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Life beyond style

アメリカ・ポートランド在住のアーティストSHOHEI TAKASAKIが、約5年振りとなる日本での個展を神宮前にあるギャラリースペースCOMMONにて本日、11月11日(日)まで開催している。Jutapose(並列)・Arrange(配置)・Compare(比較)と題された今回のエキシビションでは、過去2年内に制作された作品を中心に展開されているが、日本で新たに完成されたペインティングなども展示・販売がされている。

プロフェッショナルとしてのアーティストに辿り着くまでの経緯や、何をもってアートと呼ぶのかなど、来日中のSHOHEI氏に直接インタビューを決行。どんな質問に対しても、正直で真摯に答える姿勢や歯に衣着せぬ物言いからは、力強い筆使いから生まれる作品と同氏が持つ人間性との深い繋がりを垣間見ることが出来た。

ご自身の生い立ちやアートを始めたきっかけをお聞かせ下さい。

実は中学生の頃は、ファッションデザイナーを目指していました。当時、付き合っていた子が凄くパンクで、その子からファッションや音楽の影響を受けたのがきっかけです。その後、東京のファッション学校への入学を目標に、高校卒業の資格が必要だという理由から高校に入学しました。けれど実際はあまり学校には行ってなかったので、出席日数もギリギリでしたが、美術の先生と仲良くなったこともあって、2年間ぐらいずっと放課後にデッサンの練習をしていました。

そのお陰で、行きたかった専門学校の技術試験に合格しました。けれど、その次の面接が衝撃的で、今も良く覚えているのですが、数名の先生との面接で「君、遅刻と欠席が凄く多いね」と指摘されてしまって。僕は、正直に言うのが全てだと思っていたので「多いですよ。でもそれには理由があって、高校は卒業資格の為に通ったんです。授業に出ていない時は、実技の練習や自分で洋服を作っていました」と答えました。そしたら「やりたいことをやる為に、やりたくないことを避けちゃ駄目だよ」って説教をされ始めてしまって。僕もそこで「それは違うと思います」って指摘したら落ちました(笑)。その頃から絵を描き始めて、20代前半まではグラフィックデザイナーをやっていた時期もありました。

絵を描くという行為は、一種のストレス発散であったりしたのでしょうか? 当時はどういう意図で絵と向き合っていたのですか?

何も考えてなかったと思います。アーティストという自覚もなかったし、全くプロでもなかったので、自分でも何をしているのか分かっていない状態でしたね。

お話を伺っていて既に、正直で強いステイトメントのようなモノを感じます。そのような人間性が作品にも表れている印象を受けるのですが、ご自身ではどう思われますか?

それはありますね。けれど、僕はどちらかと言うとセンシティブで傷つきやすいので、すぐにへこんでしまいます。一つの作品にだけフォーカスしてやると、がっかりすることが多いので、スタジオで作品を描く時は最低でも3枚、多いと6枚ぐらい同時進行で制作するんです。絵って一つのストロークを入れるだけですぐに変わってしまうので、自分が頭の中で思い描いているモノが上手く表現出来ないと辛いですね。実は絵を描いている時に、「楽しい!」みたいな感情がなくて。

それは描かなければという義務感、もしくはご自身の表現されたい絵が描けないからなのでしょうか?

両方だと思います。描かないとっていう義務感よりは、描かないと何も始まらないのを知っているからですかね。時々、億劫になったり、恐かったりします。一方で、凄く満足のいくペインティングやスカルプチャーが出来た時の達成感、それを通じて人とコミュニケーションを取れたりする時の気持ち良さには途轍もない中毒性があるので作り続けるのだと思います。

アーティストとしてキャリアをスタートしたのは、いつ頃からでしたか?

プロとして自覚し始めたのは、30歳ぐらいからでした。その境目は、自分が何をやっているのかを理解出来るようになったことです。何を描いているのか分からない、ただ単にやっているとか、日本ではそれがピュアって表現されるのかも知れませんが、僕はそういうのはプロじゃないと考えています。逆に、20代の頃の自分もそうでした。僕はどこかでアートのフォーマルな教育を受けた訳でもなく、昔のクラシックなアーティストの作品を見て、他の皆と同じ様に絵を描いてみたいと思っただけだったので。けれど、20代後半ぐらいから「アートって何だろう?」と以前より深く考えるようになったり、勉強もするようになり、それから変わりましたね。

ご自身の作品が売れたこともプロとしての自覚に関係していると思われますか?

うーん、それもそうかも知れないですが、僕が思うプロフェッショナルなアーティストは、作品を通じて誰かとコミュニケーションが出来る人です。その時代毎の、その人にしか出来ない社会に対しての意見や提案、プレゼンテーションを投げかけられるような人達。作品にもきちんとしたアティチュードがあって、むしろそれがないと、アートは粗大ゴミと同じになってしまう。極端な話ですが、ある作品を2人以上がアートとして認めれば良いけれど、誰一人として認めなければ、僕のペインティングも含めて、資源の無駄遣いになってしまいます。だから作品を通して誰かと対話、繋がれないと、価値の無いモノになってしまうのではないでしょうか。

では現在、ご自身の作品を通して提案されていることとは?

