style
Where the runway meets the street

デザイナーの高橋悠介が2020年にスタートしたブランドCFCL。「Clothing For Contemporary Life(現代生活のための衣服)」を意味し、既存のファッションシステムに捉われず、素材の選択からコンピュータープログラミングを用いる手法、コレクションの発表形式まで、文字通りモダンな服作りを体現している。クリーンでミニマルなデザインながらも、あくまでニットにこだわり、すでに国内だけでなく「SSESNE」や「Selfridges」など国外で取り扱われるなど注目を浴びている。最新コレクション「VOL.2」でも前回と同様にムービーを発表し、サウンドは引き続きヴォイスプレイヤーの細井美裕が担当した。2度目のコラボレーションを果たした高橋悠介と細井美裕、双方のクリエイションを探る。

まずはお二人の出会い、コラボレーションのきっかけについてお聞かせください。

高橋悠介(以下T):僕が前職時代に友人から「面白い子がいる」と紹介されたのが細井美裕ちゃんでした。ただし当時は「何か一緒にやろう」みたいな、ふわっとした話だけでしたね。

細井美裕(以下H):高橋さんには出会った当初から、音楽というよりもがお好きなんだなという印象を受けました。取り憑かれているという表現の方が近いかもしれません(笑)。私の音楽に対する姿勢と同じものを感じて、適当なことは言えないなと思いました。その他のことに対しても、真摯に向き合わなければとも感じさせられました。

T:その後CFCLのローンチムービーを作ることになったタイミングでオファーをしました。彼女の作品を通してやりたいことはある程度理解していたので、ブランドの世界観ともリンクしそうな気がしていたのも理由です。今の状況下ではショーの開催が困難ですが、ムービーを通して存在感を発信するチャンスでもあります。ただし映像作品において音楽は非常に大切なので、前回に続き今回もお願いをしました。

 

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動画作りではどのようにイメージを共有していったのでしょうか?

H:音に関して言えば多重録音なので、簡単にデモが出せないんです。楽器だと打ち込みで作れるのですが、人間の声は良くも悪くもコンピューターに代替えできません。なので高橋さんには基本的に想像を強いていた状態でした。例えば私の声に近いシンセサイザーの音で作って、全体感を伝えます。だけど「この音が声に置き換わります」みたいな(笑)。一番重要なところを想像に任せるわけですが、コレクションのコンセプトやデザインは事前に拝見していたので、そういう要素からイメージを拾っていきました。

T:リクエストというか、細かいやり取りは何度かあったと思います。すでに1回目のコラボレーションがあったので、今回は最終的にお任せしてやりました。最終的にどんな動画になるか分からないまま素材の撮影をしたので、編集で繋げた状態の映像で大体のイメージを伝えました。

H:ちゃんと会話をした上でのことだったので、お互いを信頼しきってやりました。そもそも私を起用してくれる時点で、音楽という聴きやすいものではなくて、音や現象といったことまで聞いてることが分かっていました。高橋さんはリクエストをしていたのかもしれませんが、細かい部分を含めても全て納得できることばかりでした。

VOL.1に引き続き今回の音源もDolby Atmosという、映画館などで世界的に使われているサラウンドフォーマットでミックスをしています。一般の視聴用にはバイノーラル版、ステレオ版それぞれの配信も予定しています。インディペンデントの作家でここまでこだわっている人はなかなかいないと思うので、かなりチャレンジしています。

ご自身の声を使用する多重録音など、細井さん独自の表現スタイルにはどのように行き着いたのか教えてください。

H:高校の部活で合唱を始めたのですが、一般的に多くの人が想像する学校教育でやるような合唱ではなく、よりパフォーマンス寄りのものでした。国際大会に参加した際、アジア圏だけ全員が同じ立ち姿と制服で、テクニカルに上手いことを目指していたことに衝撃を受けました。結果としては日本が金メダルを受賞したのですが、他国の方が個性があってカッコいいと思えたんです。日本では演出も含めていわゆる型に囚われた合唱が多いのですが、それ以降もその体験が頭の中に残っていました。

そういった中で見せ方や曲も含めて挑戦を求めて模索した結果、同じモチベーションを持った人を探すよりも、一人で好きにやった方が早くて説明も必要ないため、自分の声を多重録音する表現方法に辿り着きました。色々な音がある時の方が良い場合もありますが、自分一人の声の方が音に溶けやすいという利点もあります。

ご自身のタイトルであるヴォイスプレイヤーの定義をお聞かせください。

H:ヴォーカルやソプラノアルトと呼ばない理由として、歌詞がなくて声を楽器として使ったパフォーマンスをしたかったので、あえてヴォイスという言い方をしていています。ただし作曲家ではなく、あくまでも作品を客観的に見ていたいのでプレイヤーの方が適切だと思っています。

最近ではストリーミングのプラットフォームにも、楽曲をアップロードされていますよね?

