Fear of God Exclusively for Ermenegildo Zegna
両極端の独創性の融合が見据えるメンズファッションの未来
イタリアならではの精緻な仕立てで知られる「Ermenegildo Zegna(エルメネジルド・ゼニア)」と、リラックスしたカリフォルニアンラグジュアリーで知られる 「Fear of God(フィアオブゴッド)」。そんな全く趣の異なる2つのブランドがこのたび、互いの独創性を融合させ、「Fear of God Exclusively for Ermenegildo Zegna」と題した全く新しいハイブリッドとして見事なコラボレーションを実現した。
新コレクションはマレ地区にあるロテル・ドゥ・クーランジュで開かれたパリファッションウィークでデビューを飾った。月曜の午後、マネキンに着せ込んだディスプレイと、会場全体に投影されたキャンペーンフォトをじっくりと眺めながら、Ermenegildo Zegnaのアーティスティックディレクターであるアレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)と、Fear of Godの創立者であるジェリー・ロレンゾ(Jerry Lorenzo)が、招待客に挨拶をした。フーディーやTシャツとテイラーブレザーやオーバーサイズのカーコートとの組み合わせ。スウェットパンツのドローストリングのように下がるクロスした細長い編みベルト。ボディにふんわりとドレープを描きながらも、シャープでマスキュリンなスタイルをスマートに演出する、思わず着たくなるようなコレクション。ファッショナブルには見せたいが、考えに考えた服装には見せたくないというならこれほどぴったりのルックはない。今回のコラボレーションについてサルトリとロレンゾにインタビューした。
最高のコラボレーションは両極端の存在同士から生まれることが多かったりしますね。Ermenegildo ZegnaとFear of Godでは世界観が完全に異なりますが、2つのブランドの主な違いと、類似点はどこでしょうか?
アレッサンドロ・サルトリ:出会う前から、ジェリーの作品はずっと良いと思っていたんだ。友人経由で知り合うなり、個人的な興味からでも具体的なオリエンテーションからでもなく、いきなりコラボレーションの話が始まった。不思議な感じがしたね。お互いとにかくメンズウェアの可能性や新しいアイデアを探ってみたいと思う気持ちがコラボレーションにつながったんだ。
ジェリー・ロレンゾ:両ブランドの見た目の違いは遠目にも明らかだと思う。でも魂は同じなんだ。話してみてそれがすぐに分かったし、お互い、両ブランドの一番良いところを融合させることで初めてできるような新しい言語を作り出したいという思いが一緒だった。自分としては Fear of God のオーディエンスについてきてもらいながら、もっと成熟したファッションに到達してもらえるようにしたいと思っていたし、アリーはアリーでErmenegildo Zegnaのお客さんにもう少し自由になってもらいたいと考えていた。そんな2人で手を組むことで、新しいソリューションを思いついた。どちらのブランドにも、個別には必ずしも良いとは言えなくとも、お客さんにとって新しいストーリーを語るようなコレクションを考えようと。お互いカスタマーニーズについて考え続けてきた中で今のファッションに足りないなと思ってきた領域に、今回2人で手を組んで取り組んでみようということになったんだ。
今回のコラボレーションではコアブランドの領域外にいる新しいオーディエンスにもリーチすることができますね。新しいカスタマー像としてどのような人を想像していますか?
JL:両ブランドの現在の顧客の融合。それから、Ermenegildo Zegnaや Fear of Godの洋服は現在買っていないけれどテイラーメイドのものに手を出してみたいとか、もう少し洗練された装いをしてみたいと思いつつも、エレガントと自由を両立できるようなファッションに出会えていない、というような感じの人にもアプローチできるかなと思う。エレガントな装いをしようとすると多少硬くなったりもするけれど、今回のコラボレーションでは、生地使いやフィット、シルエット、プロポーションを工夫することでその硬さを和らげようと考えた。だから新しいお客さんにもアプローチできるはず。
AS:ファッションの世界で言うテイラーメイドの決まりは大昔に作られたもの。ダブルブレストの上着にしてもコートにしてもレインコートにしても、それぞれの決まりは常識として誰でも知っているけれど、そういう定番は父親や祖父の世代の写真で見たような大昔の記憶に引っ張られたままだ。
コラボレーションはどのように進められたのでしょうか?
