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シニアスタイルを再評価。まずはシューズから

以前にも述べたが、もう一度言おう。シニア世代の年齢でなくても、彼らのスタイルを取り入れていい。年配の人々は、私達が生まれる前からずっと、私達の誰よりもおしゃれをしてきている(文字通り!)。そして、ファッションに関心があるなら、彼らの飾らない自然な着こなしから学ぶべきだ。
とはいえ、祖父世代のサスペンダーや実用的なカーキパンツを真似るにはまだ自信がないなら、それでも構わない。まずはシューズだけでも取り入れてみよう。
かつて「シニア向けのシューズ」には文化的なガラスの天井があり、レトロなNew Balance(ニューバランス)のランニングシューズよりもぽってりしているだけで、「老人ホーム行き」とみなされていた。だが今、その天井はついに打ち破られた。ここで言っているのは、一時的な「ダッドシューズ」ブームの話ではない。若者達が本気で、正真正銘シニア向けのシューズを履く黄金時代がやってきたのだ。
多くの人にとって最大のネックになっていたのは(今でもそうかもしれない)、やはりその見た目だろう。こうしたシューズは、見た目の良さよりも、インソールのサポート機能を優先して作られている。しかし、実はその両立が可能であることを、シニア世代はとうに理解していた。そろそろ若者も、この事実に気づく頃合いだ。
まず明確にしておきたいのは、その違いだ。「ダッドシューズ」は一般的に、平均より厚めのランニングシューズを指す。一方「グランパシューズ」は、よりボリュームがあってもランニング用ではないことが多い。ゆったりと歩くためのウォーキングシューズであり、重視されているのは品質と受け継がれてきた伝統だ。手間を惜しまず丁寧に作られているため、流行りのスニーカーと同等、あるいはそれ以上の価格になることも少なくない。
つい最近まで、BIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)のサンダルは「どうしようもなくダサい」と見なされ、New Balanceのダッドシューズも、実際の父親達(それにスティーブ・ジョブズ:Steve Jobs)くらいしか履いていなかった。そんなシューズが今、ようやく脚光を浴びはじめている。
それでも正直なところ、世間はまだ「鏡の国」を通り抜けてすらいないのかもしれない。今だに多くのメディアが、「ダサいシューズがセンスの象徴として見直されている」という “まさか” の再評価に驚き続けている。しかし、よく考えてみてほしい。好みは変わり、見方も変わる。昨年のタブーが今年のトレンドになるのは、もはや驚くべきことではない。
フラットスニーカーが街に溢れ、普通のダッドシューズさえラグジュアリーになった今、祖父世代のウォーキングシューズが真にスタイリッシュな存在となっている。
今年初め、ファッションジャーナリストのローレン・シャーマン(Lauren Sherman)が、ロサンゼルスの若いトレンドセッター達に支持されているシューズブランドのひとつに、老舗フランスシューズブランドMEPHISTO(メフィスト)の名を挙げていた。これは、近年MEPHISTOの人気が再燃している動きを伝えた記事のひとつだった。
日本では、トレンドに左右されず本当に価値のある服が正当に評価されてきた。そうした文化の中で、MEPHISTOやParaboot(パラブーツ)といったフランスの老舗シューズブランドが長く愛されているのも自然なことだ。これらのブランドは、フォルムと職人技を見事に融合させ、快適さを重視した美学を体現している(なお、LYSTの検索データによると、Parabootは2025年第一四半期の注目シューズのひとつに挙げられている)。センスの良さとは、このようなものの選び方に表れるのだろう(さらに日本は、BIRKENSTOCKの良さにも誰よりも早く気づいていた)。