H:そうですね、これまでのインスタレーションの音源なども配信しています。ですが「Lenna」という曲だけ22.2ch(スピーカーが24個あるフォーマット)で、特性が違っているんです。それを色々なメディアに憑依させていくコンセプトのもと作っています。例えばNTTインターコミュニケーション・センターにある反響しない部屋、東京芸術劇場のコンサートホール、同じコンテクストの中で配信サイトでもリリースしたらどうなるかと、プラットフォームを会場の一つとして利用している感覚です。

2回目のコラボレーションを終えて、何か変化した部分があればお聞かせください。

H:前回お話をいただいたときは、今後どうやって広がっていくのか個人的にあまり手探りの状態でした。。初コレクションのために音は作ったけど、ここからCFCLに対して何ができるのか、良い意味で始まったばかりでしたね。今回は洋服によって違うイメージを抱けることが分かって面白かったですし、自分の中にもまだまだ眠ってる感覚があるんだなと思いました。特に今回の洋服は芯があってどっしりした印象を受けました。今までは声だけというこだわりがあったのですが、重厚感を出すためにシンセサイザーを使う初の試みだったので、私自身にとってもありがたい経験でした。

 

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VOL.2のコレクションには、そういった重厚感のあるイメージを込めていたのでしょうか?

T:まず秋冬のニットというと、ウールのざっくりしたセーターとか、ハンドクラフト感のあるほっこりしたものが多いイメージだと思います。他と差別化するため、ニットの対極的な「構築的」や「堅牢」といった言葉をコレクションにぶつけて、ニットの新しい表現を目指しました。服のシルエットやデザインだけでなく、ビジュアル映像としても作りたいなと思ったんです。頭にすぐ描いたのが1980年代の「Koyaanisqatsi」という音だけの映画作品でした。フィリップ・グラスがオルガンで弾く曲が流れる都会のシーンが情景として思い浮かび、その雰囲気を彼女に伝えてムービーの音は再解釈してもらいました。

H:その作品は私も知っていましたし、先ほども言ったようにコレクションも事前に見ていたのですごく納得ができました。単なるレファレンスでなく自然と腑に落ちました。

T:僕はクラシック音楽の経験があって、コンサートも毎月行っていたくらい好きなんです。クラシックの延長線上にあるような、トーマス・アデスやジョン・ケージは昔から聴いています。

H:その辺りのアーティストは私も好きなんです。だからお互い共通言語はあったので、コミュニケーションは円滑にできました。

細井さんも普段からCFCLの洋服を着ることはあるのでしょうか?

H:結構着倒していて、色違いで持っているアイテムもあります。プロジェクトをやっているからと思われたくないのですが、制作中は特にCFCLの洋服が一番楽です。着心地が良くて、何より生地が擦れる音がしないのがすごく重要なんです。毎回表彰式など人前でも着ているのですが、移動時に小さいカバンに入れて運べるので、衣装としてもすごく重宝しています。

TCFCLは着心地が良くて美しいかつ、イージーケアも大切な要素に掲げています。洗濯機で洗えてトランクに入れて持ち運べる文脈は現代において大事です。これまでのキャリアでも、イージーケアについてはすごく向き合ってきました。そういったことをやっているファッションブランドはあまりないと思います。そういった部分も加味しながら、ニットドレスのまだ見ない可能性を追求していきたいです。

 

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今後の可能性というところで、CFCLはサステナブルな取り組みも注目されています。一方で欧米ではスタンダードとも言えます。単なるサステナブルブランドでなく、ニットに特化した理由を教えてください。

T:まず第一に、ニットで作るドレスがあまり世の中になかったからです。時代がカジュアルに変容していく中で、Tシャツでの出勤も珍しくなくなってきました。ニットドレスも今後は需要が増える気がしていています。それを見越して可能性がまだまだある、コンピュータープログラミングニットにフォーカスしたデザインでブランドを模索しています。

ニットはシワになりにくく、作る工程で糸から直接服に仕上げるので無駄が出ません。糸の選択によっては、100%再生繊維の洋服を作ることも可能です。ただしCFCLの洋服は必ずしも全てが再生繊維100%ではありません。そこを優先させると100%と思った物作りをしても、カジュアルすぎてオケージョンにフィットしなかったり、着たときにチクチクしたりと色々な問題が出てしまう可能性があります。メーカーに再生繊維の有無は聞きますが、あまりに再生繊維が浸透していないのが現状です。多くのブランドが積極的に再生素材を使用することで、需要を増やし、現状を底上げすることができると考えています。スタイル的にはシンプルでベーシックなものが好きなので、プラスしていくデザインよりも、削ぎ落としたミニマルなデザインを根底においています。

