シュプリームがビデオゲーム業界にもたらした功績
2017年夏に発表された「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」とのハイ・プロファイルなコラボレーションや、同年秋に世間を騒がせた「カーライル・グループ(Carlyle Group)」に50%の株式を売却したというニュースにより、やんちゃなスケート・ショップという「シュプリーム(Supreme)」のイメージは、全くもって変わってしまった。「ジェームス・ジェビア(James Jebbia)」が1994年にラファイエット・ストリートにNYのフラッグショップをオープンして以来ずっと変わらなかったシュプリームへの評価だが、情報筋によると、ジェビアは今改めてブランドイメージについて聞くことを恐れているらしい。というのも、ブランドがかつて持っていた「ストリートへの信頼性」を危険にさらす可能性があるためだ。
ブランドへの認識が変化しているにもかかわらず、シュプリームはブランドのDNAともいえるスケートコミュニティとの強いつながりを維持するべく努めている。その努力は、かつて「ライアン・ヒッキー(Ryan Hickey)」や「ジャスティン・ピアース(Justin Pierce)」、「ジオ・エステヴェス(Gio Estevez)」、「ポール・レウン(Paul Leung)」、「ロキ(Loki)」、「クリス&ジョーンズ・キーフ(Chris and Jones Keeffe)」、「ピーター・ビシ(Peter Bici)」、「マイク・ヘルナンデス(Mike Hernandez)」らをフィーチャーしたスケートチームを創設したとき以来、ブランドがずっと変わらずに続けていることだ。そしてこの努力こそが、80年代後半から90年代初めにかけてブルックリン銀行、タイムライフビル、アスター・プレイスからリスペクトを勝ち取った。
ジェビアは、シュプリームの起源について『ヴォーグ(VOGUE)』誌に語る。「私はいつもスケートの世界が生み出すものを愛していた」「それは商業的ではなかったし、エッジィで”fuck-you”的なアティチュードを持っていた」。
これまで、スケートボード界のテーマは変わることなく一貫したものだった。たとえば、パリのストアのオープニング・プロモーションで使われたような「タイショーン・ジョーンズ(Tyshawn Lyons)」や「セイジ・エルセッサー(Sage Elsesser)」、「ケビン・ブラッドリー(Kevin Bradley)」、「ショーン・パブロ(Sean Pablo)」、「ベン・カドー(Ben Kadow)」、「ナセル・スミス(Na-kel Smith)」、「グレッグ・ブロビーズ(Greg Blobys)」、「ケビン・ロドリゲス(Kevin Rodrigues)」、「ジェイソン・ディル(Jason Dill)」、「マーク・ゴンザレス(Mark Gonzales)」、「ヴィンセント・トゥザーリー(Vincent Touzery)」といったスケーターにフィーチャーした「ウィリアム・ストローベック(William Strobeck)」監督制作のビデオ。それから、「ハビエル・ヌネズ(Javier Nunez)」、「ショーン・パブロ・マーフィー(Sean Pablo Murphy)」らのスケーターとタッグを組んだ『ヴォーグ』誌でのエディトリアル撮影でも、常に同じテーマが引用されていた。
ほとんどのシュプリーム愛好家は、スケートボード界とは別の文化人「ラリー・クラーク(Larry Clark)」、「ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)」、「ダミアン・ハースト(Damien Hirst)」、「カウズ(KAWS)」、「村上隆(Takashi Murakami)」、「リチャード・プリンス(Richard Prince)」、「ロバート・ロンゴ(Robert Longo)」、「レイモンド・ペティボン(Raymond Pettibon)」、「ピーター・サヴィル(Peter Saville)」、「ジョージ・コンド(George Condo)」、「チャップマン・ブラザーズ(the Chapman Brothers)」などとタッグを組んだコラボレーションを歓迎している。そして、あまり広く知られてはいないが、シュプリームは第一世代のプレイステーションとパートナーシップを結んでいる。
ストリートウエアが現代文化の中でより広く受け入れられるようになったのと同じように、当初は一部の人のための娯楽でしかなかったビデオゲームだが、2017年には年間1070億ドルのビジネスに成長した。初期のビデオゲームといえば「SNES」、「セガジェネシス」や「ゲームキューブ」を思い浮かべる人も少なくないだろう。これらのゲームグラフィックが業界を席巻した。
偶然にも、シュプリームが創設されたのと同じ年に、史上初めて出荷本数1億本を突破した家庭用ゲーム機であるプレイステーションの主力ゲームコンソール(革新的なGPUとジオメトリ変換エンジンが現代スポーツの複雑さに対応できた)が、ソニーから発売された。
