言葉が価値を規定する時代において、ラグジュアリーは語られることでその意味を強化してきた。素材、技術、歴史、そして職人の物語——それらはクラフトマンシップとして可視化され、価値として提示される。しかし、その前提に対し、本号はあえて別の視点を提示する。語られないものは、価値を持ち得るのか。

着想の起点となったのは、柳宗悦が『工藝の道』で説いた「無名の倫理」である。そこでは、作り手は前に出ず、反復される日常の中で美が立ち上がるとされた。美は説明されるものではなく、使われ、時間を経て、静かに現れるものだ。

本号のカバーストーリーは、この思想を現代のファッションに引き寄せる試みである。ラグジュアリーを語ることなく、あえて隠す。可視化されるはずの価値を手放すことで、なお残るものは何か。それは、名を持ちながらも主張しない服の在り方であり、あえて語らないことで立ち上がる価値に他ならない。

【本誌特集】

・ANONYMITY(表紙)
無名の倫理。工藝の美は、見せるために生まれたものではなかった。それは、語られず、名付けられず、ただ使われ続ける中で、静かに形を成していくものだった。柳宗悦が「工藝の道」と呼んだのは、技巧の卓越ではなく、人が前に出ないという倫理である。無数の生活に分配され、反復され、摩耗することで初めて立ち上がる美──そこには、作者の署名も、完成という終点も存在しない。

・ファッションエディトリアル:スーツ
DOLCE & GABBANA / FENDI / GIORGIO ARMANI / PRADA

・コラム:知られることのなかったHERMÈSのコラボレーション。
150年以上にわたり、希少性と沈黙を武器に欲望を生み出してきたHERMÈS。生産数も意思決定の過程も語らないその姿勢は、コラボレーションにおいても貫かれる。そんなメゾンが今、カレル·マルテンスと静かな対話を始めた。そのコラボは、HERMÈSの秘密主義の内側をわずかに垣間見せる

・THEN AND NOW
CELINE / TOM FORD

・インタビュー:写真家・山谷佑介
役に立たない写真家がいる。少なくとも、現在の視覚文化の基準に照らすなら。山谷佑介の実践を見ていくと、作品の様式ではなく、写真に対する前提そのものがずれていることに気づく。彼にとって中心にあるのは、完成されたイメージではない。撮影という行為ですらない。むしろ、写真が発生する状況のほうに重心が置かれている。

・フォトエディトリアル:山谷佑介

・ファッションエディトリアル:AURALEE / CELINE

・インタビュー:Études Studio
ショーは瞬時に消費され、イメージは速度の中で均質化していく状況の中で、“つくる” のではなく “編集する” という態度を一貫して続けてきたブランドがある。それが、Études Studio。彼らにとって衣服とは、形を発明するものではなく、世界を読み、組み替えるためのメディアである。

・POSSESSED BY BEAUTY
美しさに取り憑かれた社会(カラダ)。美しくあることは、自分自身を整え、社会に対して誠実であることの証明でもある。しかしその倫理は、ときに私達の身体を静かに縛りつける。SNSに並ぶ完璧な顔、終わりのないスキンケア、理想に近づくための美容医療。美しさはいつしか選択ではなく、避けることのできない基準のように振る舞いはじめる。まるで、何かに取り憑かれているかのように。

・インタビュー:Usak
裸は、芸術ではない。少なくともUsakは、そう簡単に言い換えようとはしない。性産業とエンターテインメントの境界、欲望と労働が重なる場所に立つ一人の人間として、彼の言葉を、そのまま差し出す。これは、筋肉という鎧の奥で、まだ外に出きらないエロスと向き合い続ける、一人の体の記録である。

・コラム:サーフボードに魔法をかける。
ニューヨークのサーフショップ「ピルグリム サーフ+サプライ」に、世界各地のシェイパーが集まった。彼らが追い求めるのは、性能の極限ではなく、サーファーの感覚に寄り添うマジックボードだ。 手作業によるサーフボード作りは、100年近く基本構造を変えないまま受け継がれてきた。だがその核心は完成形ではなく、波と体のあいだに生まれる感覚を探し続ける、終わりのない探求にある。

【書誌情報】
タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE16+ BOTTEGA VENETA
発売日:2026年4月24日(金)
定価:2,750円(税込)
仕様:B4型

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