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Where the runway meets the street

©︎Karim Sadli

想像すらできなかった、変節を繰り返す世界。その時代のうごめきに思慮深くも軽やかに対峙して、もっとも活力に満ちたコレクションのひとつを世に送り出したのが AMIRIを率いるマイク・アミリだ。LAのクリエイティビティを世界に向けて体現するデザイナーに、フィジカルな隔離と断続的な行動制限を乗り越えようとする不確実な日々の先で、人々がどのように前進していくのかを尋ねることができた。「人類は今、新たな自由を謳歌しながら、新たな視点で世界を見つめ、新たな思考を探求しているんだ」。明快な回答はただ、一元化できない時代精神を、誰よりも浩然と捉えていたのだ。

故郷・ロサンゼルスでのランウェイショー

LAのセントラル・ハリウッドに位置するMilk Studiosで敢行された2022年秋冬コレクションのランウェイショーは、この発言の真意に満ちている。パンデミックを経験した時代における本質的な美への希望を見出し、デジタル上での発表を強いられてきたタームからの完璧な逸脱を「仲間とともに迎えた、新しい幕を開ける感動の瞬間だった」と語る彼は、AMIRIの核心となる精神が宿る街での開催に、確信を持っていた。

「パンデミックを経て、友人、親戚、仕事仲間とそろそろ再会しても良いだろうという感覚があった頃でもあったんだ。パリはもはや第二の故郷にもなっているし、歴史あるファッションの都でコレクションを発表することはもちろん名誉なことだが、自分たちの生活、そして、あらゆるクリエイティブ活動の拠点であるLAでショーができたそのことが誇らしいんだ」

威勢が良く、グルーヴィーなアリュール。信念に従って、自由闊達に生きるアティチュード。 AMIRIのコレクションは、世界のどこでもなく、マイクが生まれ育ったLA、あるいは、永遠のインスピレーションに溢れたDTLAの気風と、アートディストリクトのクリエイティブな精神と共に呼吸している。彼は言う。「LAは普通、世界的ファッションブランドがエネルギーを受け取ろうとしてコレクションを発表しにくる。そういう意味でも、私たち自身がこの場所でのランウェイコレクションの発表は意義深かった。LAブランドにこれだけの世界的な波が起こせるのだと、LA式のクリエイティブを見るために世界中からたくさんの人に集まってもらうことが可能なんだと、地元で暮らす他のクリエーターに向けて示すこともできたからね」

“知友”と交わす、次代の創造力

そして、このコレクションが自由の質感に溢れ、スペシャルである最大の理由は、真のコラボレーションにある。そのパートナーは、マイクのアトリエとほど近い場所にスタジオを構え、スカルや骸骨をモチーフとした作品で絶大な人気を博す現代美術界の巨匠、ウェス・ラングだ。長きにわたるプライベートな交流を越え、マイクは彼を「ブランドにとっての真の友だ」と言いきる。

「私たちは、アートや人生についての考えや感じ方で共通するところが多く、お互いの作品を評価し合えることが、友情の鍵になっている。随分前からやり取りをする中で、ウェスの作品は 、アメリカ国内のいくつものAMIRI店舗を飾ってきた。もちろん、LAの影響はウェスの作品にしっかり刻み込まれている。LA生まれの自分から見てもそう思うね。そして、ウェスの図像使いや、アメリカーナ、伝統工芸の解釈の仕方には、自分と通じるものがある。とにかく絶えず変化する周囲の環境から刺激を受けて、いろいろなイメージを織り交ぜて鮮やかな世界観を創り出すということに尽きるからね」

「ウェスとの間にあったオーセンティックで創造的な対話によって生み出された」という別次元の表現は、当然のことながら、世に溢れるコラボレーションのように、アートワークを単にスクリーンプリントするような凡俗なものではありえない。「スタジオを互いに行き来して、作品やアイデアについて話し合う近所の友人関係が自然と仕事に発展していったんだ」

