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Life beyond style

Cielo(チェーロ)とはイタリア語で「空」。Maserati新型スパイダーの名付けの親はいかに考えを巡らせたことだろうか。バタフライドアが天空に向かって跳ね上がる姿を一度目にすると、頭上に広がる空へのオマージュであるという発想にたちどころに納得させられる。それこそがMaserati M20 Cieloだ。パステルグレーをベースに虹色のアクアマリン雲母を配した「アクアマリーナ」のカラースキーム(Maseratiのカスタマイズプログラム、フオーリ・セーリエにてオーダー可能)、世界初の電動格納式ガラスルーフ、あらゆるディテールが空を思わせる。

 

パステル調のスポーツカーグレーと、よりコンバーチブル感のあるアクアマリンの色合わせには、MC20 Cieloそのものと等しく重要な意味がある。MC20 Cieloは、Maseratiのレースとグラントゥーリズモの伝統をデザインの核とし、パフォーマンスと快適性を併せ持ったモデルだ。レース生まれの同乗者思いモデルとでも言おうか。スポーツカーデザイナーの頭の中には、同乗者にとっての乗り心地という概念はわずかしかないのが普通だが、クラウス・ブッセ率いる本モデルのデザイン陣はそこを最重視した。だいたい、美しい車をひとりで運転してどうする。同乗者ともその感覚を味わいたいでしょう、というわけだ。Cieloは実際、すべての感覚を余すことなく味わうことを可能にしてくれる車だ。GT、SPORT、CORSAモードと切り替えていくと、70年の歴史を誇るトライデントの魂がストリートファイターのリュウの拳の放つ波動拳のように、身体から空へと突き抜けていく。

 

Cieloはグラントゥーリズモが「禅」の精神をまとったような一台だ。何から何までが滑らかにできている。風に作られたかのように純粋でアグレッシブさのないフォルム。起伏のある道も熟練の船長が舵を取るトリマランのように切り抜けていくハンドリング。運転するたびに、まるで四輪を持った癒しの隠れ家で過ごしている感覚を味わう。電動格納式のガラスルーフが頭上に降りてくる間に空を見上げるわずか12秒にもこの上ない安らぎがある。日が暮れれば、ポリマー分散型液晶技術で透明の屋根が不透明へと変わり、冷え込みにも即座に対応する。いずれもすばらしいこうした仕様は、性能には直接的に関係しないかもしれない。しかしこの車がMaseratiとして、コンバーチブルにつきものの重量増を抑え、MC20のスポーツ感を維持することに成功した一台であることは間違いない。

MC20 Cieloの試乗の舞台としてMaseratiに招かれたのは、イタリア、シチリア島南東部の美しい海沿い。適当に選ばれた場所ではない。赴いた我々は、「旅」の喜び、青い空の広がり、海の匂いを存分に味わうこととなった。MC20 Cieloは、体験を共有するための車だ。(シラクーザ県にある)ノートの街並みを走ると、「Bella Macchina(ベッラ・マッキナ:イタリア語で「美しい車」の意味)」を一目見ようと列になった道行く人々も、そのシルエットを一瞬でMaseratiと認識する。注目を集めずにはいられない一方、注目を歓迎するような車でもある。多くの人が車と並んで写真を撮ろうと列を成し、その数はアメリカのドキュメンタリー番組「シェフのテーブル」で話題となった地元の有名店カフェ・シチリアに並ぶ人の数を凌ぐほどとなった。最後には皆、シチリア名物のグラニータとブリオッシュに舌鼓を打つ食事客と同じ満面の笑みで去っていく。

 

Maseratiヘッドデザイナーのクラウス・ブッセは、Cieloの開発に際し、インスピレーション、純粋さ、心の浄化を感じさせるドライブを最重視した。アーティストのセルジオ・フロレンティーもCieloを初めて運転してそれを実感したようだ。自身のスタジオのあるノートに戻るなり、この車と、そしてこの車で、青い空の下屋根を下ろし、愛する人を隣に乗せ、わずか12秒で時速0から100kmまで加速をする感覚への讃歌として、「ブルードリーマー」という作品を描き上げた。Cieloという車が画家の発想のミューズとなったというわけだ。ミューズと言えば、我々のもう一人のドライバー、ジョン・コルタジャレナ。トム・フォード監督の映画『シングルマン』の駐車場のシーンに出演した予期せぬスターで、長年トム・フォードのミューズを務めるモデルだが、Cieloの滑らかなカットは、彼の生まれ持った彫りの深い美しい顔立ちさえもが若干霞むかというほどに美しい。

ノートの南西からモディカまで走ると、辺りを走る車からは、まるで王室一家を歓迎するときのようにクラクションが鳴り止まない。やはりイタリアにおいてMaseratiは、依然、堂々の王者なのだ。

 

そんな虹色に輝く「ブルードリーム」だが、古い田舎道を渡るヤギの群れにだけは、行く手を阻まれた。試乗の後、1日の締めくくりには、伝説のレーシングキャプテン、ジョヴァンニ・ソルディーニが乗るMaserati所有のトリマラン「Multi70」で繰り出す海の旅が待っていた。何と言ってもCieloは、ドライバーに旅の体験を、アーティストにミューズの体験を、そしてクリエーターにインスピレーションを与えてくれる存在なのだから。

技術的な仕様の情報はいくらでもあるが、それについては専門家に委ねることにしよう。どれほどの性能を持った車であるかよりも、どれだけ痺れる車だったかをとにかく伝えたい。1日助手席に座って乗っているだけでも、2週間連続で5つ星のメディテーション講座を受講しても到底味わえないような気持ちの上がり方が体験できた。