千駄ヶ谷のビルの一角にある4BFCにはイングランドを主にしたユニフォームやアパレル、グッズ、雑誌、フットボールファン向けの英語教材などが所狭しと並んでいる。ここには、世界中からSNSを見て訪ねてきた人や、フォトグラファーやラッパーなど、文化的な造詣が深い人達が幅広く訪れる。きれいに整頓されながらも底しれない情報の渦巻きに圧倒させられそうになるのは、フットボールを経由した様々なカルチャーが店じゅうにうごめいているからだろう。4BFCのコ・ファウンダーであり、UKのヴィインテージ・フットボール・グッズを取り揃えるBENE FCのモリタトシキさんにフットボールカルチャーの魅力を聞いた。

——BENE設立の初期衝動をお聞かせいただけますか?

小さい頃、イギリスによく行く祖母がお土産にフットボールのアイテムを買ってきてくれたのが、そもそもの始まりでした。6、7歳頃からなんとなく物を集め始め、それが趣味として大人になっても続き、ユニフォームを集め続けていたのです。

コロナ禍でみんなが家から出られなくなってしまったタイミングで、自分が持っていたコレクションをオンラインで紹介し始めました。世の中にポジティブなことをしたいという思いが、その行動を後押ししたんだと思います。

——買い付けをするようになったのはいつ頃ですか?

2011〜12年頃だったと思います。ただ、当時は買い付けというよりは趣味の一環でした。バックパッキングをしていて、旅先で買い集めていたので、お店をやろうとは考えてもみませんでした。祖母が買ってくれたかっこいいユニフォームが日本ではなかなか手に入らず、旅先で出会うと懐かしさが先行して、次々に買っていたという記憶があります。

——現在の活動は、どのようなコンセプトに基づいていると言えますか?

僕が考えていたのは、その人自身も気づいていない、潜在的に持っているフットボールへの愛情をどう呼び起こせるか、ということでした。その人がまだ見たことのない見せ方、本当はずっと存在していたけれど認知していなかった要素をどう伝えていくか。それは、僕が7歳くらいからフットボールを見てきて、面白いと思っていた感覚と結びついているのかもしれません。普通に生きていたら出合わないかもしれないけれど、実はたくさんある魅力的なものを、こうして取りまとめることで気づいてもらえるようになる、そんな可能性を感じています。

——イギリスは、フットボールカルチャーが市民の生活により根付いていますよね。音楽やファッションといったほかの文化との繋がりも密接です。音楽やファッションとの関連を伺えるエピソードを教えて下さい。

音楽の部分で言いますと、一番分かりやすいのはOasis(オアシス)だと思いますね。彼らはマンチェスターの出身で、マンチェスター・シティFCというクラブを幼少期から応援していたそうです。94年から96年頃に出たマンチェスター・シティFCのユニフォームは、シャツ自体のデザインもクオリティが高いのですが、それをOasisのメンバー本人が着用して音楽雑誌の表紙を飾ったりしていました。

同時期にロンドンにはBlur(ブラー)というバンドがいて、彼らはチェルシーFCのファンでした。彼らも同じようにチェルシーのシャツを着てメディアに出たりしていたんです。マンチェスター・シティFCとチェルシーFCは、街が離れているので直接的なライバル関係は目立たなかったものの、この2つのバンドが音楽チャートで争っていました。そうすると、ファンの中でも音楽をきっかけにフットボールの方でもライバル意識が芽生え、そういう視点で試合を見るようになったりするのは面白い部分かなと思います。

——バンドTシャツならぬ、サッカーユニフォームでアイデンティティをアピールしていた?

ええ。Oasisが96年にマンチェスター・シティの旧ホームスタジアムである「メインロード」でライブをやった時に、ロッカールームに入って、UMBRO(アンブロ)のロゴの入ったジャージーを着たらしいんです。リアム・ギャラガー(Liam Gallagher)がそれを着て歌っている姿が「GUCCI(グッチ)を着ているよりもかっこよく見える」と話題になったとか。それを言ったのがKASABIAN(カサビアン)というバンドのギタリスト、セルジオ・ピッツォーノ(Sergio Pizzorno)で、ライブを見てすぐUMBROを買いに行ったそうです。

そして10年か12年後、当時14〜5歳だったセルジオが大人になって、今度はUMBRO製のイングランド代表のユニフォームを着てライブを行った。それでKASABIANが着ていたUMBROがまた「すごくかっこいいものだ」と認識された。そうやって文化が継承されて来ている。

——今でもそういった流れはあるんですか?

