style
Where the runway meets the street

「迷ったときは赤を着ろ」とは、かつてのデザイナーのビル・ブラス(Bill Blass)の言葉だ。しかし、そんな赤にも迷いが生じたら? 今度は緑の出番だ。

2024年幕開け、ミラノそしてパリファッションウィークの2024年秋冬ショーでは、名だたるファッションブランドの全てが、赤に代えて、あるいは赤と交えて、緑を多用した。

とはいえ、全てのショーがニコロデオン・ギャック(Nickelodeon Gak)のスライムのような緑満載であったわけではない(それもさぞ面白かったであろうが)。BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)はアクセントとして緑を使い、地味になりがちなプレタポルテに爽やかな刺激を与えていた。

BOTTEGA VENETAは創設以来、シグネチャーであるパラキートグリーンを全てのコレクションで一貫して使ってきた。BOTTEGAの緑の手袋やハンドバッグがもし単発的なものであったなら、それは単なるグリーン・ビジネスと思えたかもしれない。

しかしBOTTEGAは、トートバッグや結び目のあるレザーポーチ、そしてクロコ柄のミュールなどにふさわしい形でより濃いロームグリーンを使うなど、緑という色を深く追求してもいる。

それでもこちらとしては、BOTTEGAから緑に対する好意的な提案を期待してしまう。

PRADA(プラダ)の2024年秋冬コレクションでの緑使いは、羽のような帽子やバッグにさりげなくニュアンスを添える程度であったが、それでもファッションの風向きを示す風見鶏的な役割は十分に果たしていた。

PRADAの発信の仕方は常に囁くようにさり気ない。しかしPRADAの動向は他ブランドが注視しているため、結果的にはPRADA自体が囁いていたとしても、クラクションを鳴らすほどの効果を持つようになる。

マダム・ミウッチャ(Madame Miuccia)に至っては、エメラルド色のジュエリーをアクセントにした芝色のブレザーでバックステージに登場するほど緑色への惚れ込みようを見せた。

老舗FENDI(フェンディ)も緑に傾倒したブランドのひとつだ。もちろんFENDIウーマンはこれからも黄色を愛し青も捨てないことではあろうが。

しかしスキューバスタイルのニットフードは緑。太ももまであるレザーブーツも緑。ベルト付きローブコートは? 赤、いや、冗談。そう、こちらもやはり緑だった。

これは氷山の一角に過ぎない。緑だけに、国旗に緑色の入ったアイルランド辺りの氷山の一角とでも言っておこうか。BALLY(バリー)もGUCCI(グッチ)も、ロンドン発祥のBURBERRY(バーバリー)も、ふんだんな緑使いを見せた。

トレンドを裏地、縫い目で表現するのが通例のMM6 Maison Margiela(エムエム6 メゾン マルジェラ)でさえ、今回は緑のブレザー、緑のセーターと、緑を多く使ったショーを展開した。

ただ一口に緑と言っても、青々と茂る森のような豊かなダークグリーン、繊細さの中に洗練された緑、キリッとした緑と、その趣は様々だ。

ダークグリーンや繊細な緑は、緑が主役に躍り出る以前から、ファッションにおいても多々目にする色ではあった。落ち着いた色は全般的によく使われる。

しかし2024年秋冬では、味わいのある緑、リッチで外向的な緑を含め、緑が驚異的急上昇を見せた。赤ほどの主張の強さはないとしても、緑もまた、自信に満ちた鮮やかな色だ。

しかしこれほどの緑の台頭にはどういう意味があるのか。

おそらく信頼に値すると思われるウェブサイトcolorpsychology.orgには「緑色を配色に取り入れていることで知られる一流ブランドは一般に、リラックス、信頼性、製品の上質さを連想させる。こうしたブランドは緑を、落ち着きと心地よさを促進する意図で使っている」とある。

つまり、このファッションにおける緑の波は、無意識レベルにおける文化的混乱への反応であり、圧倒的に刺激の多い社会、悲惨なニュースの絶えない世界、破滅的な報道の渦巻く世間に安定をもたらそうとする力なのかもしれない。

緑をまとうことで自然に回帰し、冷静になり、喧騒から(ほんの少しではあっても)離れて暮らしたいという暗黙の願望がそこにはある可能性がある。

この前の流行色、赤には「私を見て! これから街を私色に塗り替えて見せるから!」と叫ぶかのように目立つ性格があった。緑はそれと対極にある。

赤は大胆で明るく、他のどの色の補色にもならないが、逆にどの色とも実は完璧に合う。ブラスが熟知していた通り、赤は実に大胆で自信に満ちた謎の色だ。

一方、緑と言えば亀の色、植物の葉の色、熟す前のバナナの色、青リンゴの色と、謙虚で忍耐強くありながら、パンチを持った色だ。

緑は赤と並んでもうひとつの原色である青ほど優しい色ではない。青は3つの原色の中で昔から最もファッショナブルであり、RED! や緑ほど主張しない色と言える。

宴は終わった。怒りっぽく、騒々しく、楽しい赤は、蔓延し過ぎたために活力を失った。次は眠気を誘う青ではなく、さわやかな緑を登場させよう、というような思考回路なのかも知れない。

さてこれで、2024年秋冬シーズンに着る色は……決まったも同然だろう。