フランスの先駆的ブランドFUTUR(フューチャー)による日本限定のMEPHISTOコラボは、同社が最近手がけた、カリフォルニア発のユースカルチャーブランドMadhappy(マッドハッピー)やカナダのスポーツウェアレーベルBody of Work(ボディ オブ ワーク)、さらにクラフトとスケートカルチャーを融合させたニューヨークの18 East(18イースト)といったカジュアル寄りのブランドとのパートナーシップよりもはるか以前に行われていた。なおBody of Workと18 Eastは共に、MEPHISTOの代表作「レインボー」を現代風にアップデートしている。もっとも、こうした注目の高まりがMEPHISTOのスタンスを大きく変えたわけではない。
「『レインボー』をベースに何かやりたいと伝えたところ、MEPHISTOはやめたほうがいいと説得してきたんです」と、18 Eastの創設者、アントニオ・シオンゴリ(Antonio Ciongoli)は語る。「わざわざ、『“レインボー” はアメリカで成功したことがなく、価格も高すぎる。代わりに “マッチ” を使うべきだ』と言われました」
それが今やどうなったかといえば、MEPHISTOとのコラボモデルは軒並み即完売している。
これは年長者から若年層へ流行が広がる現象「年長者トリクルダウン理論」の典型例だ。マイキー・マディソン(Mikey Madison)が最近の雑誌カバーでMEPHISTOを履き、日本各地ではMEPHISTOのポップアップが展開されている。さらにNew Balanceは、MEPHISTOの象徴的な「マッチ」モデルを彷彿とさせるデザインのウォーキングスニーカーを高価格帯でリリース。まさに、MEPHISTOフィーバーの到来だ。
今や、祖父世代の “快適なシューズ” は、完全にファッションの仲間入りを果たした。
次に来るのは? 本格的な整形外科シューズではないだろうか。
BALENCIAGA(バレンシアガ)と整形外科用フットウェアのパイオニアSCHOLL(ショール)が本格的なシニア向けサンダルでコラボしたわずか数週間後には、デヴ・ハインズ(Dev Hynes)が「メットガラ」のホテルをMERRELL(メレル)の「ジャングル モック」姿で後にした。そして、OUR LEGACY(アワーレガシー)をはじめとする話題のブランドは、スウェーデン式の鋲付きクロッグを続々と展開している。これらは、たびたび再入荷されてもすぐ完売してしまう、NEEDLES(ニードルズ)とTROENTORP(トロエントープ)のコラボスリッポンを彷彿とさせる。
そして、NEEDLESの親会社ネペンテスはフィンランドの若手シューズブランドTARVAS(ターバス)が持つ、どこかシニア世代の装いを感じさせるクラシックなデザインにすっかり魅了され、自社ブランドENGINEERED GARMENTS(エンジニアド ガーメンツ)でいくつかコラボモデルを展開している。

さらに玄人好みのメンズウェア層が、AURORA(オーロラ)の「ミドルイングリッシュ」に再び注目している。控えめなルックスと、昔ながらのアメリカの職人技が光る一足だ。英国のテーラリング系ブランドDrake’s(ドレイクス)では、このモデルの限定バージョンを何度も再入荷している。
重視されているのは、かっこよさよりも快適さだ。まさに、そんな価値観へのシフトが起きている。スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)や、なんとローマ教皇(神の話になるとは!)のようなファッションとは無縁な人々に長年愛されてきたMEPHISTOは、見た目もなかなかのものながら、何より履き心地とのバランスに優れている。
ここには、ある種の自己満足が働いている。インソールを支える構造や、トレンドが変わってもソールを替えて長く履き続けられるシューズを選び、あえて広く流行するシューズ文化を拒んでいる。
おしゃれとは、自己満足のためにある。祖父世代はずっと前からそれを知っていた。
「ものを買うときに人がまず自問するのは、『快適か? 長持ちするか? 時代を超えて愛されるか?』です」と、FURSAC(フルサック)のクリエイティブディレクターでメンズウェアインフルエンサーのゴーティエ・ボルサレロ(Gauthier Borsarello)は、自身のブランドとMEPHISTOの最近のコラボについて語った。「私にとって、これこそが本物のラグジュアリーです」
- Words: Jake Silbert