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Life beyond style

K-POPの台頭、そしてパンデミックを機に男性の美意識は高まり、男性がするメイクの需要は増えた。しかし、男性のメイクに関心があると答える男性が4割弱いるにも拘らず、男性のメイク率は3.5%程度に留まっている(※)。ジェンダーレス、ジェンダーフルが全盛の時代においてもなお「メンズメイク市場」は盛り上がっている印象はない。この男性のメイクのなぜか高い壁のブレイクスルーを探るべく、メイク動画が性別を超えて話題になっているインフルエンサーgrapeと考える。

※株式会社ネオマーケティング調べ、2022年

——メイクをする動画が話題になっていますね。

ありがとうございます。昨日、インスタのDMでいろいろな方々とお話ししたのですが、その中でもやっぱり「メイクが真似しやすい、したい」というコメントが多かったです。女性でも誰もがしっかりするメイクをするわけじゃないんですよ。日常でさらっと、少しだけ血色感が欲しいとか、個人的にもそういうメイクが好きなので、それが男女区別なく共感いただけたのだと思います。

——最初にメイクを始めたきっかけは何でしたか?

一番最初は眉尻の毛が薄いのが気になって、描き足すためにアイブロウペンシルを使い始めました。元々YouTuberに憧れていて、長尺の動画を撮りたいと思っていましたが、「自分の動画なんて誰が観るんだろう」みたいな葛藤があって撮っていませんでした。コロナ禍に時間があったので、自分が好きなK-POPのMVリアクション動画をちょっとやってみようと思って。撮影する時に、二重顎気になるからシェーディング入れようとか、シェーディング入れると眉毛の印象が薄くなっちゃうからもうちょっと描き足そうとか、ニキビができたのでコンシーラーをつけてみようとか、画面上での見え方を気にしていたらメイクの幅が広がっていました。その撮影準備をしてるメイク動画を縦長にしてTikTokにもアップし始め、今に至ります。

——では独学でメイクをやり始めたと。

そうですね。メイクしているか分からないように眉を描いてみようとか、ニキビ跡が気になるからコンシーラーを塗ってみようとか。バレないメイク、コンプレックスを隠すメイクからまず入っていきました。そしたら色ものも好きだし、パッケージもかわいいのがたくさんあるので、見ていて楽しくなっちゃって、そこからどんどんいろんなものに手を出していきました。

——それはまずはドラッグストアみたいなところからスタートしたのでしょうか?

ベースメイクで言うと、ナチュラル素肌等という文言で謳っている商品であれば、ドラコス、デパコス関係なく調べて試していました。一番最初に買ったファンデーションはカバー力はそんなにないけど、肌の色ムラを整えてくれるデパコスのものでした。その頃はあまりドラコスではそのような自分好みのファンデーションに出合わなかった気がします。でもリップに関しては本当に色展開が豊富なので、まずはお手頃価格帯のアイテムで自分好みの色味を定めて、デパコスでは決め打ちで一本買う、といったこともしています。

——百貨店の化粧品コーナーに入るのは抵抗はなかったですか?

最初はこの人なんのためにここにいるんだろうと多分店員さんやほかのお客さんも思っているかなと気になっていましたが、ほんの数十分しか同じ環境にいないので別にいいかなと、気にしないようになっていきました。

CHANEL ROUGE COCO BAUME 754
華やかに見えるカラーも、シアーな色づきでメイクビギナーでも使いやすいナチュラルな仕上がり。自然由来の保湿成分が唇のうるおいを長時間キープし、リップケアも兼ねる。

——メイク歴は何年くらいですか?

メイク歴は、アイブロウまで入れると2017年くらい、だから8年くらいですね。フルメイクは2021年くらいからです。

——最初の隠すメイクから変化はありました?

そうですね。そばかすは褒めてもらうことが多かったので、目立つように少し日焼け風のメイクにしてみたり、どちらかというとコンプレックスを消すところからさらに自分のナチュラルな良さを生かせるようにシェーディングの色を選んだり、入れる顔の位置を研究してみたりしました。トレンドにこだわらず、どの系統が自分に似合うか、自分の顔が引き立つかを模索しながらいろいろ試してる感じです。

ROUGE G 131 ROUGE G VELVET 888
スキンケア効果で唇を保護しつつ、美しい色づきと溶け込むようなつけ心地が続く。身だしなみを整えるのに便利なミラー付きのケースは、ファッションアクセサリーのような感覚で持ち歩きたい。

——ナチュラルメイクなんですね。ただ、アイシャドウやリップをつけてもっと魅力的にする方向には行っていますか?

アイシャドウはほとんどしないです。輪郭を際立てるためにシャドー感覚で時々目尻エリアに入れることはありますが、色を使ってより華やかで美しく表現したいところにまだ行ってないかもしれないです。たまに、ちょっと艶っぽさを入れてみようかなと、リップやハイライターを使うことはありますが、基本ラメ、グリッターが入っているものは控えています。

——そういうナチュラルさやお手軽さがみなさんに人気なんですかね?

