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現在東京にて、個展「Open Your Eyes」そして企画展「Mickey Mouse Now and Future」が開催されているスペイン人アーティスト、ハビア・カジェハ(Javier Calleja)。潤んだ大きな瞳のキャラクターが特徴的なハビアの作品は、スペイン国内を中心に人気を博し、2017年の香港AISHONANZUKAギャラリーでの個展以降、スペインや北米だけでなくアジアを含む世界中で、より多くのアートファンを魅了している。

ドローイング、ペインティングから、大型の立体作品まで、彼の描く愛らしいキャラクターたちはどのように生まれてきたのか。ハビア自身のアーティストとしての歩み、そして、優しくポップな印象の作品の裏に隠されたメッセージとは?「Open Your Eyes」の作品についてを中心に、ハビア・カジェハ、そして彼の妻でありワークパートナーでもあるアリシアに独占インタビュー。

ーー個展の開催おめでとうございます。まずは今回「Open Your Eyes」と題した理由について教えてください。

ハビア(以下、J):ありがとう。このタイトルは率直に「目を開けて」ということなんだけど、まずは単純に、大きく目を開いた僕の作品のキャラクターたちを意味している。そしてさらに、世界をよく見て、現状に気づいてほしいというメッセージでもあるんだ。キービジュアルにした作品や、ギャラリーのエントランスの壁には小さな植物の芽を描いたんだけれど、あの芽が意味するのは、現代に生きる僕らが気づくべき問題のこと。特に環境問題を思いながら描いたんだ。もう随分と環境問題については取り沙汰されているけれど、僕とアリシアは実際に地球温暖化の影響で水没の危機にあるベネチアを目の当たりにした。他にも世界が抱えている課題ってたくさんあるよね。それを個人レベルで考え、取り組まなきゃいけない時代に来ている。本当に。そういった警鐘を押し付けるようなあからさまな作品は作りたくないし、プレスリリースにもはっきりとは書いていないけど、このある意味とてもストレートなタイトルから、何かを感じてもらえたら嬉しいよ。

ーーなるほど。そして今お話しされたギャラリーのエントランスの壁面ですが、展示のオープン前に直接描かれていましたね。日本語も書かれていたり、ライブ感があって素敵なファイナルタッチだなと感じました。展示する地域や場所によって、こういった即興の演出をしたり、作品のテイストを変えたりはよくするのですか?

J:場合によるけど、今回はNANZUKAということもあってとても自由にアソビを加えた展示にできたね。2階の作品にも日本語を書いたよ。シンジ(NANZUKA代表・南塚真史)の小学生の娘さんが、文字のインスピレーションをくれたりしてね。それと当然だけど、展示をする地域によって喜ばれる作品が違うのはやっぱり面白い。ヨーロッパの一部ではモノトーンや意味深な作品が好かれる一方、アジアや地中海エリアではよりポップでカラフルなものが好まれるんだ。

ーーでは、作風についてより深く伺いたいのですが、ご自身の作品のスタイルはどのように生まれたのですか?

J:僕は1971年生まれで、子供の頃はアニメやコミックを見て育ったんだ。日本のマジンガーZも見ていたよ。フランシスコ・イバニェス・タラベラ(Francisco Ibáñez Talavera)のコミックが大好きだった。そして大学では、ルネ・マグリット(René Magritte)や、リチャード・セラ(Richard Serra)、マーク・ロスコ(Mark Rothko)、ホアン・ヘルナンデス・ピジュアン(Joan Hernández Pijuan)のような芸術家に憧れていた。同時に、「コミックなんてアートじゃない」と大学で教えられたけど、昔から自分が好きなものを忘れることはできなくてね。これまで好きになった多くのアートが僕の作品に影響している。

アリシア(以下、A):彼のキャラクターは雲から生まれたの。フワフワの雲みたいな髪型の子達が今回の展示にもいるでしょう?

ーーそうなんですね!なぜ雲なのですか?

