art

 

静寂に飲み込まれるような空間。五感と六感を最大限に研ぎ澄ませて、すだれから差し込む光と影を肌で受け取り、大正時代から立つ柱の匂いを嗅ぐうちに、墨黒い和紙の壁の向こう側の世界にトリップする。

日本の伝統的美意識である「わびさび」を現代的な解釈で構築されたこの空間をプロデュースするのは、過去の遺物を蘇らせることで未来の考古物を発掘することをコンセプトにしたブランド「Taiga Takahashi(タイガ・タカハシ)」のデザイナーで現代美術家の高橋大雅だ。京都・祇園に大正時代に建てられたという町家を日本の古材と数寄屋造りの伝統技術を用いて再構築した建築は、1階にブティックとアートギャラリー、2階に茶の湯を体験できる茶室「然美」を用意するも、単純に日本的美意識が佇む芸術空間とは言い難い、時間的なトリックが内在する。

 

<彫刻>

最も古い芸術分野の一つである彫刻という手法で、時間の概念を視覚化。入り口で出迎える「無限門」は、硬度の高い玄武岩に空いた穴から湧き出る水が不均衡な道を作って流れていき、細長い隙間から差す光が神秘的な空間を作り出す。階段手前に鎮座するのは吸い込まれるような穴の空いた「無限円」。そして、無限に続くようにも見える白い天井が照らすのは、切り口が四角と三角を捻ったパーツを繋げることで無限を表現したという「無限塔」と題した3つの彫刻。イサム・ノグチ日本財団理事長で石彫家の故和泉正敏氏とともに香川県の牟礼で特別に制作されたいずれの彫刻は、しっかりと時間の重みを空気に置いている。

<茶室「然美」>

日本芸術の源流である「茶の湯」を現代的に体感する。京都唐紙工房「かみ添」に特注した、一枚一枚が違う表情をもつ和紙の壁紙に包まれたほの暗い空間は、わずかなライトと時間によって変化する自然光が照らすのみ。BGMのない静を極めた空間には、沸き立つ湯と茶葉をすくう音。老舗和菓子司二代目の職人技が光る5つの茶菓子は季節によって顔色を変え、それぞれの茶菓子に合わせた創作日本茶を提供する。

衣服、建築、空間、食、茶…
遠い過去から堆積してきた
人類の営みに欠かせない文化。

過去の遺物を、いまに甦らせることで
未来の考古物を発見する。

高橋が紡ぐ言葉の通り、ひとつひとつ丁寧に創られた文化的時間は、100年前を懐古し、100年後に邂逅するような不思議な感覚を覚える。五感で感じる全てが、現代への最大の問いかけとなり、目まぐるしく生きる現代人が忘れている最も人間らしい場所へと誘ってくれる。

この総合芸術空間「T.T(タイガ・タカハシ)」と祗園茶寮「然美」は12月4日(土)にオープン。

T.T
住所:京都市東山区祗園町南側570-120 1F
時間:12:00〜19:00(水曜定休)
Tel:075-525-0402

祗園茶寮然美
創作日本茶それぞれ5品ずつからなる茶菓子懐石は、5,500円(税込)。毎月お品書きが変わる。
住所:京都市東山区祗園町南側570-120 1F
時間:13:00〜18:00(完全予約制)
Tel:075-525-4020