マイクは最大限の敬意を滲ませながら、ウェスの創造力をいかに AMIRIのコレクションに接続させたのかを語り続けた。「クリエイティブに携わる者同士、尊重し合いながら お互いの仕事を融合させて交流することを目指したんだ。ウェスの作品の特徴は、質感、遊び心、そして、AMIRIにも通じる手仕事にある。そこで、立体感と、色々なメディア(媒体)を織り交ぜることによってその性質をより際立たせ、動的かつアート的な感覚を立ち上がらせたいと考えた。躍動感に満ちた、人の知覚に訴えるものに。互いの世界観を融合させて完全に独自のものを創り上げるーー正真正銘のアートを一緒にできて、とても誇らしく思っているよ」

デザイナー自ら「まるで一点一点がアートのようだ」というルックの数々には、ウェスの作品に見られるダークだが豊潤なカラーパレットに加え、精緻な重ね塗り、衝動性さえも感じるアグレッシブなムード、複数の要素の共存が、深層のレベルで調和していることは明らかだった。「つまり、質感やレイヤーに対するウェスのアプローチを洋服のデザインに反映させたんだ。塗料を塗ったり、生地から糸をほつれさせるようにしたり、いろいろな素材をつなぎ合わせて新たなラインやシルエットを作り出したり。伝統工芸のようにすべて手仕事で作ることで1点1点に個性が生まれる。さまざまな要素とメディアを組み合わせることで、立体的なものに仕上げたんだ」

アメリカーナ、決定的なAMIRIのデザインコード

「中でもアート性が際立っているのは、ミクスドメディアの手法で作られたアウターウェアだろう」とマイクは言う。AMIRIを象徴する確立された高度なテーラリングテクニックに、 レジャーやワークウェアのエッセンスが調和することで、ハイエンドでありながらも新時代を生きる活力を湧き上がらせている。「センターシームを無くして一面をキャンバスとして自由に使えるようにすることで、アートのプロセスを入れ込んでいったんだ。本能のままにラインや素材を何層にも重ね、質感やディテールを作る。そうすることで、生地に新しい息吹が宿っていくんだ」

AMIRIのコレクションは、どんなイメージに溢れていようとも、最初期から、「生地でできることの限界に挑むこと」が欠かせなかったのだとマイクは語る。新世代のラグジュアリーを志向する服の素材感は、コンテンポラリーかつ独自のシルエットへの飽くなき探求と呼応するように、クラフツマンシップの深化によってシーズンごとに驚くべき進化を遂げているのだ。そして、マイクの決定的なルーツのひとつであり、現在のファッション界がその歴史だけでなく、気骨さと悠然さが共存した前向きなテイストにも注目し、モードの再解釈の足がかりとなっている“アメリカーナ”は、AMIRIあるいはウェス・ラングの作品を汲み取るのに欠かせないキーコードでもある。たとえば、視覚的に分かりやすいストーリーを描いた今回のコレクションで印象深いパッチワークや毛糸などの素材使い、あるいはタペストリー調のニット、弾けるようなペインティング、マクラメを思わせるディテールーーこれらは、アメリカの昔ながらのハンドクラフトデザインの影響ともいえるだろう。

「素材を分解し、再構築し、新しいストーリーや次元を作り出すこと。そうするなかで、ウェスがアートで探求しているアメリカーナの系譜も引き継ぐ形になった。一方で、直感という概念は、2022年秋冬コレクションの基盤になっている。それは、芸術的自発性と想像力というところに取り組みたいと思ったから。そして私たちは、時間をかけて作り込む、徐々にストーリーを進化させていくクリエイティブプロセスに大きな喜びを感じたのです」

深く友情を分かち合う“知友”のみが成せる、大いなる結託と非凡な美意識のエクスチェンジは、クリエイティブを前進させていくのだとマイクは賛同した。「これまでもずっと自分と仲間と、ブランドとして尊敬する相手とのコラボレーションを軸に仕事をしてきた。話し合ったり、アイデアを共有したりしてこそ、本当の意味でのクリエイティビティが生まれると思う。誰かと一緒に仕事をすると、もっと自分を高めて新たなアイデアを探求したいと思える。当然、それが未来の学びになっていくのだ」。きっとそれらは、人々の深層に眠っていた次代の“新たな自由”を呼び覚ます。

SHOP INFORMATION
オープン日:7月23日(土)
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