J:僕は小さい頃から母親に、「あなたはすぐうわの空で、雲の上にばかりいるわね」とか、ご近所さんに「ごめんなさい、うちの息子すぐ雲の上に行っちゃって」って言われていた(笑)。母からしたらぼーっとした子供だったんだろうね(笑)。だから自然と雲には親近感が湧くし、自分らしいと思ったんだ。大好きなマグリットの作品も雲が象徴的だしね。雲と、そこから落ちる雫や水玉を描くのが好きだったんだ。

A:その雲かやがて髪の毛になって、雫が大きな瞳になって、彼のキャラクターのスタイルが生まれたの。だからフワフワの髪の毛でグロッシーな目なのよ。

ーーなるほど!

J:子供って大人よりはるかによく泣くけど、何か嬉しいことがあると途端に泣き止んで笑い出す。さっきまでの問題や悲しみにまさる喜びのおかげで涙は止まるけれど、泣いていた余韻で目が潤んでいる。その一瞬を、僕のキャラクターにとじこめているんだ。人間って、泣いたり笑ったりしながら成長していくだろ?

ーー悲しさから喜びに変わる前向きな瞬間をとらえているんですね。今回の新作はここ2年のコロナ禍で完成したものかと思いますが、パンデミックは作品やご自身にどう影響しましたか?

J:直接的に作品としてそれを表現したつもりはいないけれど、パンデミックは誰もがいろいろと考えさせられる時間だったよね。まるでバタフライエフェクトのように、目に見えない細胞レベルの小さな存在が全人類を脅かすという事を、目の前の現実として思い知らされた。それはベネチアが沈んでいるという事実を見た衝撃や、『Open Your Eyes』という個展のタイトル、その裏に感じて欲しいメッセージを込めたことにも繋がるのかもしれない。

ーー世界中にファンがいらっしゃいますが、現在のアーティスト活動の支えになるものは何ですか?

J:月並みだけど当たり前で、僕たちの支えは、ファンであり、チームであり、周りにいてくれる人たち全員だよ。

ーーハビアさんは「僕たち」という言葉をよく使われていて、アリシアさんとの繋がりをとても強く感じます。お二人のチームワークについて伺っても良いですか?

A:実は二人でインタビューなんてされたことがないの。何だか恥ずかしいわね。私たちはもう18年くらい一緒にいるかしら。以前は私、アートギャラリーで働いていたんだけど、彼の香港のAISHONANZUKAギャラリーでの個展を終えて、すごくいい予感がしたの。スペインへ帰る飛行機の中で彼に話したわ。「ハビ、何かいいことが起こりそう。あなたは作品に集中すべきよ。私、仕事を辞めてあなたと一緒に働くわ」って。

J:彼女は僕の妻であり、親友であり、最も信頼するビジネスパートナーだよ。ここまでたくさんのファンが僕の作品を知ってくれているのも、彼女と、シンジをはじめとするNANZUKAチームのおかげだよ。

ーー素敵なパートナーシップですね。NANZUKAギャラリーとはどうやって出会ったのですか?

J:シンジが連絡をくれたんだ。ソーシャルメディアで僕の作品を見て興味を持ってくれて、日本からスペインにまで会いにきてくれた。それまで僕はアーティストとしてスペイン国内では名が通っていたけど、海外の活動はそれほど精力的にできていなかったんだよ。シンジたちが僕を信じて香港での個展を実現させてくれたおかげで、今の僕らがあるって心から思っている。支えてくれる人は本当に大事だと思っているよ。僕はアートがなかったら何者でもない。

A:私は彼がいなかったら何もないし、私たちもチームがいなければ何もできない。

J:そしてチームも、オーディエンスがいなければ何の意味もない。ここ数年、それをより実感しているから、これからも意味のあるものや、見てくれる人の生活が豊かになる作品作りをしていきたいと思っているよ。

 

 

 

ハビア・カジェハ個展「 Open Your Eyes
会期:11月14日(日)〜12月26日(日)
会場:NANZUKA UNDERGROUND
住所:東京都渋谷区神宮前3-30-10
営業時間:11:00〜19:00(月、祝日休業)
※ 3110NZ by LDH kitchenでも12/25まで同時開催中

ハビア・カジェハ参加企画展 「Mickey Mouse Now and Future
会期:11月19日(金)〜12月19日(日)
会場:PARCO MUSEUM TOKYO
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 4F
営業時間:11:00〜20:00
入場料:一般¥ 1,000、小学生以下無料
※その他、株主優待を含む割引対象外