実は、それが今回のエキシビションテーマであるJutapose(並列)・Arrange(配置)・Compare(比較)とも繋がっています。普段海外に住んでいますが、僕は凄く日本人なところがあって、やはり現地のスタンダードの中に入り込もうとすると、自分が正しいと思っていたこと、それまで持っていた基準が揺らぐ瞬間があります。そこで自分と他者、モノとモノ、国と国を比べたりするようになりました。海外に拠点を移してから、何かと何かを比べるというのが、自分の中で大きなキーワードになってきています。日本人としてローカルの人達とどうやってコミュニケーションを取るのか、日本食とアメリカ人の食事だとか、些細なことまで比べたりもしました。昔から人って自己と他人とを比べて生きていて、その結果として人間は進化をしたのだと思っています。比較の対象は至る所にあって、比べることは人間の根本的な部分でもあります。

ここ何年か色々な国々に行って強く感じるのは、どの国を見ても世界がフラットになっているような気がします。例えば、建築様式は異なっても、入っているテナントは洋服屋もコーヒーショップもどこも同じことが多いです。更に、同じモノに囲まれているせいか、性格も皆似てきているように感じます。こんな未だかつて無い程に均質化している世の中だからこそ、比べるという行為をもう一度訴えかけても良いのかなって。それがここ2年間ぐらいの僕のテーマです。

今回選ばれた作品には具体的に、どのような比較が落とし込まれているのでしょうか?

一つのモチーフでも、異なる時代のアプローチを用いて表現しています。例えば、抽象的な手法の作品とグラフィカルな作品を合わせて一つのアートワークにしたり、同じ男性器を描いていても左右でタッチが異なるので違って見えたりすると思います。作品によってはミニマルやシュールレアリズム、デジタル等の複数の要素を比較しているアートもあります。

日本は実用性のないアートに対して、あまり感心が高くないように思いますが、日本でのアートの捉えられ方をどうお考えですか?

そうかも知れませんが、日本に対してネガティブになりたくない部分もります。良し悪しに関わらず、日本のアートって機能的で、単純にそういう文化なんだろうなと思います。実用性がないと、アートとして成立しないというか。それとは別に、日本で度々びっくりするのが個展を開催する時とかに経歴を詳しく聞かれることです。誰もが知っている企業とコラボレーションをしたとか、そういうのを欲しがるんだなって。メディアもそれを基準に、取材するアーティストを選んだりしているのかなと感じてしまいます。

ポートランドを拠点にしている理由を教え下さい。

理由は単純で、ポートランドは他と比べるとまだ田舎なので、アーティストとして広いスタジオを持てるからです。東京やニューヨークだと難しいと思います。それにフライトだとニューヨークも遠くはないですし、子供を育てるには良い環境で、友達も沢山いるので理想的な環境です。

現地でのアーティスト同士の繋がりはあるのでしょうか?

それは凄く大切なので、仕事の一環としても皆と繋がるようにしています。僕は元々、ニューヨークが大好きなのですが、ポートランドのアーティストの作風は民芸品寄りであったり、ファンクショナルだったりと少し表現の仕方が違っていて面白いです。

これまでアメリカ、日本、オーストラリア、クエート等でエキシビションを開催されてきましたが、各国の反応は如何でしたか?

勿論、人種や文化が違うのでそれぞれでした。その中でもクエートは面白かったですね。とにかく、顧客の方が富裕層ばかりの印象を受けました。エキシビションに来場された方も入った瞬間に、「アレとソレとコレ買います」みたいな感じでしたね。「僕と話もしないんだ(笑)」と思いました。

先程、「アート作品は意味がなければ価値が無い」と仰っていましたが、そのような場合もちゃんと作品を媒介にして対話出来ているとお考えですか?

確かに不安だけど、それはシチュエーションによります。その時は、会場のオーナーを良く知っていて、彼はアートの教育もきちんと受けているので、僕も自分が何を表現したいのかはっきり言えました。そのギャラリーのカスタマーは、彼が良いと言うと必ず買うらしく、その後に開催される会食で絵を飾って説明をしてくれるそうです。僕も最低でもそのディナーには招待して欲しいですけどね(笑)。それと、僕がクエートで個展を開催した初めての日本人らしく、現地の日本大使館の方も来てくれたりお世話になりました。クエートって聞くと、ほとんどの人が伝統的な服装を想像するかも知れませんが、ショーツを履いてスケートボードで滑っている若い子がいて、ミックス感が凄く面白かったです。

今後の展望、アート以外の分野でも興味があることがありましたらお聞かせ下さい。

体を動かすのが好きなので、土方や建設業とかも経験したいですね。他にも色々挑戦してみたいです。ずっとバンドもやっていますし、写真も撮ったり、料理も好きです。多分、アーティストとしてずっと生きていくとは思っていますが、「絶対にそうしていく」とは決め付けないようにしています。やりたくなかったら、やらない方が良いし、そうやって一つのことだけに固執すると可能性を除外してしまうので。興味があることはどんどんやった方が良いと思います!

SHOHEI TAKASAKI ART EXHIBITION
会期:11月2日(金)~11月11日(日) 13:00~19:00
会場:COMMON 〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-12-9 1F