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Where the runway meets the street

Supreme(シュプリーム)の終焉。何年も前から、その感覚は、ブログ、フォーラム、 Discordグループ、Instagramのコメント欄、TikTok投稿などでシェアされていた。そんな Supremeの破滅論がいよいよ現実味を帯びてきそうだ。

今のSupremeがかつてのように文化を定義する巨大な存在ではなくなっていると述べても、もはや物議を醸すようなことではないだろう。

しかし、Supremeは実際に「終わって」しまったのか?

この問いには逆説的な部分がある。ストリートウェアという漠然としたジャンルにおいて「終わった」と言った場合、それは、あるブランドが活動停止に至ったり不活発になったりすることを意味するのではない。かつて持っていた文化的影響力を失い、他のブランドほどクールでもハイプ(刺激的、トレンディ)でもなくなったブランドのことを「終わった」ブランドと言う。

 

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Supremeはもう影響力がなくなったわけでも、利益を出せないという意味で「終わった」のでもない。むしろ、依然として世界屈指のストリートウェアブランドではある。ただ簡単に言えば、5、6年前のような文化的な権威を失っている。

大手のブランドが、このようなフェーズを経ることはよくあることであり、Supremeもただこの局面を迎えているに過ぎない。Supremeは常に存在し続けている。話題性もあり、これからもあり続けるだろう。実際、ここ数年のSupremeの作品にも刺激的なものはある。

ただし、以前のSupremeのように、強烈なインパクトを残しているわけではなくなってしまった。もしもこの記事のタイトルが、「Supremeは依然としてクールだが、5年前と比べるとクールさが減った」だったら、誰もこれを読んでいないだろう。

 

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原因は、親会社である「VF Corp.」が、業界で最も輝くブランドというSupremeの立ち位置と、認知度を延々と満喫し、実際の売上以上にそこに価値を見出す状態となっていることにある。

Supremeの売上はVF Corpの目標の6億ドルを下回るものと見られている(VF Corpでは個々のブランドの収益の発表を行ってはいないが、報じられているところでのSupremeの年間売上は4億5000万ドル未満だ)が、2020年にSupremeを買収したVFとしては、Supremeブランドのグッドウィル(信用価値)について、買収時に発生した21億ドルという負債を相殺できるほどのものであると高い評価をしているようである。

認知度と呼ぼうと信用価値と呼ぼうとそれは自由だが、知名度と影響力は別物である。

Supremeに挑んだブランドを考えてみて欲しい。Anti Social Social Club(アンチソーシャルソーシャルクラブ)が良い例だ。今はそれなりに「終わって」しまい、マーサ・スチュワート(Martha Stewart)のブランドを運営する会社の傘下に入っている。

Anti Social Social Clubは、5年前のようなクールさを失ってはいるが、その知名度はかつてない程に高まっており、新製品も続々完売している。しかし、カルチャーに敏感な層からは、ASSCは逆に「終わった」とみなされる。それがストリートウェアの世界だ。

ただ、ASSCは一夜にして成された奇跡的成功であり、目を引くネームバリュー以上の存在になろうという意図は当初からなかった。一方、Supremeは90年代から文化の接点という役割を果たしてきたブランドである点がASSCとは異なる。

 

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問題はSupremeがそれ以降、大きな変化を見せていない点にある。

どれほど変化がないかと言えば、今年初めに、Supremeのごくシンプルな作りの公式ウェブサイトのドメインが「Supremenewyork.com」から「Powered byShopify」の「Supreme.com」に変わったというような些細なことさえもがニュースとなり得るほど。

頑ななまでにブレないその姿勢は、長年にわたってSupremeに有利に働いていた。

2010年代を通して、Supremeは最強のユースカルチャーブランドだったと言えるだろう。著名人とのコラボレーションアイテムは、0.001秒単位で完売に至った。ファンらは、お目当て商品を自動でゲットするbotを考え出したり、新しいグッズを身につけた自分の画像をTumblrで共有するなどしていた。

 

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しかしSupremeが変わらなくとも、時代は変化している。ソーシャルメディアの時代は、主張するか死ぬかの時代。Supremeには主張する意思が明らかにない。

