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Where the runway meets the street

アメリカの大都市の中でも長く、決して平坦ではない歴史を刻んできたロサンゼルスの、新時代的な変質が謳われてから久しい。深く息づく巨大なセレブリティ文化や、林立する高層ビルで起こるビジネスマターではなく、その新時代の源流のひとつは、ダウンタウンロサンゼルス(DTLA)の東に位置する倉庫街、アーツディクトリクト(Arts District)にあった。10年と少し前のことだ。

かつては工業用のビルで時代の残痕となっていた一角に若き才能あるアーティストが集い、ロフトが出現し、壁面にはグラフィティが描かれ、みるみるうちに活き活きとしたアートシーンが急成長していった。そして、エリアに根付くストリートカルチャーと、数々のミュージアムやギャラリーが共生し、それらと共振するようにファッションの躍動が起こった。様々な人々が行き交い、新しいクリエイティビティや価値観をも迎え入れていった。もし都市は生き物のようだとするなら、現在に続く街の呼吸や鼓動は、自由闊達な人と人が共同体を作るようにして生み出されてきたのだ。

 

 

Jacket ¥209,000 / Knitwear 参考商品 / Trousers ¥152900 / Shoes ¥125,400

マイク・アミリ(Mike Amiri)による「AMIRI(アミリ)」の2021年秋冬コレクションは、DTLAの胎動の時代、彼の言葉で言う「アートの中心地となった根幹にあるコラボレーション、自由、革新性を物語る場所としてのアーツディストリクトと、このコミュニティの過去と現在」を、ストレートに讃えるコレクションだ。そして、カーラ・ストリッカー(Cara Stricker)と制作されたランウェイの映像で描かれたのは、まさに「DTLAの文化と歴史へのオマージュ」であった。彼は言う。「AMIRIというブランドを一から作り上げるクリエイター陣の、壮大な旅の意味合いがこもっている。そこには自分自身の気持ちもある」。

パンデミックは、現在はホームタウンで暮らすマイクが、パリ・ファッションウィークで行われるランウェイショーに現れることを物理的に遠ざけた。世界中のデザイナーの多くが、自室で過ごす内省的な時間の中で自身の過去や身の回りにある確かなものに目を向けてきたのと似て、この時節に呼応して、精神的なデトックスのようなものがあったのかもしれない。そこで、彼の心象に立ち現れるものは何だったのか。

Jacket 参考商品 / Shirt 参考商品 / Trousers 参考商品 / Shoes ¥125,400

 

 

Shirt ¥126,500 / Trousers ¥418,000 / “SKEL TOP LOW” Shoes ¥82,500

「ハリウッドの看板ほどLAを象徴するものではないけれど、LAに生まれ育ち、ダウンタウンに行ったことのある人なら、きっと誰もが歩き、渡ったことのある」4番街の橋で撮影される様子を追った、ドキュメンタリーフィルムで活写されたのは、家族の姿であり、両親の存在、そして青春時代をおくったサンセットブールバードや、2009年にマイクが最初のスタジオを置いたアーツディストリクト——自身の美的感覚を培った、DTLAでの全感覚的なあらゆるエクスペリエンスだった。それはこの橋を往来する人々でさえも、抜きがたいエッセンスのひとつとしている。

 

Cardigan ¥275,000 / Shot Gun T-Shirt ¥49,500 / Trousers ¥418,000 / Bandana Boots Shoes ¥195,800

 

 

Knitwear ¥181,500 / Harness 参考商品 / Trousers ¥181,500

DTLA初期の時代のムードに誘われながら、真夜中の撮影終了までの現場を追った映像でマイクは、「パリのランウェイは大好きだ。ただし、本社が近くにあるここには、完全な “言語” を共有できる仲間やコミュニティがある」のだと語っていた。「今シーズンの舞台裏や個人的な視点を見せられたらいいなと思った。制作過程をまざまざと見せ、野心的な若手デザイナーに刺激を与えることができたらと」。インディペンデントに新進デザイナーを支援するプロジェクトであるAMIRI Prizeの第一回受賞者を発表したばかりのマイクから、いくつかの返答が返ってきた。

劇中、橋の路肩で、いつもそこに座っているかのようなリラックスした様子のモデルたちが、信頼を寄せる兄に話しかけるような声も収録されている。「全てのミュージシャンが手にしたいものだよ」「天才的だ」。彼らの声の先にいたのは、「THE ROOTS」という文字を背負ったマイクの姿だ。おそらく間違いのないことは、DTLAのユースにとって、彼らの街の歴史の証人で、もっともクリエイティブな代弁者のひとりであるマイクとはそういう存在なのだ。この、ストリートに座り込む若者たちと対話するシーンは、実々しくブランドの中核を描いている。

 

Jacket ¥533,500 / Trousers ¥154,000 / Shoes ¥125,400

自身の未来のビジョンを端的に尋ねると、「最初の頃と同じエネルギーと気持ちは維持したい。でも同時に今のAMIRIは真のラグジュアリーブランドでもある。成長は続けながらも、魂と誠実さを保つことを大事にしたい。若いクリエーターを支援し続けて、ブランドのルーツに忠実であり続けたいんだ」と記されていた。数多のセレブリティ、ラッパー、ロックミュージシャンに愛されるマイクは、眼差しを向ける人々とのオーガニックな対話を積み重ねながら、時間の経過という “ラグジュアリー” だけが超越できることについて明快に語っている。

例えば、タイムレスで未来のクラシックとなるものを、AMIRIは志向し続けている。その固い意志は、ブランドを象徴する「MX1」の、サヴォアフェールに裏打ちされたジーンズ、ロックスピリットが宿った上質なレザーアイテム、スーツスタイルにダウンタウンの雰囲気を融合したイタリア製のテーラーリング、銃による穴やスクリーンプリントのグラフィック、精緻な装飾に至るまでの手仕上げによる斬新なアプローチとストリートウェアの整合などから感じられる。それはAMIRIが最上級の素材を使い、手作業での仕上げにこだわり抜き、地元・ロサンゼルスにある家族経営の工場と、イタリアを生産拠点に創り出す、ヴィンテージ風のディテール、最高の職人技というヘリテージを有する、モダンラグジュアリーブランドとしての無二の個性に裏付けられている。

 

 

 

Cardigan ¥165,000 / Trousers ¥168,300 / Shoes ¥91,300

ランウェイに、現代的で、個々多彩な男たちが群像を描きながら、しかし颯爽と、意思を持ってそれぞれの方向に歩いていくシーンがあった。肩の力が抜けたアリュールだが、AMIRIらしいドレスアップの流儀も貫かれている。ストリートとアートギャラリーがごく自然に共存するDTLAの多様性が、AMIRIの品格にいくぶんゆるやかなシルエットを描くブーツカットデニム、カジュアルライクな素材感のミックスによって軽やかに表現されている。

AMIRIは、現代のアートコミュニティへと続く15年前のDTLAに敬意を込めながら、その、自由で先駆的なムードを一身に体現する人々と都市——たとえば、世界中のダウンタウン——の存在が、メランコリックな時代を打破する次代のエネルギーそのものなのだと訴えているのではないだろうか。あくまで、比喩的だが、確かな、詩的な物語を通して。