと根底にある価値観に焦点を当てながら、現在はウィメンズのラインも展開しています。

社会的に大きなシフトが求められている中で、ファッションと洋服は今後どのような役割を担うべきとお考えですか?

ファッションは、社会全体の中で重要な役割を担っていると思います。ファッションブランドは、よりグローバルな意識を持ち、サステナビリティ、多様性、倫理性、アクセシビリティについて考えるようになってきています。素材の調達先から、工場で働く人たちがどのように扱われ、報酬を得ているのかまで、ファッションにおける人権について意識し、声を上げるようになっています。これらは全て、ファッション業界が果たすべき重要な役割であり、私たちは変化をもたらすことができると思います。

リベラルな姿勢が伺えるQASIMIですが、今後純粋なファッション以外にも予定されている活動があれば教えてください。

兄はQASIMIのためのリサーチや着想源として、常に社会的・政治的問題に目を向けていました。私も現代アートのキュレーターとして、「Sharjah Art Foundation(シャルジャ・アート・ファウンデーション)」やシャルジャ(UAEを構成する首長国のひとつ)にあるアフリカの学会でも、様々な問題に取り組むアーティストや映像作家、ミュージシャンと一緒に仕事をしてきました。例えばコーネル大学の「Institute for Comparative Modernities(ICM)」、「The Africa Institute」、「テートモダン(Tate Modern)」が共同で開催したカンファレンス『Axis of Solidarity』などです。他にも「The Africa Institute」と「Sharjah Art Foundation」のためにオンラインで開催した、映画上映と映像作家との対話シリーズは、重要な作品を振り返り、最近世界中で起こっている「Black Lives Matter」の抗議運動を理解することを目的にしています。もちろんほかにも多くの事例があり、オンライン上で見ることが可能です。