性根たくましい転売屋らが儲け狙いで買い占めていたからであるとはいえ、かつてのSupremeであれば、中途半端なコラボ商品でさえ即座に完売していたものだ。

しかし、SupremeとThe North Face(ザ・ノース・フェイス)の2023年春夏コレクションでは、オンラインショップの売れ残り状態が何日も続いた。初夏と言えば、Supremeで最もホットなリリースであるのに関わらずだ。

中古市場における「Supreme SS23 TNF ヌプシ」の価格は、小売価格を100ドル程度上回る程度。比較の対象として、過去のSupremeのヌプシであれば、の転売価格は4桁以上にまで跳ね上がることもある。

サードパーティのSupremeプラットフォームや、最近のSupremeのリリースアイテムについてのファンの評価、議論には特に、興奮に欠けた印象がある。

SupremeCommunityでかつてファンから万単位の票を集めていた週間リリースアイテムランキングに対するリアクションは、今や千単位にまで落ち込んでいる。

 

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現実として、Supremeプロダクトの需要は日に日に落ちている。

昔よりプロダクトが悪くなっているわけではない。

実際、純粋にプロダクトだけを見るなら今シーズンは(新クリエイティブ・ディレクターのトレマイン・エモリー(Tremaine Emory)の功績によるところが多いわけだが)、Nike(ナイキ)の新作「Dunks」からSupreme版のキッチュな「Tamagotchi」まで、あらゆるものを打ち出し、大成功を収めているとさえ言える。

 

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SupremeのLAの新店舗前にも大勢の若者が詰めかけた。が、その狙いはクールなプロダクトではなかった。単なるスニーカーの転売屋集団である。

それが、公正に言って、Nike Dunkとのコラボレーションを実現できるような大ブランドの現状なのだ。遥か昔から今に至るまでSupremeのコレクションを身に付け誇りにし続けている層もいる。しかし、若者の多くが、Supremeを、ストリートウェアの見識に優れた年配(長老とまでは言わずとも)政治家のように捉えていることもまた事実だ。

@loso_shoeplug Supreme grand opening ? who would have went ? #supreme #foryoupage #foryou #fyp #sneakercon #melrose #sunset #sneaker #dunks #bait #icon #shoeplug #lashoeplug #shoes ♬ TEENXDESTROYLONELYOPIUMRICKOWENS prod. Iatvanum – BRAVO_ONE_TWO


16歳くらいのスニーカー大会参加者らが、そろそろSupremeは復活のタイミングだ、と思うようなのであれば、それはSupremeが今より遥かに前から実質消滅していたに等しいことを意味するのかも知れない。

ではSupremeの王座を奪ったのは誰なのか?

王座を奪ったのは、どこか単一のブランドということではなく、ソーシャルメディアによって力を獲得し、クリエイティブを再構築したいくつものレーベルの集合体と言えるだろう。

 

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Supremeの奇抜なアクセサリーを斬新だと思う感覚は、今やMSCHFの独創的なコンセプトのプロジェクトに向けられるようになった。Supremeの独壇場であったコラボレーションの領域でも、2022年、PalaceSkateboards(パレススケートボーズ)が常識を打ち破るコラボレーションを多く生み出し、状況が完全に覆されている。

Stüssy(ステューシー)も一時期、ともすればこれまたショッピングモールの小売店で売られるような不名誉に身を染める危機に見舞われていたが、精鋭クリエイティブチームが付いたことで、今やTikTokやファッション系界隈の切望の的となり、ストリートウェアキングの座を欲しいままにしている。そしてその精鋭クリエイティブチームの一員であったのが、現在のSupremeのクリエイティブディレクター、トレマイン・エモリー(Tremaine Emory)である。また、孤高のSupremeとは対極的に、親しみやすさを感じさせるKith(キス)も、膨大なプロダクトを、世界に販売し続けている。

 

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そしてイギリスでは、CorteizやClintsといったローカルレーベルによって、Supremeの全盛期以来見られなかったような興奮が掻き立てられている。

かつてニッチだったものが主流になったとしても、アンダーグラウンドはアンダーグラウンドを支持し続ける。

 

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つまり、Supremeは本当に死にきっているわけではない。今でもたくさんの服を売り、多くのファンを持つビッグネームであることに変わりはない。

いつの日かSupremeが再び史上最高にかっこいいアパレル企業になる日がきっと来るだろう(LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)とのコラボ第2弾も待ち遠しい)。しかし今のところは、その王座を奪い取った他ブランドの後塵を拝する形となっている。

永遠にトップであり続けることは誰にもできないのだ。