ありますね。Oasis好きな人はUMBROが好きですし、「リアムが着ていたシャツはありますか」といった問い合わせもあります。BlurやKASABIAN、New Order(ニューオーダー)などもそうです。The Stone Roses(ザ・ストーン・ローゼズ)というバンドは、マンチェスター・ユナイテッドを応援していて、デイヴィッド・ベッカム(David Beckham)が一番好きなバンドとしてThe Stone Rosesを挙げていたり。そこでも選手と音楽の関係がありますし、フットボールをきっかけにそのバンドを聴いたり、その逆もあります。

鈴木悠斗 / 4BFC STAFF
プロチームのジュニアユースで高校までフットボールをやっていました。4BFCは様々な角度からフットボールを楽しんでいる人が集う場所。音楽とフットボールの関係性や文脈を楽しみながら、この高いセレクトの古着を世界中からきたお客さん達といい距離感で楽しめる、こんな店はほかにないです。

——ファッションとフットボールの繋がりで特徴的なエピソードといえば?

フットボールファンから「カジュアルズ」と呼ばれるスタイルが生まれました。70年代初頭、リヴァプールFCなどのファンが、ヨーロッパ遠征で現地の流行ファッションを持ち帰ったものが起源のひとつと言われています。ヨーロッパ全土まで勝ち進むことができた強豪チームのファンしか手に入れられない服、というステータス感もあり、若者の最先端スタイルをスタジアムで身につけるムーブメントになりました。当初はフーリガン(攻撃的なサポーター)対策として、チームを特定されない服装という意味合いもあり、後にSTONE ISLAND(ストーンアイランド)やadidas(アディダス)のスニーカーなどが象徴的なアイテムとなっていきましたね。

もうひとつ象徴的なのは、イーストロンドンのウェストハム・ユナイテッドFCです。60年代後半から70年代、スキンヘッズカルチャーと結びつき、ファンがBen Sherman(ベン・シャーマン)のようなチェックシャツにDr. Martens(ドクターマーチン)といったスタイルで応援していた。それをきっかけに、Dr. Martensがスポンサーになったこともあります。

——ユニフォームは、そうした地域性や時代性を映し出す鏡のような存在なのですね。

スポンサーロゴの変遷も興味深いですよ。日本企業が経済的に強かった時代は、イタリアのチームに日本の自動車メーカーのロゴが多く見られました。お菓子系の企業が目立った時期もあったり、最近ではオンライン賭博系の企業が多かったですが、社会的な影響から規制される動きもあります。

また、フランス代表の98年のユニフォームを映画『TAXi』で主人公が着用したことで、フットボールファン以外の人にも知られるようになり、今もたまに問い合わせがあります。デザイン自体の良さやフランスW杯優勝という歴史的背景に加え、映画という別のカルチャーと結びつくのもいいですよね。

——まさにユニフォーム一枚一枚に物語が刻まれているんですね。モリタさんご自身にとって「かっこいい」ユニフォームの条件とは?

僕が個人的にこだわっているのは、まず「メイド・イン・イングランド」あるいは「メイド・イン・UK」であること。そして生地の質感や縫製のクオリティ、特に刺繍のディテールです。90年代半ばから後半のものは、生地が分厚く重かったり、フットボールには不要そうな複雑な切り替えが入っていたりするんですが、そういうある種の「過剰さ」に愛おしさを感じますね。デザイナーで言えば、ドレイク・ラムバーグ(Drake Ramberg)氏のように、NIKE(ナイキ)で様々なクラブのユニフォームを手がけ、国をまたいで評価されるような仕事もあります。

コ・ファウンダーの大神崇さんが手掛けるSHUKYU Magazineは今年10周年。フットボールを深く追求しながら、ストリートカルチャーとの結びつきを感じさせる、生活に溶け込んだクールなフットボール文化を網羅している

左 モリタトシキ/BENE・4BFC コ・ファウンダー
BENEとはイタリア語で「良い」という意味。世の中が良くなるように、というニュアンスで採用しました。ただ物を売るだけじゃなくて、ユニフォームの背景にどういう選手がいて、音楽やストーリーがあったのか。イギリスのサッカー文化ってすごく面白いので、それをアイテムに乗せて伝えています。

右 大神崇/SHUKYU Magazine・4BFC コ・ファウンダー
SHUKYU Magazineは、試合の勝ち負けではなく、フットボールから派生した文化や楽しみを伝えています。子供の頃プレイしていたのに、いつの間にか離れてしまうことってすごく多いですよね。しかし、フットボールが日常生活に寄り添えば、人生をもっと豊かにすることができると思うんです。

1996年4月28日、Oasisはマンチェスター・シティの旧ホームスタジアム「メインロード」でライブを実施した。その際、リアム・ギャラガーがUMBRO製のドリルトップ(トレーニングジャケット)を着用してステージに登場した
2010年2月8日、パリで行われたUMBROの新イングランド代表アウェイキットの発表イベントにおいて、KASABIANがステージでライブパフォーマンスを実施したライブ中、メンバーはUMBRO製のイングランド代表アウェイユニフォームを着用した