AS:とてもオーガニックで、新鮮な感じだった。ジェリーの良いところは、特定のシーズンに捉われることなく最高のコレクションを作るという気持ちで取り組むところ。最高のアイデア、クリエイティビティを出せるように努力している。マーケティングブリーフや商品展開点数、そういった数字的なところから出発したコラボレーションではないから、初日から会話を重ねた。とにかく最高のクリエイティビティが出せるように大量のエネルギーを投入していったんだ。
JL:まさにその通り。マーケティングブリーフもビジネスブリーフも何もないからね。とにかくメンズウェア、2020 の新フォーミュラは何かということを2人で話し合って考えていった。かなり行ったり来たりだったよ。意見の異なるところもあったけれど、そういうときこそが一番実りのあった時間だったと思う。この不一致はどうしたら解決できるかとか、ここでぶつかるのはなんでなんだろうとか、考え直す機会になったから。僕はスケッチをたくさんしてデザインを考える昔ながらのデザイナーじゃない。ストーリーから考える派だ。アリーはそのストーリーの先を見越して、2人がどうしたら共存できるかということを理解する力を持っている。最初は「Fear of God は若者的な視点、Ermenegildo Zegnaにはリソースと技術がある」みたいな考えだったと思う。でも実際にはお互い、視点が似てるんだ。しかも物事へのアプローチも似ている。だから想像以上のものを生み出すことができた。
アレッサンドロ、あなたは Fear of God を「レイドバックラグジュアリー(リラックスムードのラグジュアリー)」と表現していますが、それはどのような意味ですか?
AS:僕はジェリーのデザインにずっと魅了されてきた。さっきも言ったように、出会う前から、ジェリーのアメリカンラグジュアリー、彼らしい姿勢、視点と洗練されたシルエットや素材、カラーパレットとを組み合わせたアメリカンラグジュアリー的スポーツウェアが好きだった。スポーツウェアでメランジェファブリックを使ったり、キャンドルやオフホワイトみたいなきれいな色を使うのも珍しかったり、とても魅力的だと思っていた。
ジェリー、Zegnaと言えば歴史あるラグジュアリーブランドですが、ストリートウェアによるラグジュアリーとはどのように発生してきたのでしょう? Fear of God がゼニアの伝統に対してもたらした新しいものとは何でしょうか?
JL:ゼニアの伝統は極力重んじながら、そこにもう少し自由さが出せればと考えた気がする。普通テイラーメイドと言えば緊張感があるイメージがあるが、フィット感の自由さや着心地の自由さを出そうと思った。あまりにもフィット感の強いスーツだとスーツの方に着られてしまったりする。だから Fear of God の客層には普段よりドレスアップしてもらえるような、一方ゼニアの客層にはそれほど肩肘張らずに、かつきれいさ、エレガントさ、エフォートレス感を大切にしてドレスアップしてもらえるようにした。そういう感覚が、着る人だけではなくて、その周りにいる人にも伝われば、ということを考えて。
ラグジュアリーメンズウェアの将来についてどう思いますか?
JL:今まさに我々が見ているのがラグジュアリーメンズウェアの将来像だと思う。(Fear of Godは)アメリカンラグジュアリー、自由だということをずっと言ってきた。選択の自由、好きなように着飾る自由。スーツにブラックタイではなくて、バックジップのモックネックシャツを合わせてもいいという自由。そういう自由やコンフォート、自立性をラグジュアリーの世界にもたらすことが僕達の目指すところだと思う。
AS:ラグジュアリーは、使われる材料のコストが高いからラグジュアリーなのではない。長い年月をかけて腕を磨いた職人が長い時間をかけて実現するクオリティがあるからこそラグジュアリーだといえる。それからスタイリングの観点でのラグジュアリーというのは、洋服をより自由に取り合わせて、自分を表現するシルエットを作り出すことだと思う。最善の自分を投影する、それが自分の新たなイメージを固めるということ。そういうイメージに触れることがラグジュアリーの世界への入り口だと思う。