空前のコロナ危機、ファッションの行く末と役割
今、ファッション業界全体が緊急事態への対処を余儀なくされているようだ。供給網は崩壊し、客は買い物をしなくなっている。店側のECサイトでは、通常よりも早く商品をセール価格に設定している。また30億ドル相当にも及ぶ注文の遅れ、キャンセルが既に出ているようだ。6月のメンズコレクション、オートクチュールファッションウィークは中止または延期が発表された。「VERSACE(ヴェルサーチェ)」や「Michael Kors(マイケル・コース)」「COACH(コーチ)」など3ブランドの親会社との契約は、新型コロナウイルスによる信じられないほどの経済的打撃により全く機能しないものとなった。
しかし、ハイプカルチャーは健在なようだ。コロナウイルスによるソーシャルディスタンスを取っている真っ只中で信じ難いように見えるが、「Supreme(シュプリーム)」と「Palace Skateboards(パレス スケートボード)」は新アイテムをドロップし続けている。仮にそのアイテムらがパンデミックによる打撃を受ける以前に作られたものであったとしても、今これらのコラボはGal Gadot(ガル・ガドット)による著名人らの音痴な歌バトン(ジョン・レノンの名曲「イマジン」を著名人がバトンでつないで歌った動画配信)のように思える。
注目すべきは、消費者がラグジュアリーファッションの買い物をやめたという事実ではなく、彼らのその凄まじい機転の早さにある。実店舗に行けないからではない。まるで、クローゼットの中をよく見ると、すべて不必要なものと一晩で気づいて(買い物をして)しまうかのように。だが、20足目のスニーカーよりも「豆の缶詰」を優先させるような局面ではない。The New York Times(ニューヨーク・タイムズ)のファッション評論家Vanessa Friedman(バネッサ・フリードマン)は「このパンデミックの中、買い物は正しいのではないか」と述べた(現に、彼女はオンラインで買い物をしていたようだ)。
コロナウイルスの危機は、ファッション業界の人々に自己省察や、今後について考えさせる元となっており、それは希望から絶望まで様々だ。この自己を見つめる際に、沢山の犠牲者を出し、企業に経済的打撃を与える中で、コロナウイルスが今後、ハイプカルチャーをもなくしてしまうのではと自問するのもまんざらではない。早朝からSupremeの新アイテムを手に入れるため、または他の意味不明なコラボレーションに唾を吐くために並ぶ人々は、それら全てがどれだけ狂っているかを自覚するだろうか? 即答でNOだ。
2008年、サブプライム住宅ローン危機が様々な業界で経済危機を引き起こし、多くの人々が家や担保を失った。アメリカの人々は9.8兆ドルにも及ぶ富を失い、消費者は購買意欲をなくし、高級ブランドの売り上げは落ち込んだ。これは失業をして初めて「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」のスピーディーバッグを買えなくなった中流階級の女性に限ったことではない。お金持ちも同じことだ。しかし、それはお金がなかったのではなく(金持ちは常に金を持っている)、中流階級の人々がお金を失っている一方で、新しいファンシーなシャツを買うことが悪趣味だと考えたからだ。大富豪の妻ではない人々は新しいバーキンバッグのために並ぶことをやめた。それがしばらくの間のクローゼットの肥やしにしかならないと考えたからだ。当時も今も、予言者らはラグジュアリーショッピングの道楽は不快であると、その終焉を唱えた。
そんな情勢が丸2年も続いたが、その後何が起こったか。束縛を解かれた消費文化が、LVMHの株価をざっと10倍も上げ、Supremeを10億ドルの価値のある、ラグジュアリーの次の価値システムを象徴するブランドにする10年へと突入した。中国からの意欲的な新しい金持ちの消費者の増加に連れられて、欧米の金持ちが大勢戻ってきた。それによって、ハイプカルチャーが生まれ、Instagramの大衆化によって急成長した。
洋服を製造している工場やアパレルショップを閉鎖するに至る健康面での危機に苦しんでいない点で、今回とは違うと言う人もいる。失礼だが、そうとは思わない2つのシンプルな理由がある。人間は打たれ強い、そして危機意識はそう長くは続かない。もしそうでないなら、活火山付近やサンフランシスコに住み続けることはないだろう。
一つだけ主張したいのは、起こりうる災害に向けて再興し、また目を背けることも一つの人のあり方だということ。毎回人類が危機的状況から得るもの、基本的ニーズを満たすことが最優先すべき事項ではなく、心のニーズを満たす方が重要になってくる。それがハイプカルチャーなどのファッションの役割であり、人類の感情に語りかけ、大半の欲望や野心を満たしてくれるだろう。
ファッションエグゼクティブはこれを理解している。最近のファッションビジネスの調査で、そのうちの3分の2がウイルスによる長期的な影響は心配していないと述べた。またスニーカーの転売市場のStockXも同様だ。
なぜ人々は“話題”を消費するのかを考えた時に、120年も前に社会学者ソースティン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)が出した誇示的消費理論よりも分かりやすく説明したものを見たことがない。人々の消費は、人社会に自分のステータスを示すための手段であると仮説を立てている。ファッションエグゼクティブは次のシーズンに向けて製作するか迷うかもしれないが、ラグジュアリーアイテムは途絶えることがない。経済誌『エコノミスト』によると、良いシーズンでさえ、ほとんどのラグジュアリーブランドは通常価格で在庫の半分以上しか売ることができない。そしてシーズンで売れなかったものはアウトレットに売り降ろされる羽目になるか、燃やされるかのどちらかだ。
- Words by: Eugene Rabkin