そのおかげで、プレイヤーは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』で猛スピードで走る必要なくなったし、NBAのスタジアムでプレイできるようになった。 スケボーでいうと、ニューヨークのブルックリンバンク、サンフランシスコのチャイナバンクやエンバカデロ、ロンドンのサウスバンクといったお馴染みの場所を舞台にプレイすることが可能になった。
スケートボードシミュレーションが、生まれたのである。
同じ年にリリースされた「Tony Hawk’s Pro Skater」ほどのヒットにはいたらなかったが、前述したスケートパークは1999年に「ロックスター・ゲームス(Rockstar Games)」がリリースした「Thrasher Presents:Skate and Destroy」内で細心の注意を払って再現された。
「Thrasher Presents:Skate and Destroy」に対して、IGNは「実生活のスポーツをシミュレートできる素晴らしいゲームだ。ファンタジーの真似事ではなく、スケーターがこれまで常に望んでいた細かいディテールが実現されたと、レビューで述べている。
さらにゲームを本格化するため、サウンドトラックには「シュガーヒル・ギャング(The Sugarhill Gang)」や「イー・ピー・エム・ディー(EPMD)」、「パブリック・エネミー(Public Enemy)」、「エリックB & ラキム(Eric B&Rakim)」、「ア・トライブ・コールド・クエスト(Tribe Called Quest)」、「ギャング・スター(Gang Starr)」などのアーティストの楽曲を使用した。
しかしながら、このゲームが他と一線を画した理由は、ゲームそのものと優れたサウンドトラックというよりもむしろ、ストリートウエア、特にシュプリームにあるのではなかろうか。ファッション性が高かったので、ゲームがよりリアルに感じられるようになったのだ。
リアルなストリートウェアがビデオゲーム内で使用されることは、もはや珍しいことではない。最近では「アンチ・ソーシャル・ソーシャル・クラブ(Anti Social Social Club)」と「ア ベイシング エイプ(A BATHING APE)」、そして「アンディフィーテッド(UNDEFEATED)」がグランツーリスモとコラボ。マクラーレンの650Sといったブランド車を「アンチ・ソーシャル・ソーシャル・クラブ」のピンク色で、メルセデスのAMG GT Sを「ア ベイシング エイプ」のカモフラージュ柄で、ポルシェ911 GT3を「アンディフィーテッド」のロゴで、という風にゲーム内でカスタムできるようになっている。
このゲームより一足早く発表された「NBA Live ’18」のLivestrike機能では、「アンディフィーテッド」、「ア ベイシング エイプ」、「ピンクドルフィン(Pink Dolphin)」でプレイヤーの着せ替えをすることができた。
「シュプリーム」、「パレス(PALACE)」、「コム・デ・ギャルソン(COMME des GARÇONS)」といったブランドを合法的に組み入れることができない場合でも、ゲームメーカー側はクリエイティブな方法でそれをごまかしてきた。たとえば、BignessやManor、Güffy、SQUASHと名付けた擬似ブランドを作り、パファージャケットやボックスロゴがあしらわれたフーディ、ブランドを象徴するようなパッチワークのルックを取り入れる、という風に。
そもそも「Thrasher Presents: Skate and Destroy」の画期的なコンセプトがなかったら、こういったイミテーションが考えられることもなかっただろう。
スケートボード界自体はスポンサーシップとアパレル側とのパートナーシップに基づいている。他のチームスポーツとは異なり、プレーヤーたちにユニホームの統一性を必要としないレアなスポーツであるため、リアルなブランドとゲームを融合することについては、巧みな戦略が必要とされた。
「シュプリーム」は元々、「エフティーシー(FTC)」や「プッシュ(Push)」、「ズー・ヨーク(ZOO YORK)」、「フォーティーズ(Forties)」、「インディペンデント(Independent)」、「ディーシー(DC)」、「コンバース(Converse)」、「ディー・ブイ・エス(DVS)」、「ボルコム(Volcom)」といったブランドと同じポジションにあるとされていた。その際、“ロゴなし”にすることもできたのだが(ラグジュアリー業界へ買収された今となっては、その方が適切だったように思われるが)。
「シュプリーム」にとって2017年は、ブランドの変革と進化の年であったことは疑いようもない事実だ。「スラッシャー(Thrasher)」との3度目のコラボはスケートカルチャーとのコミットメントをより確かなものとした。偶然だったかどうか定かではないが、それは「Skate and Destroy」のイメージのなかに散りばめられていた。
- Featured/Main Image: Thrasher: Skate and Destroy / YouTube