H:私も今の話に共感する部分があります。テクノロジーを使った作品を作ることが多いのですが、CFCLで言うサステナブルな見られ方が、私の場合だと立体音楽や最新技術と言われることが多いです。ですがそれは全く本質ではなくて、要素としてサステナブルや立体音響があるわけで、そこにはコンセプトがあります。最先端技術そのものを表現としてしまうと、新しい技術が更新されるたびに古くなってしまいます。コンセプトがないと作品としては残りません。表現と技術、芸術と技術の違いを理解して、どちらか一方が良いわけではなく、両立してこそ成立していきます。自分に課せられた外界からのラベリングと、表現したいことの間に生じるギャップがファッションでも音楽でも似ているなと思いました。

サステナブルを意識すると素材の制限からか、似通ったデザインが多いように思えます。CFCLではどのようにコレクションブランドとしてのデザイン性も発揮しているのでしょうか?

T:これまで10年間のキャリアにおいて、最前線で鍛錬をしたのは大きいです。クリエーションを深く感じられないのは、そこに既視感があるからだと思います。ある種どこかで見たことあるものを模倣していて、ファッションの中でもそれは往々にしてあることです。

CFCLでは現代の洋服にフォーカスしています。例えばTシャツやジーンズは素材や作り方は変わっていますが、多くの人が思い浮かべるアウトラインは100年前のままです。そこで今に必要な洋服を考えたとき、自分のこだわりは自然と出てくるものです。現代では消費の欲望を掻き立てるためのコラボレーションや表面的なデザインが多すぎるように感じます。

デザインをするときに、そのアイテムが誕生したルーツを考えることは重要です。いつ着る洋服なのかまで向き合って考えると、見たことがあるデザインになりません。時代や生きる場所、届けたい人も違うわけですから。本当の意味でファッションをやっている人は、そういった文脈を汲み取り、ツイストしながらデザインをしています。CFCLの場合は逆にコンテクストをどうやって削ぎ落としたらモダンな服になるかだったり、現代人には必要ないディテールは削ったり挑戦しています。

例えば、Tシャツのデザインを考える時、通常はそのTシャツをどのようなデザインで仕上げるかと考えます。プリントや刺繍、変形のシェイプはTシャツというアイテムに対するプラスのデザインです。それに対し、Tシャツというアイテムの存在意義、つまり、オケージョンに対応するための洗練された質感やネックの高さ、吸汗性、着心地など、なぜTシャツを着るのかという本質からデザインをします。

すでにお二人で進行中のプロジェクト、今後の展望がありましたら教えてください。

TCFCLはコレクションブランドとしながらも、毎回違うインスピレーションはなるべく持たないようにしています。継続性を持って表現していくブランドなんです。良いものができたなら、新コレクションでガラッと変える必要はないと思います。今回も引き続き良い映像作品ができたので、面白いことが可能ならば変わらず一緒にコラボレーションしたいなと話しています。

またCFCLとしては今後も、独自のサイクルでコレクションの発表を行っていきます。現在のシステムでは、コレクションの数が余りにも多く疲弊していきます。CFCLでも一般的に春夏や秋冬と呼ばれるシーズンは存在はしていますが、VOL.1VOL.2と呼んでいるのもこの理由からです。VOL.1で反響のあったアイテムはVol.2でも色展開を変えて継続させ、コレクションが増える度により完成度を高めていくイメージです。しかし人のライフスタイルは変化していくので、それに対応した新しいスタイルは見直す必要があります。素材もどんどん新開発されるため、より着心地が良くて快適なものも提供していきたいです。そういった意味で半年に1回のコレクション発表のサイクルはあった方が良いと考えていますが、日本以外にもマーケットはあるので季節はあまり意識をしていません。

H:私もコラボレーションについては、同じように感じています。個人的な活動としては、段々とヴォイスプレイヤーからサウンドアーティストに近い作品になっている気がしています。声を一つのツールに使っているけど、最近は他の可能性も考えたり、もう少し外を見る余裕がでてきたりしています。

実は現在の活動は、全てある瞬間を再現するためと言える原体験があるんです。合唱をやっていた頃、色々なホールでパフォーマンスをしてきました。その時にパフォーマーは同じなのに、環境や会場によって全く違う音になることに気付きました。言い換えればホールも楽器である感覚がずっとあります。当時は声とホールだけの関係でしたが、今では自分と周囲、空間や音でない別の何かでも言えることです。今後も観ている主観的な状態と外の状態を理解できるような作品を通して、その関係性に気が付ける作品を生み出せたら良いなと思っています。

細井美裕 リリース情報
リリース日:8月8日(日)
タイトル:(((|||
m1. (((|||
m2. (((||| – JEMAPUR’s Reconstruction –