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Where the runway meets the street
@AMI / Rahim Fortune

今は30代が昔の20代くらいの立ち位置になっているという見解がある。しかしラグジュアリーブランドやストリートウェアの広告塔に次々と高齢の有名人が起用されているこの時代、50、60、あるいは70代こそが昔で言うところの20代になっていると、男性向け服飾品販売関係者なら言うだろう。

ここ数年、団塊世代やX世代が履き心地の良いウォーキングシューズを履いたキャンペーン広告が登場している。実際のターゲットはそれより2世代以上若い世代なのだが。

69歳のウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg)がAMI(アミ)を着用すれば、エディ・スリマン(Hedi Slimane)もCELINE(セリーヌ)のレザーを着た82歳のミュージシャン、ボブ・ディラン(Bob Dylan)を撮影。LOEWE(ロエベ)も2022年秋冬プレコレクションに85歳の俳優アンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)を起用している。

これらのブランドが4,700ドルのジャケットや800ドルのスニーカー向けに起用しているのはK-POPスターや話題の若手歌手だ。

高齢モデルのムーブメントの要となっている存在は、Kith(キス)である。

ロニー・ファイグ(Ronnie Fieg)が12年前に立ち上げた小売業者Kithは、2020年春のランウェイショー以来、自社のアパレルラインの徹底的見直しに取り組んできた。同社のアパレル、キャスティングはシーズンを追うごとにますます洗練されてきている。

Kithのルックブックには例えば、痛いほどハンサムなロノ・ブラジル(Lono Brazil)がよく登場するが、メインイベントはシーズナルキャンペーンだ。

そのシーズナルキャンペーンにおいてKithは、ブライアン・クランストン(Bryan Cranston)、エドワード・ノートン(Edward Norton)、エイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)、ジェリー・サインフェルド(Jerry Seinfeld)、そして一番最近では77歳の『Succession』主演俳優ブライアン・コックス(Brian Cox)など、世界的知名度を誇る50歳以上の俳優をキャスティングしている。

シニアセレブリティの起用を増すようになったKithには注目も高まっている。著名な高齢モデルをフィーチャーしたソーシャルメディア投稿には毎回、多くの「いいね」やコメントが寄せられる。

MARVEL(マーベル)との複数回にわたるコラボレーションに関する5件のInstagram投稿はいずれも2万2000~3万9000件の「いいね」を獲得しており、コメント数も一投稿あたり500件を超えている。

2023年秋コレクションを着用したブライアン・コックスをフィーチャーした1枚のスライドには約7万件の「いいね」と600件近いコメントが寄せられており、ブライアン・クランストン(Bryan Cranston)の投稿1件にも22万2千件以上の「いいね」が集まっている。

ジェリー・サインフェルドの顔写真を採用したキャンペーンは、Instagram投稿1件で28万3000件以上の「いいね」、7,700件のコメントを集め、そのミームもソーシャルメディア全体に広がるなど、Kith史上最も話題のキャンペーンとなった。

前述の各ラグジュアリーブランドの場合も、アンソニー・ホプキンスを起用したLOEWEの7万1000「いいね」、ボブ・ディランを起用したCELINEは3万6000「いいね」と、高齢モデルの起用で数字を伸ばしている。

Kithが扱うのは「ストリートウェア」であり、CELINE、SAINT LAURENT(サンローラン)といったラグジュアリーブランドとは市場が異なる。しかしそうした区分が意味をなさないかのように、今やあらゆるブランドが、著名なベテラン俳優やミュージシャンの宣伝効果にあやかろうとしている。

酸いも甘いも噛み分けたしなびたモデルの持つ雰囲気が、着る服に貫禄を与える。

Aimé Leon Dore(エメレオンドレ)のママパパNew Balance(ニューバランス)をイメージした広告は圧倒的に魅力的に感じられ、Supreme(シュプリーム)のBogo(ボーゴ)を着たニール・ヤング(Neil Young)もとても印象的だ。

服そのものよりも服を着ているモデルがものを言う。若者文化の象徴である服を成熟した「本物」の人物が着ることで、それが成熟した「本物」の服として捉え直されるようになる。

見慣れた顔が現れるだけで注目を集めるという要素もある。映画や音楽界の有名人がスタイリッシュな服を着ている姿ともなれば、注目度は2倍に、さらにラグジュアリーの服飾品とは必ずしも関連のない年配の俳優ともなると、注目要素は3倍にもなる。

そんな現象が最近主にメンズウェアにおいて起きている。

フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)時代のCÉLINEのキャンペーンではジョーン・ディディオン(Joan Didion)が才能を貸す斬新なケースがあった。文学界の著名人であったジョーンが「静かなラグジュアリー」を生み出すブランドのミューズとして登場するのは理にかなっていた。

マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)が2019年にクリスティ・ターリントン(Christy Turlington)をランウェイに復帰させたことも大きな話題となったが、これもやはり90年代の有名なスーパーモデルであったクリスティと90年代(および00年代)の有名デザイナーであるマークが、お互いの再出発の時期に再び手を取り合うという、論理的なプロセスを踏んでのキャスティングであった。

現在ラグジュアリーブランドの広告に登場している年配の有名人男性陣は、パートナーブランドと同じ方向性で進んでいるというよりは、流れに身を任せているような印象だ。批判しているわけではないが。

アンソニー・ホプキンスが実際にLOEWEを着ているかどうかや、ブライアン・コックスがKithとは何かを知っているかどうか、などということは、誰も気にしない。目新しいことが大事なのだ。

顔馴染みのあるベテランタレントを起用することの価値をブランドが理解したことにより、ベテラン達による服飾販売の黄金時代が始まろうとしているようだ。

しかしファッションにおける年齢差別が依然として現実問題であることは指摘しておくべき事実だろう。

年齢、人種、性別など、様々な面でより多様なモデルを起用しようという努力は見られるものの、1兆ドル規模の市場であるファッション業界が表現において期待される水準には到達していない。高齢モデルのみを議論の対象とした場合も同じことだ。

2022年秋シーズン、35歳から50歳のランウェイモデルの割合はわずか0.52%だったとされている。

高齢モデルを採用したキャンペーンのみでこの問題が解決するわけではないが、それが少なくとも保守的な美の基準に変化をもたらす、歓迎すべき動きであることは確かだ。

有色人種の熟年モデルを登場させても良い。

過去10年間サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)が出演したスーツの広告がわずか一本であることや、これまでどのブランドも写真映えするジェームズ・ホンに素敵な洋服を着てもらおうと考えなかったことは不思議なことだ。国宝級人材を置いておくとは!

本記事は2023年8月の掲載後、ウーピー・ゴールドバーグのAMIキャンペーンに関する内容を追記し、更新しています。

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