かもしれないです。この間DMで、「アイシャドウしなきゃいけないっていう訳分からんメイクのルールみたいなのを壊してくれてありがとう」といったコメントが来ました。「世間のメイクのあり方」に疑問を持っていた人達が割と多く、ナチュラル思考に共感いただけたのかもしれないです。

ROUGE HERMÈS ROUGE BRILLANT SILKY 85
HERMÈSのレザーに着想した色味「ルージュ H」は、褐色味を帯びたボルドーに近い高貴な赤。鮮やかな発色と色持ちの良さを兼ね備え、日常でもフォーマルな場面でも個々の魅力を引き出す。

——女性からするともっと引き算でいいんだという感じですが、今その逆というか、男性からしても足し算でもいいじゃない? という方向で行きたいんです。そうするためには、まずどこからいけばいいと思いますか?

眉毛を整えるためにアイブロウペンシルや、顔の色ムラを整えるためにコンシーラーやファンデーションから始めるのがいいですかね。この2つを整えるだけでも全然清潔感が出ると思います。

——そこのメリットは、男性は分かっているかもしれませんが、やらない人が多いですよね。そこにまだ社会の意識が至っていないんです。ヘアはしますよね。

寝癖のままお出かけしたくないからヘアセットをするその延長でなぜメイクをしないのかは私の疑問でもあります。

LE ROUGE INTERDIT BALM No.10 
本革のラムレザーを使用したエッジィなケースは、持つだけで様になる。シアーブラックのリップを唇にのせると、pHに反応して色が変化。もとから色づいていたかのような血色感を引き出し、ナチュラルな仕上がりに。

——メイク=女性という固定観念が強すぎるんだと思います。そして女性はメイクしないといけないと思っている。そういう意味でgrapeさんはブレイクスルーだったのかもしれないですね。

そういう固定観念を生むマーケティングを化粧品企業がしてきたからだと思います。今回撮影のお話をいただいた時に、メンズメイクの市場がうまくいってないところから分析されていました。メンズメイクというワードが私はそもそもあまり好きじゃなくて、別にメイクは性別関係なく誰がしてもいいじゃん、と思っています。昔、メンズメイクの新しい製品を出したいので製品開発部のワークショップに来てくれないかとお誘いされた時に、なぜメンズメイクと謳いたいんですか? と聞いてみたら、やっぱり化粧品に手を伸ばす男性層はメンズメイクとカテゴライズされてると手が出しやすいと仰っていました。でも実際にその開発中の成分は女性じゃなくて男性にしか合わないんですか? と聞くと、この成分がぴったり合う女性もいます、とのことで。だから結局、企業側がラベリングをしてしまっています。そういったアプローチ自体がそもそも違うんじゃないかと思っていますし、その考え方を変えなきゃいけないのに、企業側の販売欲が先行して「メンズメイク」が前に来てしまっていますよね。本当に良いものは性別で区別するマーケティングをしなくても売れると思います。

——まさにその通りですね。以前、スニーカーカルチャーって男性だけのもの? という記事があって、女性のスニーカーマニアからすると、レディースデザインのものを出してほしいのではなく、ただ女性サイズにしてくれればいい、とのことでした。

インフルエンサーも同じで、男性美容系インフルエンサー達がメンズ用と謳っている化粧品の案件ばかりをやっていると、これからメイクに手を出していく男性に「メンズはメンズ用を使わないといけないのだ、それがメンズ美容」という印象が定着してしまい、それ以外の製品に手を出すのはフェミニンだという印象づくりにも貢献しちゃってると思うんです。

——メイクをする男性=女性になる方向のメイクという印象も強いです。

フェミニンな印象に寄せるメイクももちろんあっていいですが、男性らしさを強調できるメイクや、清潔感を出すメイクなど、いろいろなメイクを目にする機会が増えて、そういった固定観念がなくなっていくといいですね。

——今はクリーンメイクかその方向かに寄っちゃうので、間がないとは思っています。だから結局メイクは女性のものというイメージが強くなっちゃうんですよね。そういう意味でメイクの中でも特にリップは、女性=メイクを印象付けるカテゴリーだと感じており、今回の撮影に至りました。

私はナチュラルな仕上がりが好きなので、アイメイクよりはリップをよくしています。口もとは個人的にいつもベージュっぽい色に手を伸ばすことが多いです。発色の良いリップは、それだけで塗布するとメイクしてる感が強く出ちゃうと思いますが、まず肌色に近いリップライナーでリップを縁取ってから、発色の良いリップを中央に塗布してグラデーションにすると、どんな色でも顔馴染みが良くなると思います。中央だけ濃くて、外に向けて艶が目立ったり。縁がパキッとしちゃうと、口だけリップをのせているように見えちゃうので。

 SOLEIL LIP BALM 05 SOLEIL LIP BALM 06 
ジェルクリーム状のリップバームが唇をうるおいで包み込み、元々の血色を思わす優しい発色で魅力的な唇へと導く逸品。ゴールドで統一された高級感溢れるデザインがファッション上級者の心を掴む。

 

※本記事は2025年4月に発売したHIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE14++に掲載された内容です。

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE14++:AKASAKI
発売日:2025年4月15日(火)
定価:1,650円(税込)
仕様:A4変型

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